THE虎牙道とラーメンを食べる。「いらっしゃい! 今日はサービスするから、腹いっぱいになっていてほしい」
「やふー! 今日はお腹ペコペコにしてきたっす!」
夕刻、混み始める少し前の時間。男道らーめんのカウンターにはいつものタケル・漣と、ピエールが座っていた。
並べられるのは成長期にふさわしい盛りの特製ラーメンである。道流自慢の一品だ。
「いただき、ます!」
道流から見て、ピエールは箸をうまく使えているが、麺をすする文化にはまだ慣れていないらしく、箸で手繰り寄せたりレンゲに乗せたりしながら食べている。他の二人とくらべてゆっくり食べることになるので、ピエールのラーメンは少しかために茹でてある。食に貪欲な漣はほめられた箸の持ち方をしていないが、何故か器用にすすれている。貪欲さがなせる技なのだろうか。タケルはというと、
「今日は控えめか?」
黙々と箸を動かしているが、いつものスピードではなかった。
「あぁ、いや……その、」
タケルは横から伸びてきたチャーシューを捉える箸を阻止しつつ、言葉のキレが悪い。道流は漣のどんぶりにチャーシューを追加した。
「みのりさんが言ってた。俺は、“馬の骨”じゃないだろうか?」
タケルは味玉の奪取を阻止した。
「あれはお約束の言葉みたいなもので、そんなに深い意味はないだろう」
笑い飛ばそうとしたが、タケルには深刻な問題のようで、険しい顔をしている。
「馬の骨、どういう意味?」
「馬の骨より、『どこの馬の骨ともしれないやつに』っていう言い方が慣用句みたいなもので、素性も知れない身元も怪しい人間、みたいな意味で使われるんだ。相手を罵るときに使うような言葉だな」
「悪口? よくない、みのりにコーギする! ボク、タケルのこと知ってる。知らないこと、いっぱいある。知ってることも、いっぱいある! タケル、強くて優しいおにいちゃん。ちょっと、恭二に似てる」
「ピエールさん……」
「タケル、最近のボクは知ってる。でも、昔のボク、知らない。ボク、馬の骨?」
「そんなことはない!」
「タケルも、そんなことない。馬の骨、ちがうよ」
「あぁ、そうだな。……ありがとう、ピエールさん」
「どうもいたしまして!」
割り切れたようで、タケルはいつものようにラーメンをすすり始めた。道流は虎視眈々と狙う漣のどんぶりに替え玉を入れた。
「男道らーめん、今日もいっぱいおいしいね」
「あぁ、そうだな。今日、たくさんがんばったから、その分おいしいんだ。いつも円城寺さんが言ってる」
「そのとおりだ!」
「がんばらなくてもオレ様が認めてやってんだ。まずいとかねえだろ!」
後日、みんなは馬の骨ではないと『みのりにコーギ』したと連絡があったのだった。