Café Paradeとランチ会。「やあ、いらっしゃい。待っていたよ」
神谷がピエールを招き入れる。
「おじゃまします!」
場所はCafe Paradeではあるが、Cafe Paradeへの招待ではなく、ただのランチのお誘いである。神谷を始め、中であれこれ準備をしている他の者も私服だ。そのため、
「いらっしゃーい、ぴえーる」
「おじゃま、します!」
なのである。
「幸広、これおみやげ。ボクがいつも飲んでる紅茶」
「ありがとう。うん、今日のデザートに合いそうだな。あとで使わせてもらうよ」
「楽しみ!」
「ぴえーるがきたから、お料理をパピッと仕上げちゃおっか」
「いざ、混沌の聖域へ!」
「ボク、手伝うある?」
「運ぶときにお願いしようかな。みんなで一緒に食べるからね」
テーブルに人数分の前菜プレートとメインディッシュが並ぶ。カエールとサタンにも特別席が用意されている。ピエールのSPは職務の都合上、あまり同じ食べ物は食べない。神谷が持ち帰り用の料理を用意してくれるとのことだ。
ひびく『いただきます』の声。
「みんなで“いただきます”って、給食みたい」
「給食! 学食なら、百々人の学校の学食で食べたよ」
「オープンキャンパスみたいなあったんだってね。あたしも見てみたかったな」
「自分の通ってる学校がそんなに特色があるって、なかなか思わないけど、他校と交流するとこういうところが俺の学校なんだって思うもんね」
前菜はアスラン担当。
「先鋒たる糧は、彩りの迷宮。エバーグリーン、ホワイトキューブ、レッドルビー、ブルージュエル。そして、混沌の呼び声」
「前菜は特性無限ピーマン、洋風ひややっこ、イチゴのサラダ、青魚のマリネ、スープはお腹スッキリもずくスープって言っています」
メインディッシュはハンバーグが乗ったトマトのパスタ。ハンバーグを崩してボロネーゼのようにしてもいい、とのこと。咲と巻緒の共同作業である。
「うん、おいしいね。今度まかないを作ってもらおうかな」
「まかない、なに?」
「ピエールくんは、アルバイトしてたときに、お昼をまたいだら、お弁当出たりしなかった?」
「あった。お昼の休憩、ご飯とさしいれもらった」
「ここは食べ物を扱っているからね。スタッフ用のご飯が出るんだけど、それをまかないっていうんだ」
「あたしたちは学校があるから週末くらいしかまかない食べなかったけど、時々そういちろうがまかないおいしかったって自慢してくるんだよねー」
「うらやましいって言ったら、アスランさんが作ってくれたけど」
「ふははっ! 親しき同胞を魅了せずして、民への糧がつくれようものか!」
他愛無いおしゃべりをはさみつつ、皿はどんどんからになっていく。
「それではデザートプレートをおもちします」
「俺も紅茶を淹れてくるよ。ん?」
別のテーブルで食事を取っていたピエールのSPが一人、すっと立つ。
「お茶の淹れ方を参考にしたい? もちろん、いいとも。今日はピエールくんがもってきてくれたお茶を淹れようと思っているから、美味しく淹れてみせるとも」
そしてデザートだ。
一人用の小さいドーム状のケーキは緑色だ。ピスタチオ風味のズコット。チョコレートで作られた目と飴細工の王冠が乗っており、
「カエール!」
カエールのズコットである。
「興が乗ってなかなかのカエールさんにしてしまいましたが……」
「いただきます! ん~、おいしー!」
ピエールは躊躇なくいった。実は以前にサタンのアイシングクッキーを作った際に、アスランがめちゃくちゃ躊躇したのだ。そのため、ほとんど咲と巻緒の腹に収まったことがあった。なお、今もアスランは少し躊躇している。
「今日はみんなが作ってくれた。みんなで食べた。こんどはボクがごちそうしたい。ボク、タコ焼き、できる。みかんむく、できる!」
「タコパだね! しようしよう」
「ホットケーキの生地をタコ焼き器で焼くのもおいしいですよ。チョコレートやマシュマロをいれて」
「タコ焼きに合いそうなお茶か……」
欠けていくカエールズコットと減っていくカップの中。そして組み上げられていく次の約束でピエールは胸をいっぱいにするのだった。