杏千版ドロライ 第21回
お題:『染まる』『爪』『勉強』
あにうえは、いま おべんきょうちゅうです。りっぱなたいしになるためには、たんれんだけでなく おべんきょうもしなくてはいけないと あにうえはいいました。
せんは まだおべんきょうはむつかしくて よくわかりません。けど いつか ぼくもたくさんおべんきょうをして、りっぱなたいしになります。
おべんきょうちゅうは あにうえは ぼくとあそんでくれません。たんれんのときは ぼくに ほのおのかたをみせてくれたりして とってもたのしいです。けど、おべんきょうちゅうは せんのことをみてくれません。さみしくて つめがのびたおゆびで あにうえのおなかをツンツンしたら こらっておこられちゃいました。はやく おべんきょうおわらないかなぁ。
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千寿郎は今勉強中だ。立派な隊士になるため、人の役に立つためだと学校でも習っていない分野の勉強をしているらしい。今は、俺のためにと医学書に目を通している。さっき覗いてみたがさっぱり理解が出来なかった。千寿郎はこんな本を理解出来るほど賢い子になったのだと感服した。
だが、勉強中、千寿郎は俺に構ってくれない。俺が脇腹でもつついて悪戯をしようものなら「兄上、もう!」と窘められてしまう。そう言って怒る顔も可愛らしいことこの上ないのだが。早く本を閉じて俺を見てくれないものかと、ジッと千寿郎の横顔を見つめていると、次第にその頬が赤く染まり出した。照れているのだろうか、俺を視界から外すかのように、ゆっくりとそっぽを向かれてしまう。すると、今度は紅潮しだした耳と項がよく見えた。
うむ。金糸がかかる細い項は、どうもそそってしまう。俺が千寿郎の項を好んでいるのは、千寿郎自身も知っているはずなのに、それを敢えて見せつけてくれるとは。
「よもや、誘ってくれているのか」
心の声が思わず口から出てしまったが、仕方がない。わざと爪を立て、するりと赤い項に指を滑らせると、千寿郎は観念したのか漸く本を閉じた。