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    you_mirn877

    トワイライト・ウォリアーズ。洛信。

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    you_mirn877

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    九龍
    王九にダル絡みされる洛軍と信一
    まだ平穏な頃のお話

    #トワイライト・ウォリアーズ
    #洛信
    #洛軍
    #信一
    #王九

    外の店に飲みに行こう、と信一が誘いに来たのは、ちょうど洛軍がその日の仕事を終え、自室で人心地つこうとしていた時だった。
    信一はハリのある清潔なシャツにネクタイを緩く結び、鮮やかな青色の革ジャンを羽織って完全によそ行きの服装だった。サングラスまでかけて。夜なのに。
    無言で信一の姿をまじまじと眺めていると、洛軍が散財を躊躇っていると勘違いしたのか、信一は「おごるぜ?」と言って、洛軍の腕を引いた。


         


    信一に連れられて夜の歓楽街を行く。
    城砦に辿り着いてから、外に出るのは今日が初めてだった。あとから十二も合流するからな、と陽気に歩く信一の後ろで、洛軍と言えば警邏の警察官が視界に入るたびに緊張していた。

    「大丈夫だって。ビクビクしてる方が怪しまれる」

    なんかあったら俺が上手くやるからと、笑顔の信一にポンポンと背を叩かれて、身体の強張りが少し解けた。

    「そういえば四仔は呼ばなかったのか」

    「あいつは城砦の外には出たがらないからな。今日は声かけてないんだ。
    それはそうと」

    信一は洛軍を一瞥した。

    「またそれを着てる。どうして他の服を着ないんだ?」

    洛軍は地味な色をしたラフなポロシャツを着ていた。襟がくたびれ始めているが、肌触りが良く窮屈でない着心地が気に入って、よく着ていた。

    「その服は部屋着のつもりで貸したんだ」

    身一つで香港に来た洛軍には、所持品と言えるものがほとんどなかった。今、洛軍が持っている服は、みな信一から譲り受けたものだ。
    洛軍のファッションに関する知識は無に等しいが、信一の服装が洒落ているのは分かる。
    譲られた服の中にも、色鮮やかなもの、形が美しいと思うものが多くある。それらを信一が纏ったならば、きっと素晴らしく映えて見えるのだろう。
    ただ、そのような服を着た自分を想像すると、どこか居た堪れなさを覚え、まだ袖を通せずにいた。

    「まあいいわ。そうだ、今度俺が上から下まで見立ててやるよ」

    そんな洛軍の気も知らず、さも名案だという風にはしゃぐ信一。
    その状況は、想像するだに気恥ずかしい。
    ただ、信一が洛軍のために何かをしてくれるという一点が得も言われず嬉しく、洛軍はぎこちなく何度も頷いた。


         


    目当ての店まであと僅かというところで、思いも寄らぬ相手に再会した。

    「誰かと思えば、こんなところで会うとはなぁ〜〜!」

    けたたましい声に目をやると、香港に着いた当初、洛軍を騙し、金を奪い取った一味の男がいた。忘れたくても忘れられない顔だ。
    人相の悪い取り巻きを幾人も引き連れたその男は、大げさな身振りでニヤニヤと近づいてくる。

    「よお、王九。別に会いたくなかったけどな」

    王九と呼ばれたそいつは、品定めするような視線を信一に投げかけた。

    「なんだァ、派手にめかしこんで、女でも引っ掛けに行こうってか。え?」

    王九に絡まれた信一は全く動じておらず、ただ肩を竦めたのみだったが、洛軍の胸にはふつふつと苛立ちが生まれていた。
    酒が入っているのか、王九は管を巻きながら少しずつ信一へ距離を詰めてくる。今にも顔と顔が触れ合いそうな程に近く。
    思わず洛軍は二人の間に割って入った。

    「信一に近づくな。それに信一は派手じゃない。お前の方が派手だ」

    言うべき言葉がうまく見つけられなかったが、何かを言い返してやらないと気が済まなかった。
    信一を庇うように王九の前に立つと、元々狭かった空間にみっちりと三人が並び立つ形となった。
    すると、信一がスッ……と身を引いて、だいぶ遠巻きになる。

    「いや、三人で密着してる意味がわかんなかったから…」

    傷ついた目を向けた洛軍に、言い訳をする信一だった。

    「居着いた野良犬に随分と懐かれてるじゃねえか、流石だなぁ〜〜色男!!ヒャッハッハ!!」

    手を叩きながら声を上げて騒ぐ王九に、洛軍は徐々に冷静さを失う。

    「黙れ、馬鹿にするな。俺は野良犬じゃない。信一も色男じゃない」

    「最後のは否定しなくても良くないか?」

    信一のツッコミも耳に入らぬほどには、洛軍はヒートアップしている。怒る洛軍を王九はひたすら面白がり、からかっている。
    洛軍の一件が、龍捲風の図らいで手打ちとなったのは双方ともが知るところだ。
    だから、王九は軽口を叩くばかりで手を出してこず、頭に血が上った洛軍も、龍捲風への恩を思えば拳に訴えることはしないだろう。不味い事態にはなるまい。
    信一は、胸ポケットから煙草を一本取り出し火を付けた。


         


    「何やってんだアイツら。あとお前」

    悠々と紫煙を吐きつつ目の前の騒動を眺める信一の隣で、来ない二人を迎えに来た十二は呆れ顔を隠しもしない。

    「なかなか来ねえと思ったら。止めなくていいのか?」

    心配そうに見守る十二に、信一はしばし思案する。

    「まあ、手が出そうになったら止める。今のところ大丈夫そうだし。それに」

    「それに、何?」

    十二は、悠長な返事を寄越す信一を胡散臭そうに見つめる。

    「洛軍が俺のために頑張ってるのが、なんか良いなと思って」

    「なんだその理由は」

    信一は脱力する十二を見てひとしきりケラケラ笑うと、「俺にもよく分からん」と小首を傾げた。





    まだ嵐が起きる前の、穏やかな夜の一幕。




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