季語シリーズ④ 茅の輪 「次のオフですが、こちらに来ませんか?」との誘いだった。
「もしよければ、茅の輪くぐりができたらと。江ノ島に神社があるんです」
「江ノ島? 茅の輪くぐりだと八幡宮の方が有名なイメージだけどー」
「ええ、大々的にやっているのはそちらの方ですね。ですが、江ノ島の神社は時期に限らず茅の輪が置いてあるんです」
六月末日と大晦日に、無病息災を願って人々は茅の輪をくぐり身についた穢れを祓う。
「三十日には間に合いませんが、どこかで北村さんとお祓いをして無病息災を祈願しておきたく」
長い階段を上り終えると、踊り場みたいな神社があった。社の前に大きな茅の輪が立っている。梅雨の晴れ間ということもあって、人はそこそこに賑わっていた。
僕たちは看板の説明文通りに茅の輪くぐりをして、神社を後にした。
「くぐるだけだからあっという間だったねー」
「八幡宮の方は毎年混んでいましたが、時期が過ぎているからか早く終わりましたね」
「毎年お参りしてるのー?」
「はい。幼い頃は家族と行っていました。最近は華村さんや猫柳さんと都内の神社で済ませていましたが」
「今年は僕とでよかったのー?」
僕が尋ねると、九郎先生は顔を赤くした。
「え、ええ。みなさん大切な方ですが、北村さんは……特に大切な方ですから、例年行ったことのないところで、今年はご一緒できたらと思っておりました」
「ふふ。なら、また来年もここに来ようねー」
九郎先生は「はい!」と勢い良く頷く。
「じゃあ、水無月食べて帰ろっかー。いいお店あるー?」
「ええ。目星は付けてあります」
僕は九郎先生の案内についていく。これから訪れる和菓子屋さんが思い出の店に、そのお店の水無月が思い出になるんだろうなと考えた。毎年六月になったら、こうして二人で江ノ島まで来たことを思い出すんだろう。それも悪くないかもしれない。欲張りて再訪祈る茅(かや)の輪に。