ぐだと教授で映像を見る話発端は数ヶ月前、週末の図書館。
一本の映像資料を借り受けていた我がマスターに、何を借りたのだね、と声を掛けたコトだった。
「……へへ。これ、なんだけど――」
言いながら彼女がそろりと、何故だか観念したような表情で資料のパッケージを私へと向ける。整った顔立ちの、鹿撃ち帽を被る壮年の男がそこに佇んでいた。おまけにばっちり、合いたくもなかった目も合って。
「えと……、その、あのさ教授! 良かったら一緒に、観ませんか」
「イ――」
拒否するコトも出来ただろう。けれど。
引く手数多の彼女だ。今この場で出会わなければ、恐らく声を掛けられるコトもなく、彼女は一人、ないしは他の誰か、最悪の場合は奴自身とともに、あれを観る可能性も考えられた。そうした姿を思うと、胸の内がざりざりと、砂で擦られるような心地がした。ならば。
「――い、ヨ?」
我が身の有限有意義な時間の幾許かを――マスターにおかれては大変に申し訳無く思うのだが――非生産的な時間に割くようになろうとも、この誘いは寧ろ僥倖だったのだと。
「いいの……!? ありがとう!!」
あの日あの時、彼女のほっとしたような笑顔を見た私は、思ってしまったのだ。