来世までのカウントダウン(ただしタイマーは悪魔の手の上) それは雪は降らずとも芯から冷える日のこと。
誰もが口を閉じるような北風が吹く、別れを告げるにはお誂え向きの黄昏時のことだった。
「デルウハ殿、今世もお世話になりました」
別れ際に放つにしては少々重みのある言葉を、所は年末の挨拶のような気持ちで口にした。
ターミナル駅の出入り口は絶え間なく人が通り、車通りが激しく、雑音が多い。だから聞こえないか聞き返されるだろうと思っていた。
「あ?」
案の定、目の前の巨躯は疑わし気な顔でこちらを振り向いた。
『前』の彼であれば針が落ちる音にも反応していただろう。雑踏での一言を聞き逃してしまうということは、それだけ彼の周りも平和だったということだ。それはとても良い兆候だ、と所は思う。
1682