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    tokage3cv

    @tokage3cv

    掃き溜め

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    全然クラシドに見えないかもしれないふたり。クライヴくんを励ますシドの話。

    キングスフォールの後、ジルの目覚める間ぐらい。捏造多めでモブクラの描写があります。多分続く

    抱擁のゆりかごじっと耐えている。
     
    暴力、理不尽な命令。食事さえ十分ではない。時には乱暴に体を暴かれ、揺すられる。声を上げれば、殴られる。抵抗すれば、死ぬ直前まで痛めつけられた。その地獄では当たり前のことだ。同じ境遇の仲間は、気遣う素振りはしてくれるものの、決して止めてくれることはない。

    ――じっと、耐えている。全ては、弟の仇を討つために。楽になんかなれない、これは弟を守れなかった罰なのだ。
    ジリジリと身を焦がす憤怒の炎は、自らを焼き尽くしてしまうほどに熱いものだった。暖かいフェニックスの炎は、もはや自分を守ってくれることは永遠にないだろう。だって。フェニックスを殺したのは。

    ――だれ?


    クライヴは目を開け、瞬間的に喉を絞った。音にならない叫びが自らの内側で響き渡るのを、体を丸めてやり過ごす。
    滝のような脂汗が背中を濡らしていた。シャツが肌にぴたりとくっついているのがどうにも不愉快で、未だヒュウヒュウと小さく音を立てる喉元をさすりながら、のそりと起き上がる。
    隠れ家はまだ薄暗く、どうやら自分が眠り始めてあまり時間が経っていないようだった。ベアラー兵時代の悪い癖で、クライヴの身体は長い睡眠を取ることに慣れていない。幼い頃の慣れ親しんだ習慣は、13年の過酷な日常にすっかり塗り潰されていて、もはやなぞることができなくなっていた。浅い睡眠は若干の疲労を残すものの、ザンブレクにいた頃のように「人間」たちから乱暴な起こされ方をされることもなく、常に周りを警戒する必要も薄いこの状況下では、以前と比べて体力の回復速度が段違いだった。上等なものではないが、寝具があるのも有り難い。碌な食事も与えられず、冷たい床の上で震えながら意識を手放していたあの頃の自分は、今の生活を想像できないに違いない。
    起き上がった手前また横になる気にもなれず、クライヴは水を貰いに行こうとラウンジまで足を向ける。この時間は恐らくケネスが仕込みをするため厨房に立っているだろう。ついでに軽く腹を満たそうとぼんやり思いながら、空っぽの胃があるあたりをゆるく撫でた。
    居住区には無数の寝台が置いてあり、ほとんどの住人がこの区画で睡眠を取っているらしい。身体を伸ばしながら辺りを見渡すと、スペースはほとんど埋まっており、規則正しい寝息が静かな空間に沈んでいる。誰も起こさないよう息を潜めながら部屋から脱出すると、大広間の天井から漏れる優しい月明かりがクライヴを包み込んだ。

    ここに来て、どれほどの時間が経ったのだろう?
    ふとそんなことを考える。母国はどうなっている?ジルは大丈夫なのか。俺は――この隠れ家で、役に立てているのだろうか。
    一度思考の波に意識を委ねると、次々と懸念ごとが頭に浮かぶ。自分の中で”復讐”の形が定まったことで、随分と色々なことに気が回るようになったものだ。世話になっている男からは良いことだと肩を叩かれたが、クライヴからすると13年の時を経て止まっていた心臓が再び動き出したようなもので、未だ困惑することの方が多い。幼い頃はどうしていたのだったか。

    「クライヴ?こんなところで何をしてる」
    「……シド」

    思わずびくりと肩を揺らし、声の方向に頭を傾ける。気がつくと、いつからいたのか男が1人、クライヴの横に佇んでいた。
    シドルファス・テラモーン。自身のパーソナルスペースに易々と侵入を果たしたこの男は、驚くクライヴを他所に、呑気に酒瓶を傾けている。

    「いつからいたんだ?あんたも、眠れないのか」
    「いいや?酒の肴でも貰いに行こうと部屋から出たら、突っ立ってたお前さんが見えたもんでね。少しばかり観察してただけさ」

    無いとは思ったが、自棄を起こさないか……まあ念の為にな。そう付け加えたシドに、クライヴは思わず苦い顔をした。数日前の自分を見ていれば、そう思われても仕方がない。

    「しかしクライヴ、お前、そんな警戒心の薄いやつだったか?俺が近付いてから、声をかけるまで気が付かなかっただろう。……ここに来て、ガードが緩くなっちまったのかね」
    「そんなことは……ない、筈だ。今のところ、接近に気が付かなかったのはあんただけだった……次は、気をつける」
    「ふうん、俺に気を許してくれてるのか?光栄だな」

    警戒心は強い筈だった。気を許しているのかと言われれば、そうなのかもしれない。
    大袈裟な手振りで軽口を叩く男は、喜色を滲ませながらクライヴに向きなおった。深い緑の相貌は、真っ直ぐにこちらを射抜いている。まるで全てを見透かしているような瞳に、居た堪れなくなったクライヴは思わず目を逸らした。
    どうにも、やり辛い。

    「……こんな時間まで酒を?」
    「ああ。お前さん、タルヤに説教されてただろう。上手く仲裁した筈だったんだが、矛先が途中から俺に向いてね」
    「休暇を取らされたのか。あんたは休まなすぎる、丁度良いさ」
    「お前が言うのか?……まあ、だからこんな時間まで飲んでたんだ。起きていたなら、誘えばよかった」

    クライヴは自身の包帯が巻かれた腕をチラリと見た。ここの医者は腕は良いが、小言が多い。前線で盾となり剣を振るうクライヴには、この程度の傷が大したことだとは思えなかった。お前さんは心配されているんだとシドは言うが、彼は自分の後に同じように絞られている。説得力はあまり感じない。

    「そうだクライヴ、明日は休みだろう?ちょっと付き合ってくれ」
    「タルヤは、外に出るなと言っているんじゃなかったのか」
    「こっそり出ればバレやしないさ。カンタンに金を返しそびれていてな、そろそろ返さないとどやされちまう」

    シドにネチネチと嫌味を言う気難しい男の顔が、クライヴの頭に浮かぶ。確かに早く返さないと不味そうだ。
    しかし何故俺が、と疑問を口に出そうとしたところで、喀血するシドの姿が脳裏をよぎり思わず口を噤む。……あれは、ノルヴァーン砦だったか。その前後でも、調子が悪そうな彼の姿をクライヴは目撃している。
    殺しても死ななそうだ。かつて自身は彼をそう評したことがあったが(恐らく彼の仲間たちもそう思っているだろう)、弱ったシドの姿はクライヴの脳に衝撃を与えるに十分だった。もし、自分の見ていない所でこの男が死んだら?そう思うと、頭がくらくらする。……もう自分の身近な誰かを失うのは、真っ平だ。

    「おい、どうした?クライヴ」

    急に押し黙ったクライヴを心配したのか、シドは首を傾げる。クライヴは何でもない、と首を振り、男の顔をちらりと見た。深い緑は相変わらず自分を映していて、それが何故だか酷く安心した。

    「明日だったな?同行しよう。丁度体を動かしたかった。」

    シドは苦い顔で笑いながら、クライヴの肩をポンと叩いて持っていた酒瓶を手渡した。それから少し真面目な顔をして、もう一度肩を優しく叩く。まるで、幼子に言い聞かせているような、そんな調子だった。

    「戦闘は最小限だ。怪我なんてされたら、俺まで大目玉だからな」
    「わかっている」
    「日が出たら出発するぞ。支度を済ませて、少しでも休んでおけ」

    それを飲んでな。シドは手渡した酒瓶を指差しながら、踵を返した。月が沈んだ液体は、ちゃぷんと音を立てて揺らめいている。鼻腔をくすぐる強いアルコールと葡萄の香りがクライヴの脳を少し震わせた。
    ……どこまでもお節介な奴だ。
    思わず口元を緩めながら、クライヴも寝床に戻ろうと来た道を引き返す。きっと顔色が悪かったであろう自分を、彼は心配してくれたのだ。肩に残る暖かさをなぞり、息をつきながら、今なら夢も見ずに休めるかもしれないとぼんやり思う。
    小さく音を立てる自身の靴の音を聞きながら、クライヴは言われた通り瓶を傾け一息に飲み干した。
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