ラズライト【若葉の棋客】
立ち入り禁止の柵の向こうに猫が居た。
確かにそこは陽がよく当たるし、新たな家庭ゴミが出ない分カラスも来ない。ここなら安全ですと言わんばかりに欠伸をして、茶色い尻尾を白い身体へ上手に沿わせて呑気に蹲っている。おれのような人間たった一人だけが律儀に看板の言う事を聞いて、安全な方の道端で立ち尽くしている。
「おいで、」
小さく声を掛けてみたが、やはりと言うべきか、黒い片耳をぴくりと動かしてくれただけでとりつく島もない。暫くの間しゃがんだり舌を鳴らしたり、あれこれ試してみても可愛いあの子からはつんとそっぽを向かれたままだった。手元に釣れそうな食べ物は無いし、そこから先を勝手にやると負いきれない責任が伴う。
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