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    soujiro_naki26

    @hotateuni_Naki

    泣鬼です

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    soujiro_naki26

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    紗蒼日常SS たまに幼なじみ
    本編二十一話のクソ長Cパート

    いい夢を逸世と志織を見送った昼前時。寝不足由来の欠伸を噛み殺しながら自室へ戻っていく海月らの背におやすみと投げかけ、蒼樹は紗世に向き直った。二人きりの緊張感に紗世はそろりと視線を落として。空いた間を埋めるような苦笑とともに蒼樹は頬を掻く。

    「気楽に、っつっても、そんな急に無理だよな。悪い」
    「っ、いえ……」

    気遣うような口調へ首を振った咄嗟の否定。だってこの気まずさの原因は他でもない自分だ。むしろ気を使わせたことに謝罪。

    「あっはは、いいって。……じゃ、自己紹介からやり直そっか。私は蒼樹。よろしくな」
    「……紗世、です。……よろしくお願いします」

    うん、と満足げに笑う彼女を見つめて。可愛い人だ、と思った。年上の女性に可愛い、は、少し無礼だろうが。でもそれ以上の言葉は見つからずに、柔らかい雰囲気の一番の所以であろう優しげなたれ目が微笑に細められる。

    「……っと、疲れたよな、少し休みなよ。おいで」

    そう席を立った蒼樹に連れられて。〝家〟の廊下。サイドの部屋から微かに漏れ聞こえてくる住人の気配。彼女の素足と紗世の靴下越しの足音が揃う。

    「うちは基本バディで相部屋なんだ。……だから人数と部屋数的に紗世は私と相部屋になっちゃうんだけど。私は寝る時くらいしか使わないから、好きに使ってよ」

    申し訳なさそうな苦笑とともにここだ、と開けられた部屋のドア。「ちょっと散らかってるかも」と通された部屋は想像に反し酷く殺風景だった。お香のような香りに混じる煙草の微かな煙たさと、最低限の家具があるだけの。それ以外あげる点が見当たらないほど生活感の欠片も無い部屋に言葉は出ず。

    足を踏み入れ部屋を見渡して。中央に置かれたローテーブルの上、灰皿に山になった吸い殻が視界へ飛び込んだ。ひっそり、喫驚。

    「おっ……と」

    狼狽えたような蒼樹の声と、白檀の香とともに塞がれた視界。

    「ごめん。……見なかったことにして?もうここじゃ吸わないから」

    約束、と絡め取られた小指。意外にも近い距離感に少し緊張が解れた。待ってね、と適当に整頓されていく様を大人しく見守る。

    「――こんなもんか。……夜通し遊んだんだ、ちょっと寝るだろ?嫌じゃなければベッド使って。トイレは出て右な?……悪いけど私はちょっと野暮用があって上行くよ。……なんか困ったら海月っちも居るから。部屋は出て向かいの左側ね」
    「……あ、っ、はい」

    業務連絡のような早口でそう告げられて。返事に、また蒼樹は柔らかく微笑む。そのままおやすみ、とだけ言い置き、彼女はバタバタと部屋を出て行った。一人残された慣れない部屋。眠いのは確か。ただ当然、まだそわそわと気分は落ち着かない。

    「……」

    取り敢えずと部屋を徘徊。下手な遠慮も失礼だろうが、かと言って素直にベッドを占領しようともまだ思えず。意味もなくすり足で歩き回ってふと、目線がベッドサイドに置かれた写真立てを捉えた。誘われるように足が向く。

    旅行中の写真だろうか。緑がかった銀髪の女性と写る蒼樹の姿。部屋の寂しさとは対照的に、今より幼く見える幸せそうな笑顔。

    (……友達、かな……バディさんかも……仲良しそう)

    そこまで考えてふと、蒼樹が兄に言っていた言葉を思い出した。『部屋の狭さも恋しくなってきた頃』。その意味をじわりと理解して、途端にこの寂しさの正体を察する。葬儀屋の仕事は知っている。その過酷さも、理不尽も。あまりに分かりやすく出揃ってしまったヒントに喉が絞まって。恐らく、彼女は。

    「………ううん」

    やめよう、と人知れず頭を振る。人の大切な記憶だ。何の関係もない者が勝手な想像で心を痛めるなど無作法。それが葬儀屋ならばなおさらに。

    少し迷ってから、紗世はベッドの端に腰掛けた。紗世一人では広すぎるセミダブル。ふわ、とまたお香のような香りが立ち、程よいマットの反発が眠気を誘う。

    部屋の薄暗さに回数も忘れた欠伸。疲れと増した眠気に素直に従い、紗世は静かに目を閉じた。



    『おりぃぶ』の上階に位置する診療所。ここは雑踏も遠く酷く静かだ。普通気にならないクーラーの動作音すらやけに大きく響く。

    「……どぉすっかなぁ……」

    紗世。『墓守』を監督する八重桜家の令嬢。蒼樹自ら逸世に預かると言ったはいいが、蒼樹自身も妹の身だ。年下の、しかも年頃の女子の相手は不慣れである。

    誤魔化しのように、トン、と手元の書類をまとめて。気分転換にでもと予定していたしばらくぶりの机上整理。広げたまま放られていた参考書に時折意識を奪われながら、処置道具の在庫確認までを済ませた時、エレベーターの開く音が鳴った。

    「……ソウ。ご飯、出来たよ」

    言いながら入って来た幼なじみの姿を捉えて。そんな時間か、と壁の時計を見やる。時刻は昼過ぎ。思い出された空腹を自覚。手にしていた残りの資料も片付けて、伸びをしながら臨の傍へ歩み寄る。

    「んーっ……、お腹減った!今日何?」
    「焼きうどん」
    「やった、野菜マシマシ?」
    「うん。肉も、安かった」
    「わはは、もう美味いわ」

    年季入りのエレベーターに運ばれて。〝家〟の共有スペース。広いダイニングテーブルの上で湯気を立てる二人分と、ラップをかけられた三人分の昼食。

    「海月っち寝た?」
    「爆睡してたよ。……多分、お嬢さんも。一応ノックしてみた」
    「そっか、よかったよかった」

    いただきます、と揃い響く二人分の声。燈莉らも明け方から出張に出ていて不在。普段賑やかな〝家〟は、今は比較的閑散としていた。

    「……うっま、ごま油天才。シェフ呼んでくれる?」
    「どうもどうも、俺です。――追い紅生姜、する?」
    「いいんですかあシェフぅ」

    と言えど寂しさは皆無。食器の心地よく触れ合う音とだらけた会話がその証拠で。ちょうどよく盛られた料理も半分まで減った頃、臨がふっと真面目な面持ちで口を開いた。

    「――お嬢さんは、馴染めそうか?」
    「……んー、多分。さすがにまだ緊張してたけど」
    「お出かけでもしてきたらどうだ?ソウは得意だろ、そういうの」

    臨の提案に思わず目が泳ぐ。

    「ふ、二人で?若い子が喜ぶとこなんて私知らないよ……」
    「なに、そんな難しく考えなくても……買い物だけでもいいんじゃないのか?実際、あの子の私物だってないんだし」

    一理ある、と皿に残る野菜を口へ運んで。咀嚼し嚥下して、じゃあさ、と臨の双眸を覗き込む。

    「臨、明日暇?」
    「なに、明日?待ってね…………暇だが」

    悪戯を企む子供へ向けるような臨の目線に笑って返す。

    「じゃあさじゃあさ、車出してよ」
    「……、構わん、けど……俺も行くってことか?」
    「やだ?」
    「……俺は……別に。……ほら、あの子が気まずくないか、急には……。留守番は俺がしとくから海月と未遥を……」
    「つべこべ言わない!その気まずさを無くすための、だろお?電車じゃ荷物も大変だろうしさ、ね、お願いだよ。可愛い幼なじみの頼みだぞ」

    二人きりは、さすがにまだ互いに落ち着かないだろうと。勢いで押し切る蒼樹の頼みに臨はやがて諦めたようにうんと頷いた。

    「……皿、洗えよ」
    「そりゃあよろこんで。ごちそうさま」

    ***

    寝返りにベッドが軋んで。音に、ふっと目が覚める。どれほど眠っていたのだろう。疲れの取れようから察するに、だいぶ長い間熟睡していたのは確かだ。地下に位置する窓のない部屋では時間感覚がどうも狂う。

    すっかり疲れの取れた、むしろ長時間の睡眠に気持ちのいいだるさすらある身体でむくと起き上がって、向かいに置かれたソファで寝そべる蒼樹の姿が見えた。

    彼女が紗世の起床に気付く。

    「――お、おはよ」

    かけられた声にやがて頭が覚醒。弾かれ、転げ落ちるようにベッドから抜け出る。

    「っ……ご、ごめんなさいっ私」

    咄嗟に出た謝罪。持ち主である蒼樹を差し置いてベッドを占領するなど図太いにも程があるだろうと。だが寝起きに声は掠れていて。紗世の慌てように、しかし蒼樹は嬉しそうに笑った。

    「良いんだよぉ。よく眠れた?」
    「ぅ……っ、……はい」

    顔が熱い。あまりの恥ずかしさに表情を覆い隠した紗世の頭を、蒼樹は優しく撫でた。寝癖に緩くはねた黒髪を細い指が梳いていく。

    「よかった。眠れなかったらって心配だったんだ」

    睡眠は大事だからな、と付け加えた彼女にその本職の影を見て。

    「……そうだ、お腹減ってないか?お昼のだけど、チンしよっか。重かったらなんか食べたいもの作るよ」

    向けられた目線の先、〝さよ〟とペン書きされた付箋と共に、丁寧にラップがかけられた焼きうどんを視認し思わず破顔。確かに寝起きには重そうだ、けれど。自分の分も用意されていた、それだけで満たされるほど嬉しくて。そっと自身の腹をさすってみせる。

    「――お腹、空いちゃった。それ、食べても……いいんですか?」

    これを受け取らない選択肢はないだろうと。紗世の言葉に、もちろん、と明るい声が返る。


    いただきます、と温められた料理を口へ運んで。野菜のたっぷり入ったそれは意外にもあっさりとしていて。時間の経過故に少しくたりとした食感が却って麺とよく合い箸は止まらない。

    「美味しい?」
    「――うんっ」
    「ふはっ、そっかぁ。臨にも言ってやってよ、きっと喜ぶからさ」

    紗世を眺める蒼樹に母親が重なって。紗世、と優しく呼ぶ声に箸を止め応える。

    「……明日さ、お出かけしないか?臨……あ、あのでっかいのが車出してくれるって。紗世の日用品とか、新しいの買いに行こう」
    「私の……?」
    「うん。服とかもさ。その箸だってそうだよ。……うちの子になるんだ。いつまでもお泊まりセットは寂しいだろ?急に言われても困るだろうけど、遠慮とかほんとにいいから、な?」

    彼女の言葉を、時間をかけて反芻。あまりの温かさにツン、と鼻奥が疼く。

    「――っ、……うん。……ありがとう、蒼樹さん」
    「ん、どおいたしまして」

    いつの間に空になっていた皿に手を合わせて。綺麗に平らげられたそれを見て蒼樹は満足げに微笑む。


    ふと、誰かが部屋の扉を二度ノックする音。蒼樹の返事にゆっくり開いた扉の隙間から海月が顔を出した。

    「お風呂、空いたよ」

    惚けたような空気を纏った彼の声。しっとりと濡れたままの髪と薄いシャンプーの香。はいよ、と適当な蒼樹の応答に浸る。

    「――紗世、先行く?服は……取り敢えず私のでいいよな」
    「うん、ありがとう」


    案内されたシャワールームはまだすっきりと甘く香る湿度に包まれ温かくて。今日一日で受け取った彼らの穏やかな日常を思い返す。傭兵とはまた違った、和んだ人の気配。かつて経験した修学旅行のような、身内同士の心地よいむず痒さ。

    (好き、だなぁ)

    彼らだけじゃない。傭兵だって。母数の少ない〝人形ドール〟という人種故の距離感が。

    少し強いシャワーの水圧すらも可笑しくて。狭いシャワールームにクスクスと一人紗世の笑い声が響く。

    上がり着替えた蒼樹の部屋着は、案の定サイズが合わずにぶかぶかだった。



    死体の気配は無い、平和な夜更かし。今いる皆で揃い遅めにとった夕食と、スナック菓子を開けつつ白熱した対戦ゲーム。先の二人との夜遊びが理由か、初日というのを忘れるほど紗世は葬儀屋の夜を満喫して。

    深夜の十二時を回った頃、疎らに揃い始めた欠伸を合図に夜更かしはお開き。

    交わしあった就寝の挨拶の末に戻った自室。鼻に馴染み始めた蒼樹の香りに健やかな眠気がぶり返す。

    「寝ようか、明日も出かけるし」

    異論なし。ただ当たり前のようにソファへ直行する蒼樹を思わず呼び止める。

    「そこで寝るの……?」
    「……ん?あぁ、紗世ベッド使いな?私どこでも寝れるから」
    「っでも……」

    紗世の反論を諭すように。優しいな、と蒼樹は微笑む。

    「ありがと。でも私が嫌なんだよ、紗世をソファで寝かすなんて。ね、ここくらいカッコつけさせて?」
    「……っ、」

    手馴れた所作で撫でられる頭に絆されて。しかし抗うように蒼樹の裾を引く。

    「……、?」
    「……じゃあ、……一緒に、寝よう、?」
    「――は、っぁ?」

    見上げて。呆気にとられた蒼樹の表情が飛び込む。否定的な感情は感じられない。ほんのり赤く染った耳を見て、こんな顔もできるのかと、やけに冷静な思考に自分でも驚く。

    「………いや、私は……、ほら、狭くなるだろ?」
    「いいもん。……ううん。……そっちのがいい」

    彼女の灰緑の双眸を見つめる。ただ気まずいだけじゃない。図らずも感じ取ってしまった、蒼樹の明るさの最奥にある寂しさを。和らげてやろうとなど、そんな偉そうなことは思っていない。ただ、横にいるくらいなら。少しでもそれで気が紛れるなら。紗世を受け入れてくれた、せめてもの恩返しとして。

    「……その、一緒に寝たら、寂しくないかな……って」

    言うと蒼樹はやはり笑って。

    「私、寂しそうに見えた?」

    悪戯っぽくそう言ってみせる彼女に首を振る。

    「……私が寂しいの。だから……」

    沈黙が返って次に、ふ、と蒼樹は吹き出した。

    「――負けた、お前の勝ちだよ、紗世」

    刹那。一層強いサンダルウッドとともに、身体が謎の浮遊感に包まれた。次に、柔らかい衝撃とベッドの軋む音と、くすぐったそうな笑声。

    「狭くっても文句なしだからな?」

    少し乱れた赤髪が近い。すっぽりと腕に抱かれた状況を飲み込んで、紗世も委ねるように、もちろん、と頷いた。

    「……明日、楽しみだな」
    「私も。せっかくだし、お昼も向こうで食べようか」
    「うん、」

    徐々に、会話のテンポが緩む。目の慣れた暗闇の中で目が合って、二人静かに笑った。

    「寝よっか。おやすみ、紗世」
    「……うん。おやすみなさい、蒼樹さん」

    やがて。静けさの戻った部屋へ、二人分の寝息がたち始めた。
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