季語シリーズ⑭ 青簾 九郎先生の家には縁側があって、夏らしくすだれがかかっていた。普段だったら広々とした庭が見渡せて開放感のある造りなのだけれど、すだれによって遮られて、今いる部屋だけ切り取られたみたいだった。僕たちのいる方から庭は見えないし、庭の方から僕たちは見えない。
「北村さん、少しよろしいですか」
僕が返事をするより先に九郎先生は近づいてきて、頬にキスをした。
「す、すだれで隠れていますから」
「…………口じゃないんだー」
「さすがに、そこまでは……私が持ちません」
真っ赤になって、そっぽを向く。された方よりした方が照れるのって、それはないでしょと思いつつ、九郎先生らしくて僕は笑ってしまった。
「こっち向いてー」
ぐっと距離を詰め、僕は彼の唇にキスを落とす。
「ふふっ。お返し」
今度は耳まで赤く染め上げて尚の事いじらしい反応をするので、僕はもう一度からかいたくなった。