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    ぎうにうぷりん

    ツイステ大好き民。
    リリアちゃん推し夢女とジャクヴィル推し腐女子兼任してますw
    ごくたまに他ジャンルの絵も描きます。
    Twitterは@141giuniuprinでやってるよ!

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    ぎうにうぷりん

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    昨日ジャクヴィル真ん中バースデー記念にpixivに載せたSSです。最近なにかとカドカワ関連データが心配なので、こっちにもコピペ載せときます(--;)

    #ジャクヴィル
    jacquesville
    #ツイ腐テ
    #twst_BL

    ジャクヴィルが1泊75万マドルする部屋にお泊りする話「なんだか派手すぎて落ち着かねえ部屋だな……」
     先程まで滞在していたテーマパークと寸分違わぬ雰囲気の部屋に、ジャックはつい思ったままの感想を呟いてしまった。
    「当然でしょ。ここは一泊75万マドルするプレミアムスイートルームなんだから」
    「な、75万マドル⁈」
     一緒に部屋に入ってきたヴィルがさらっと恐ろしい事を言うので、ジャックはますます頭を抱えてしまう。
    「心配しないで。宿泊費は全部アタシ持ちなんだし。アンタにはアタシの我儘で卒業旅行についてきてもらったんだから、これぐらいしないと申し訳ないわ」
    (お礼の規模が尋常じゃない……)
     むしろ誘ってもらって嬉しいのは自分の方なのに。でもそれを素直に言い表せないジャックは、ただただ目を白黒させるばかりだった。

     事の発端は、ヴィルの卒業式の頃に遡る。
    「ヴィル先輩、ご卒業おめでとうございます!」
     式典が終わってすぐ、ジャックは花束を持ってヴィルの元へ駆け寄った。
    「あらジャック、こんな所で油を売っていて大丈夫? 自分の寮の卒業生に渡すやつじゃないの、これ」
    「いえ、この花束はヴィル先輩に渡したくて。サバナクローには後ですぐ戻ります!」
    「そう、じゃあありがたく受け取っておくわ」
     ヴィルは花束を愛おしそうに抱える。
    「でも、どうしてこれをアタシに?」
    「えっ? なんつーか、その、先輩には色々世話になったんで、改めてお礼がしたかったというか……」
     ジャックはしどろもどろになりながら赤面する。その様子があまりに可愛らしく、ヴィルはついからかってしまいたくなった。
    「じゃあ、アタシからも何かお礼がしたいわ。ねえ、どんな事して欲しい?」
    「べ、別に俺は……」
    「そうだわ、これをあげる」
     そう云いながら、ヴィルはシャツのボタンをおもむろに一つ引きちぎると、ジャックに手渡した。
    「ボタン?」
    「東方の国では卒業シーズンになるとこうやって服の第二ボタンを大切な人にプレゼントするのがおなじみの光景らしいわよ。まあ、伝え聞いた話だから本当かどうかはわからないけど」
    (大切な人……)
     ジャックが無言で立ち尽くしていると、後ろから他の生徒たちがヴィルを呼ぶ声が聞こえてきた。
    「ごめんね、もう行かなきゃ。後で改めて電話するわ」
    「はい!」
     ヴィルの後ろ姿を見送ると、ジャックは先程言われた言葉を頭の中で反芻していた。
    「大切な人、か……」

     その日の夜、ジャックは自室のベッドの上に横たわりながら、ヴィルから貰ったボタンを眺めていた。
    「今更言えるわけないよな。ずっと好きでした、だなんて」
     進級してからは四人部屋から解放されたので、独り言を呟いても咎める者は誰もいなかった。
    「大体言ったところでどうするんだよ。明日にはもう学園からいなくなるっていうのに」
     俺みたいなガキから告白されてもきっと迷惑だろう。おまけに相手は世界的な有名人だ。ただの一般人の自分と釣り合うわけがない。頭ではそうわかっているのに……。
    (まあ、最後に顔だけでも見れて良かった。そう思うしかないよな)
     そう自分自身に言い聞かせながら布団に潜り込もうとすると、突然枕元のスマホの着信音が鳴り響いた。
    「⁉」
     慌てて電話を取ると、声の主はヴィルだった。
    『夜分遅くにごめんなさいね。もう寝てたかしら?』
    「い、いえ! ちょうど今寝る前の筋トレしてたところです!」
     もちろん大嘘である。
    『なら良かった。今日は花束をありがとう。それにしても驚いたわ。普通の花束かと思ったらサボテンでできてるのね! どこのフラワーショップで買ったの?』
    「実は自分で作ったんです。ちょうど育ててたサボテンに綺麗な花が咲いてたんで」
    『凄いじゃない。アンタ、フラワーアレンジメントの才能があるわね。将来お花屋さんになれるかもよ』
    「さすがにそこまでは考えてないっす……」
     こうやって電話越しに他愛もない会話をしていると、今日が最後の別れだという実感が湧かない。
    「じゃあ、夜も遅いんで今日はこの辺で。明日無事出発したらまた連絡下さい」
    『あ、ちょっと待って! 実は最後にお願いがあるの』
    「ん?」
    『アタシの……アタシの卒業旅行についてきてくれないかしら?』
    「卒業旅行⁈」
     思いがけない言葉に、ジャックは持っているスマホを危うく落っことしそうになった。
    「ちょっと待って下さい! なんで俺……?」
    『やっぱり嫌だった?』
    「嫌じゃないです! むしろ大歓迎ですけど! でも卒業旅行って普通は」
    『アンタの言いたいことは分かるわ。普通なら同級生を誘うわよね。それがね……』
     ヴィルの話によると、最初は同級生と一緒に旅行に行こうと考えていたのだが、卒業が決まった途端仕事のスケジュールが怒涛のように埋まってしまい、周りのように一週間ほどかけて海外旅行に行くことはできなくなってしまったそうだ。
    「じゃあ、ルーク先輩は?」
    『アタシも最初はそう思ったわよ。でも断られちゃった』
    「嘘だろ⁈ す、すいません。つい……」
    『いいのよ。アタシだってびっくりしたもの』
     ヴィルからの誘いを断る時、ルークは静かに涙を流していたらしい。
    『もしかしてネージュのライブツアー? って訊いたら、あの子滝のように涙を流し始めるんだから心底驚いたわ。それにしてもネージュがいきなり学業に専念するとか言い出した時は耳を疑ったわね。あくまで卒業までの一時的な活動休止らしいけど。ライブツアーは活動休止前の最後のイベントなんですって』
     聞いていても半分ぐらい何の話か分からなかったが、ヴィルの身の回りの人たちはみんなそれぞれ多忙だという事だけはジャックにも把握できた。
    「エペルもマジフト部の遠征試合に行くって言ってましたもんね。来年度から部長だから張り切ってましたし」
     互いに身の回りの友人達の話題で盛り上がっていると、うっかり本題を忘れそうになってしまった。
     わざとらしく咳払いをすると、ヴィルは改めて問い直す。
    『それで? 旅行にはついてきてくれるの?』
    「まあ、一泊二日ぐらいなら大丈夫そうですけど。どうせ休暇中も実家帰って地元でバイトするぐらいしか予定ないですし……」
     消去法で誘われたのは不本意ではあったが、二人きりで旅行するのは初めての事だったので、ジャックは内心すごく嬉しかった。
    『じゃあ決まりね! また詳細は追って連絡するわ。ところで、ちゃんとお裁縫はできた?』
    「裁縫? 一体何の話っすか?」
    『あら、まだ気づいてなかったの? アンタ、さっき会った時胸元のボタンが外れて行方不明になってたわよ』
    「えっ?」
     壁にかけっぱなしのシャツをふと見ると、ヴィルの言う通りだった。
    『さすがにあの場で身だしなみのお説教するのも野暮だと思ってたのよ。さっきアタシがあげたボタン、使ってくれて構わないわよ。じゃあね』
     電話が切れた後も、ジャックの顔面は恥ずかしさでずっと火照ったままだった。

    「遅くなってごめんなさい。随分待たせちゃったわね」
    「いえ、園内が広いんで散策してるだけでも時間潰しになりました」
     ヴィルが旅行先に選んだのは、輝石の国の首都の郊外にある某有名テーマパークだった。ところが、人気テーマパークであるにも関わらず園内には観光客どころか人の姿自体まばらだ。
    「思ったより午前中の撮影が長引いちゃったわ。なんだか仕事のついでみたいになって申し訳ないわね」
    「でもまさか新エリアのプレオープンに招待してもらえるなんて嬉しいっす。先輩は仕事だからまだしも、一般人の俺まで本当に良かったんでしょうか?」
    「最初で最後のゴリ押しみたいなもんよ。卒業後は仕事に専念するのを条件に特別に許可を貰ったわ」
     ヴィルはそう言うと、茶目っ気たっぷりにウインクをする。
    (ヴィル先輩、俺の為に貴重な時間を割いてくれたんだな……)
     ジャックは思わず目頭が熱くなった。
    「今日は報道陣向けのプレオープンだから、他のお客さんはほとんどいないわよ。だから周りの目を気にせず楽しめるわ」
    「でも大丈夫なんすか? 報道陣って、例えばほら、『週刊サーズデー』とか、『週刊文冬』とか……」
     心配そうなジャックを見て、ヴィルはくすりと笑った。
    「安心なさい。そういうゴシップ系の取材は一切締め出されてるわ。今回招待されてるのはごく一部の限られたメディアだけ」
     それを聞くと、ジャックは一般人の自分が便乗しているのがますます申し訳なく思えてきた。
    「その代わり、関係者パスはちゃんと無くさないように首から下げておくのよ。今日のアンタはあくまでアタシのボディガードっていう設定なんだから」
    「って言っても、ヴィル先輩は強いから実質ボディガードなんて要らないっすよね?」
    「そんなのわかり切ってるわよ。単に口実が作りたかっただけ」
     少し頬を赤らめてそっぽを向くヴィルの姿は、普段よりもさらに愛らしく見えた。
    「あ、そういえばさっきポップコーンとかチュロスとか買ってきたんすけど、もし良ければ食べます?」
    「何よその砂糖の塊みたいなやつ。アタシを太らせる気?」
     ヴィルは不平をこぼしながらも、限定スイーツを興味深そうに眺めていた。
    「まあ、一口だけなら食べてあげなくもないけど」
     ヴィルは顔を近づけると、チュロスを一口だけ齧った。
    「あっ、それ俺の食べかけのやつなんすけど」
    「だってこっちの方が美味しそうだったもの」
     戸惑うジャックを見ながらヴィルはくすりと笑った。

     それから二人は新しいアトラクションを一通り見て回った。
     特に楽しかったのは人気のアニメーション映画の名シーンを再現したライド型アトラクションだ。普通なら乗るまで3時間ぐらいは待たされそうなものだが、今回は待ち時間もなくスムーズに乗れるのがありがたい。
    「いつか弟や妹も連れて来たいな。さすがに入場料や交通費でどれだけかかるんだよって話なんすけど」
    「その時はアタシも呼んでね。二人ともお話してみたいわ」
    「それにしても、こうしてるとアレを思い出しますよね、プレイフル……」
    「やめて、思い出したくもないわ」
    「ですよね。レイバッパ……」
    「やめなさい」
     二人にとっては完全に黒歴史だった。

     雑談に興じていると、アトラクションもそろそろ佳境に差し掛かった。映画の中の屈指の名シーンが見事に再現されている。
    「あのプリンセス、本当に可愛らしいわよね。さっきの別のアトラクションのも可愛いし。ジャックだったらどの子がタイプ?」
    「はあ⁈」
     いきなり意地悪な質問をされたのでジャックは面食らってしまう。
    「お、俺は……ヴィル先輩の方がドっ」
     ジャックが喋ろうとした途端、いきなり大音量の音楽が流れ始めたので見事に声がかき消されてしまった。
    (また言えなかった……)
     アトラクションの演出に目を輝かせるヴィルを余所に、ジャックはがっくりと肩を落とすばかりだった。

     楽しい時間もあっという間に過ぎ、時刻は夜8時になっていた。とは言っても、太陽はまだ完全に沈み切っておらず、空の色はほんの少しだけ翳っているだけだったが。
    「まだまだ遊び足りない気分だけど、そろそろ宿泊先に向かいましょうか。明日の午前中も少しだけ時間はあるし」
     ヴィルに促されて向かった先は、園内に建設されたばかりの真新しいホテルだった。
    「ちょうど新エリアのオープンに合わせて作られたホテルなのよ。ほら見て、内装も作品をイメージした造りになってるの」
     ヴィルは無邪気に喜んでいるが、一泊75万マドルだと聞いただけでジャックは足がすくみそうになる。
    (確か今回はプライベートって聞いてたから、全額ヴィル先輩の自腹なんだよな? そんな額気軽に出せるなんてセレブすぎるぜ)
     幼馴染が手の届かない別世界の住人であることを改めて実感した。
    「本当に可愛いお部屋だわ。家具も映画に出てくるのとそっくりだし。今にも動き出しそう」
    (まあ、先輩が楽しんでるなら別にいいけどな……)

     一通り部屋の中を探検した後、ジャックは気になっていた事を口に出した。
    「ヴィル先輩、その……」
    「ん? どうしたの」
    「この部屋こんなに広いのに、なんでベッドが一つだけなんすか⁈」
     ジャックが指差した先には、二つの枕が寄り添うように並べられた天蓋付きのベッドがあった。
    「あら、キングサイズだし多分大丈夫よ。見たところ2メートルぐらいはあるし、アンタの脚がはみ出す心配もなさそうね」
    「いや、そういう問題じゃなくて……」
    (なんでこういう時に限って話が全く通じないんだ?)
     ヴィルがスーツケースの中身を整理している間、ジャックはその場で頭を抱えていた。
    「あら、もうこんな時間ね。アタシはまだ荷物の整理に時間がかかるしアンタ先にシャワー浴びてきたら?」
    「いえ、先輩がお先にどうぞ! さすがに後輩の俺が先に入るわけには」
    「アタシはお風呂上がりに色々スキンケアしないといけないからアンタが先に入ってくれた方が助かるんだけど」
    「で、でも俺換毛期ですし! 尻尾の毛で排水溝とか詰まると思いますし!」
     なかなか終わらない押し問答に業を煮やしたヴィルは、突然意地悪な笑みを浮かべてこう言った。
    「じゃあ、一緒に入る?」
    「へっ?」
    「一緒に入りたいなら入りたいって最初からそう言えばいいじゃない。いいわよ、背中ぐらい流してあげても……」
    「大丈夫ですって! じゃあ遠慮なく俺が先に行ってきます‼」
     そそくさとバスルームに向かうジャックの後ろ姿を見ていると、ヴィルは思わず笑みがこぼれた。
    (ほんと、幾つになってもピュアなんだから……)

     入浴を済ませた後、ヴィルが寝室に向かうと何やら数を数える声が聞こえてきた。
    「そこで何してるの?」
    「筋トレです!」
    「全く、せっかくシャワー浴びた後にまた汗かいてどうすんのよ」
    「あっ……」
    「まあでも、旅先でもトレーニングを怠らない姿勢には感心するわ」
     ヴィルはそう言いながら、羽織っていたバスローブをするりと解いてソファーの上に置いた。中はタンクトップにショートパンツというラフな格好だ。すらりと伸びた白い手足を間近で見ると、ジャックは思わず目のやり場に困ってしまう。
     そのままベッドの上に移動すると、ヴィルは床で筋トレをしているジャックに呼びかけた。
    「ねえジャック、ベッドまで来てくれる? せっかくだし、一人じゃできないコトしたいの」
    「はい⁈」

    「や、やわらけえ……」
    「やっぱりお風呂上がりにするのが一番気持ちいいのよね。ストレッチ」
    「確かに、これぐらいの柔軟運動なら汗もかかないし丁度いいっすよね」
    「今日はヨガマットも持ってきてないし、ベッドが広くて助かったわ」
    (俺なんて直に床のカーペットの上で運動してたけどな……)
     それにしても、ヴィルのしなやかな身体に間近で触れていると、つい見惚れてしまいそうになる。
    (しかもなんかすげえいい匂いするし)
     同じボディソープを使ったはずなのに、何とも言えない甘い香りが漂っているのだ。
    「手伝ってくれてありがとう。そろそろ終わりにしようかしら。お礼に尻尾のブラッシングでもしてあげるわ。ブラシ、持ってる?」
    「はい、持ってきてます!」
    「あ、これ去年誕生日プレゼントにあげたやつね。まだ持っててくれたなんて嬉しいわ」
     ヴィルは微笑みながら、ジャックの尻尾を丁寧にブラッシングしてくれた。
    「こうやってブラッシングしてあげるのは子供の時以来ね。ねえ、前から気になってたんだけど、アンタの尻尾って触った時の感覚とかってあるの?」
    「まあ、一応それなりには……」
    「ふーん。じゃあこれは?」
     そう言うと、ヴィルは尻尾の根元をゆっくりと逆撫でするように指で弄った。
    「はうあっ⁈」
    「なるほど、そういう反応ね。参考にするわ」
    「一体何の参考っすか‼」
     ジャックが真っ赤になって慌てふためいているうちに、いつの間にかブラッシングも綺麗さっぱり完了していた。
    「ほら、いい感じにふわふわになったわよ」
    「本当だ。ありがとうございます」
     ヴィルにブラッシングしてもらうと、いつも以上に毛並みが良くなった気がした。
    「さて、もう10時だしそろそろ寝ましょうか」
    「やっぱりベッドはヴィル先輩が使って下さい。俺は床の上でも大丈夫なんで」
    「はぁ⁈」
     ジャックが遠慮しようとすると、ヴィルはあからさまに眉間に皺を寄せた。
    「せっかくスイートルームに泊まってるのに、なんでそんな野宿みたいなことするわけ?」
    「野宿って……」
     正直床のカーペットは寮のベッドよりも柔らかいぐらいなのだが。
    「じゃあアンタがベッド使えばいいじゃない。アタシはリビングのソファーでいいわ」
    「いやいやいや!」
    (なんだかさっきのシャワーの時と同じ展開になってきちまったな)
     いっそのこと正直に理由を伝えてしまった方が楽かもしれない。
    「実はその……」
    「ん?」
    「ヴィル先輩があまりに綺麗だから……その、襲っちまいそうで心配で」
     それを聞いた瞬間、ヴィルは腹を抱えて大笑いし始めた。
    「わ、笑わないで下さいよ! 俺だってこんな事言うの恥ずかしいんだからな!」
    「ごめんなさいね。でも安心なさい。アンタがそんな事する子じゃないってアタシが一番よく知ってるから。だからアンタを選んだのよ」
    (完全に人畜無害認定されている……)
     それはそれで少し悲しい気もした。
    「それに、アンタが初めての相手でも別にアタシは構わないし……」
    「ん? 何か言いました?」
    「べ、別に! 夜更かしは美容と健康の大敵よ! さっさと寝ましょう」

    (うう、やっぱり緊張して眠れねえ……)
     粗相がないようになるべくベッドの端に身を寄せているが、すぐ近くでヴィルの吐息が聞こえる度に心臓が破裂しそうな気分だった。
    「ねえジャック、眠れそう?」
    「いえ、全然」
    「奇遇ね。アタシもよ」
     時計の針は12時過ぎを指していた。だが二人とも薄暗い天井を見つめているだけで、一向に眠りに落ちる気配がない。
    「でもこうしてると昔を思い出すわね。ほら、エレメンタリースクールの行事で高学年の合同キャンプに行ったじゃない」
    「確かそんな事もありましたね」
    「アタシ、クラスで仲間外れにされててテントで一人ぼっちだったから、アンタがわざわざ抜け出して来てくれたのよね」
    「全然憶えてねえな……」
    「でもアンタってばアタシの寝袋の中に入ってきてそのまま寝ちゃって。翌朝学年のテントを勝手に抜け出したのが先生にバレて叱られてたわよね」
    「な、なんでいちいち細かい事まで憶えてるんすか‼」
     思い出話に花を咲かせているうちに、二人の緊張も少しずつ解けていった。

     時刻はいつの間にか2時を過ぎていた。
    「ジャック、もう寝た?」
     返事はない。
    (アンタの背中、こんなに大きかったのね)
     すぐ近くにいるはずなのに、なぜかその背中がとても遠くにあるように感じた。
    「明日でお別れなんて残念ね。アタシ、もっとアンタと一緒にいたかったわ」
     瞳を潤ませながら、ヴィルはジャックの背にそっとしがみついた。
    「だいすき……」
     囁いたところで声が届くはずもない。判っていても、今はただこうして寄り添っていたかった。
    「だいすきよ。愛してる」
    「俺もです」
    「えっ?」
     突然返事が返ってきて、ヴィルは動転してしまった。
    (きっと寝言よね? だってさっきまで熟睡してたし……)
     だが、次の瞬間ヴィルの体は逞しい腕に抱き寄せられた。
    「やだ、起きてたの?」
    「今起きました。俺の大好きな人が起こしてくれたんで」
    「ばかね。ほんとばかなんだから……」
    「言われなくても判ってますって」
     ヴィルを抱き締める腕に力を込めながら、ジャックは言葉を続ける。
    「あと2年、あと2年だけ待ってて下さい。卒業したら、真っ先にヴィルさんに会いに行きます。そしたら俺と結婚して下さい」
    「ちょっと待って、いくら何でも突然すぎるわよ」
    「俺は本気です」
    「全く、困った子ね。まあいいわ、2年だけなら待っててあげる。その代わり、絶対に浮気なんてしないでよ?」
     ジャックの腕の中で、ヴィルはうっとりと目を閉じた。
    (アタシって、映画のプリンセスより幸せ者ね。だって童話の中の王子様よりずっと素敵な人に出会えたんだもの)
     
    カーテンの外では、短い夏の夜がもうすぐ明けようとしている。
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