季語シリーズ⑱ こうもり「吸血鬼役……ですか」
「そう。人の血を吸ったり、こうもりに変身したりするんだってー」
北村さんはこの度、ドラマで吸血鬼を演じることになったのだと言う。
「幽霊や式神を演じてきた甲斐があったのかもー」
「日本と西洋のものではまた勝手が違うのでは」
「そうかもねー。まあ頑張ってみるよー」
北村さんは立ち上がり、部屋の明かりを消した。突然のことに、私は困惑する。
「あの、北村さん……?」
真っ暗な中、気配のする方へ呼びかけてみるが反応はない。代わりに、カタカタと窓の開く音がした。
「吸血鬼は、こんな風に窓から入ってくるんだよー。初めての場所は誰かに招いてもらえないと入れないらしいよー」
外からの風でカーテンがはためく。月明かりを取り込んで、北村さんの瞳が妖しく紅く光った。
いつもの北村さんではない。演技だろうか。それとも……。まさか、そんなことあるはずないと馬鹿げた考えを否定しつつも、完全には捨てきれない。
紅い瞳に、取り込まれてしまいそうだった。この世ならざるものを見てしまった気がして、私は動けない。北村さんはまっすぐこちらへ近づいてくる。
「じっとしててねー」
耳元でそうささやきながら、ゆっくりと私の首筋を撫ぜる。品定めをするみたく。
「ふふ。この後、どうしてほしいー?」
そんなこと、決まっている。ひとつしかない。はやく、はやくしてほしい。
私は懇願しながら、震える手で襟元を緩めた。「いい子」と声がしたような気がして、次の瞬間には、ちくりと鋭い痛みが走った。