Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ashins_AS

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🐱 😍
    POIPOI 9

    ashins_AS

    ☆quiet follow

    第36回のお題『大嫌い』お借りします。
    秋の🍁話です。

    #杏千版ドロライ

    #杏千
    apricotChien

    秋の初め頃に ※大正軸
     ※杏(→)←千



     いつからかわからない、散る枯れ葉は彼が一番嫌いな景色になった。

     少年は隊服を着てる男の背中を見つめ、静かに部屋の隅に立っていた。両手には綺麗に畳まれた真っ白の羽織、その上には赫き炎刀が置いてあった。物静かな雰囲気の中、布が擦れる音だけが聞こえ、外から吹く風は秋の深まりを感じさせた。時々、先ほど男が言った言葉を連れて、彼の耳元へ何度も何度も繰り返す。


     『千寿郎、そろそろ時間だ。』


     遠くに響く悠々とした鐘の音が静謐な空間に広がる、その言葉が絡み合い、頭の中の一番空っぽな場所に鳴り響いている。千寿郎は我に返り、机の上にある置時計をチラッと見ると、指針は午後4時にきちんと止まった。

     まだ出発するには早いのに。彼は心の中で思った。

     庭に目を向けると、夕暮れはすでに縁側を超えて、勝手に部屋にまで入っていた。鬱金色の落陽が紙戸を貫いて部屋の隅々まで満遍なく散らばって、同時に男の肩に照らして、光がかかったその赤金色の髪は秋深まる紅葉のように美しい。

     たったその一瞬、彼は魅了されて、幼い頃兄と落ち葉を踏みしめながら遊んだ日々を思い出した。記憶の中のあの暖かくて大きな手は、いつも自分の手を繋いだら離さない。日が暮れると二人は互いに寄り添い、帰り道には金色の落ち葉が降りしきり、パサパサと足音が響いていた。

     彼の兄はいつも笑いながら、『兄はこの時間が一番大好きだ。』、と言っていた。

     しかし、兄上が一番好きだというこの時間が、彼にとっては一番嫌いな時間だ。



     「すまない、千寿郎。」彼の兄が急に自分の名前を呼んで、ベルトを締めながら、制服襟の最後のボタンを留めた、「晩御飯を食べてから出ていては時間が足りなかった。」

     「いいえ、大丈夫です、気にしないでください。鬼殺隊の仕事が最も優先することなので。」

     千寿郎は、その数分前ほっといた台所を思い出した。日が沈む前に夕食の準備をするため最善を尽くしたにもかかわらず、それは叶わなかった。

     「おにぎりを用意してあります。一緒に持って行ってください。」

     「兄として不甲斐なし、いつも千寿郎には迷惑をかけるな。」

     「いいえ、とんでもないです。」彼は苦い口調を抑えてながら言った、「そんなこと言わないでください、兄上。」

     前に歩み軽く腕を上げ、日輪刀と羽織を渡すと、彼の兄もちょうどこっちに振り返った。いつも凛然とした眉間には少し、詫びの気持ちが表れている。千寿郎にはそれがはっきり見えていた。

     寒気が心の中に突き刺さった。それは外の夜風のせいか、あるいは兄が心の底から詫びているからなのか、彼もよくわからないまま、胸の中にジンジンと痛みを感じていた。

     「僕自身が好きだからやっているんです。」
      いや、全然違う、彼はそれが大嫌いなのに。


     そういえば、もう彼の兄が柱になってから二回目の秋だ。食材が豊富である季節柄、多くの料理を準備する余裕はあるはずだが、あの人はいつも忙しくて、休日があったとしてもほとんど時間がなく、泊まる暇もなくなった。

     昔、兄と約束した、粉雪が降る朝、彼は必ず全ての家事を早めに終わらせて、家の前に立って待っていた。心配と不安の気持ちが頭の中を占め、白くなった吐息と、ずっと残っていた。
     もうどれくらい経ったかもわからない頃、銀白の小道の先にあの馴染みある金色の姿が現れると、雪に覆われた両肩が軽くなり、ようやく安心する事ができる。

     しばらく経って花が咲く、春が訪れた季節に、帰ってきた兄の姿は落ちた桜の花びらに染まった、その光景は何度も彼を心から笑わせるほど滑稽であった。彼の兄はいつも遠慮なく彼を引っ張って、炎柄の羽織で囲んでぎゅっと抱きしめる、そうすると、白とピンクの花びらがその人の笑い声に合わせて、お互いの髪や服に付いた。

     梅雨が近づいて、薄明の蒸し暑い空気と蝉の音に彼を苦しめられ、早く起きてしまった。寝返り、まだ意識が朦朧としている中、彼の兄はすでに枕元に座っており「おはよう」と声をかけてくる。

     『今回の任務は早く終わったから、早めに帰ってきたんだ。』

     その瞬間、彼の意識は完全に醒めたが、まだ朦朧状態であると見せかけ、枕元の服の角を握りしめ、その人についた塵や汗の匂いを嗅ぎながら、まるで寝言のように「兄上、兄上」と、何度も呟いた。

     『もう少し寝てていい、兄が家にいない間、大変だっただろう。』

     彼の兄はいつも陽射しに背を向ける位置に正座していた、手のひらで彼の耳元を覆い、指で頬を優しく撫でていた。兄は自分が狸寝入りしていることを知っていたが、貪欲に甘え寄り添う姿そして口角が上がっていることは、陽の光がないため、彼の兄からははっきりと見えなかった。

     しかし、残暑が過ぎ昼は短くなり、一緒に食事をしたり、一緒に稽古をしたり、一緒に散歩をしたり、縁廊に座って、寄り添いながら悠々と話したりすることのできる時間はだんだんと短くなっていった。

     言いたいことが多くて言い切れない日々が増えたため、兄と楽しく過ごすにはまだまだ時間が足りなかった。夕日は沈み、容赦なく時間は過ぎてしまった。

     暗くなる時間が早まれば、鬼が出る時間も早まり;明るくなる時間が遅くなれば、鬼殺隊の仕事も必然的に長引くのだ。

     その後、彼の兄はほぼお昼近くの時しか、首を長くして待っていた街から現れなかった。

     だから、一番嫌いだった。
     彼は、兄との時間を奪い取ってしまうこの季節が一番嫌いだ。





     「千寿郎、今日は玄関まででいいんだ。」

     言葉が耳に入って、千寿郎は自分がまた気を散らしていたことに気づいた。

     「あ……大丈夫です、外まで見送りさせてください。」

     ただ何分でもいい、もっと兄のそばに居られれば、あの人の姿と声をちゃんと記憶に刻むことができる。

     「千寿郎は勉強と稽古以外にも、ちゃんと食べて、ちゃんと寝るように。健康な精神と身体は何よりも大事だ。」
     「今日話しきれなかった部分は、また手紙で続けよう。任務が終わったら要に手紙を送らせよう。」
     「次の休暇前に、任務で近くに寄る機会があれば、家に帰ってくる。」
     「段々寒くなってきた、もうすぐ冬になる。千寿郎と父上はちゃんと体を暖かくして体調に気を付けてくれ。」

     「家の事はご心配なさらず行ってきてください、いつも通りに。」

     千寿郎はささやきながら返事をした、兄からの数えきれない別れ話を聞きながら、瞬く間に、心がどこへ行ったのかまた分からなかった。

     本当は台所に行って、もう少し時間を稼ぎたかったが、気がつけば二人はもう煉獄家の門外を出たところだった。

     可能ならば、もっと兄と一緒の時間を過ごしたい。だがそれは不可能で、要求すべきではなかった。

     彼ができる、やるべき事は、小さい事も、こうした苦くてたまらない気持ちを全て飲み込み、腹の奥深くに隠し、そして、静かに手の中の火打石を叩いて彼の兄の武運を願い、すべてが平穏に順調に進むことを祈ることだ。

     ただ、毎回家の前に立ち、兄上の背中を見つめて見送りするのは、長くて永遠に終わらない時間のようで、秋と比べるとさらに長く感じる。

     嫌いだ、本当に大嫌いだーー





     「千寿郎、ちょっと動かないでくれ。」

     「え?」

     彼の兄は彼の頭から一枚の落ち葉を取った。

     「うむ、先の風に連れてきたのか?お前の髪の色とまったく同じで、気づかないところだった。」

     千寿郎が手を伸ばして取った葉をじっと見つめると、形が整った小さな楓の葉だった。その葉っぱはすでに黄ばんでいたが、葉先だけには鮮やかな赤に染まれて、彼の兄の髪の毛と同じように見える。

     兄上の髪の色ともまったく同じです。彼はそう思っただけで、言葉にできなかった。胸がまだよくわからない痛みを感じて目を伏せる。

     次に兄に会えるのはいつになるかもうわからない、最後の一枚の枯葉が風に吹かれ落ちるまで、何の音沙汰もないかもしれない。

     彼は本当にそれが嫌いだった。毎日ひとりで落ち葉を数え、鎹鴉が手紙を持って帰ってくるのを待つ日々が嫌いだった。

     こんな毎日が彼にとって、とても長すぎる。
     寂しくて、悲しくて、孤独であまりにも辛いものだったーー



     「あの紅葉、俺が持って帰ってもいいか?」

     少し頭を上げて、千寿郎は不思議そうにその人を見つめた、少し躊躇った後、葉っぱを手渡した。

     「懐かしいな、俺は銀杏の色が千寿郎だとずっと思っていたんだ、でも今この楓の葉がお前の色とそっくりに見えてきたんだ。」

     彼の兄が胸位置のポケットの中からハンカチを取り出して、丁寧に広げ、その上に葉っぱを置いた後、丁寧にハンカチを折り、再びポケットにしまった。

     「千寿郎もそう思うだろう?」

     彼の兄が微笑みながら言った言葉に、なぜか、また幼い頃思い出した。兄はいつも散らばった落ち葉の中から最も美しい銀杏を見つけ、目の前に摘まみ上げて笑いながら言った。

     『毎年秋になると、山に満遍なく染まっている山吹色は千寿郎の髪の色のようで美しい、兄は秋が好きだ。』


     『俺も千寿郎が大好きだーー』





     「毎年秋になると、銀杏と僕の髪の色がいつも似ているとおっしゃって、あなたは大好きな季節だと仰っていました。」彼は兄と目が合った。「今、楓の葉に変わっても、兄上はまだこの季節が一番好きですか?」

     まるで自分が単純で可愛らしい質問をしたかのように、彼の兄は笑い出した、そして身をしゃがんで、軽く彼の手を握った。

     「千寿郎がいる季節であれば、俺は全部好きだ。」彼の兄は微笑みながらとても優しい口調で答えた。「千寿郎はどう思う?」

     あの暖かい大きな手をこっそり握り返し、彼も大人しく笑った。

     「僕もです。兄上のそばにいられるなら。」

     だから、彼は秋が一番大嫌いだ。



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏😭🍂🍁💞😭👏👏😭😭😭🙏🍁🙏🍁🙏🍁🙏🍁🙏🍁🍁😭😭😭😭😭👏👏👏🍁🍁🍁👏😭🙏🍁🍁👏😭🍁🙏😭🙏👏💖💘😭🙏😭💕💘😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works