タイトル考えるの面倒い最近の俺は調子が良い。
「お疲れ様です!」
「おう山田!お疲れさん!今日もありがとうな〜、助かったよ!」
「こちらこそ!また困ったことがあったら呼んでください!」
「ああ!頼りにしてるぜ!」
「任せてください!」
今日の依頼は中学の頃働いていた建築現場で知り合った現場監督からの依頼だった。
彼は当時20歳になるかなるかの年頃だったが、建設する際の足場を組む事を専門とした建築会社に就職し、今や現場監督に出世している。
そんな彼から、納期が近くに若手が休んでしまい、その代打の依頼をされていた。
明日から若手が復帰するらしいので今日限りの依頼だ。
彼は現場が足りなくなった時にちょくちょく萬屋を使ってもらう常連だ。
「山田、今からみんなで飲み行くがお前も行くよな?」
「すみません、誘ってもらって申し訳ないすけど、次の仕事入れてるんで今日は無理っす。また誘ってください!」
「おう、分かった。じゃあ仕様がないな。まぁ、稼げる時に稼がねぇとな!頑張れよ!」
「ありがとうございます!はい!頑張ります!」
彼の残念そうな顔と労いの言葉に罪悪感が湧く。
心の中ですみませんと呟きながらも、表情には出さずに快活に返事をした。
彼から現金で今日の依頼代を頂いて帰りの準備をする。
更衣室で職人さん達と雑談の中にサラッと萬屋を宣伝しながら、いつもより早く着替える。
「お疲れ様でした!お先失礼します!」
「お疲れ様!また現場被ったら飲み行こうな!」
「はい是非!」
職人さん達や依頼主に挨拶をして帰路に着く。
橙色の空に藍色が混ざって、この街に夜の訪れを知らせている。
その知らせの方角に足速に歩く。
流石に汗だくなこのままの格好で行く訳にはいかない。早く家に帰って支度しなければ。
しかしそれにしても足取りが軽い。気をつけないとスキップしてしまいそうだ。だが口角も勝手に上がってきて間抜け面になってしまっている。
自分でもあからさまだと思う程に浮かれている。
早く、早く帰ってみんなで一緒に食事したい。
今日は弟達と左馬刻で食事をするのだ。
左馬刻から食事に誘われたのは、中王区の壁が崩壊して直後だった。
誤解が解消したものの、左馬刻と俺との間には微妙な雰囲気が漂っていた。
直前までディビジョンバトルで罵り合っていた訳だから、いきなり仲良くなんて無理な話しだ。それに左馬刻が俺を見る度にちょっかいをかけてくるから、俺の事を嫌っているのかと思っていた。
だから食事へ誘う左馬刻からの着信には驚いた。
左馬刻が俺と仲良くしたいと思っていた事と。左馬刻が俺のプライベート用の番号を消さずに持っていた事にだ。
なんだか感慨深い気持ちになりながら、着信に応えたのだった。
それから時間が合えば飲みに行く仲になった。
左馬刻から誘われる事も多いが、俺も時間があれば誘っている。
結構な頻度会って夜な夜な語り合っている。
勿論あの日の事、お互いどのような感情だったか腹割って話あった。
あの日裏切られた時は悔しいを通り越して絶望した。憧れの先輩と弟達を同時に失ったのだ。
弟達が無事である事を確認して、沸々と悔しさが込み上げてきた。更に自分から裏切ったクセに偽善者と俺を罵り悪態をつけてくる姿に心の底から失望した。
俺が憧れていた左馬刻はもう死んでしまったのだと思っていた。
だが、左馬刻も合歓ちゃんの命を守る為にやったという事、合歓ちゃんが新生ヒプノシスマイクにより、俺が唆して中王区に入党したという事になっていた事を知った。俺が左馬刻の立場だったら俺も憧れの先輩を裏切ったかもしれないと思えて憎しみは幾分か軽くなった。
左馬刻も何度目かの飲みの時に頭下げて謝ってくれた。あの左馬刻が。
俺はその事実に驚きすぎてしばらく何も言えず、ずっと左馬刻に頭を下げさせてしまった。
それに気づいて慌てて顔を上げさせたが、左馬刻曰くあの時は生きた心地がしなかったらしい。今や俺たちの笑い話だ。
徐々にお互いの蟠りが解れていって、俺は左馬刻の親友だと思っている。