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    なかた

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    なかた

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    創作百合二本
    (鞄が大きい女と鞄が小さい女の百合)

    #創作百合
    creation of yuri
    ##創作

    ♡ ♡ ♡

     ヤバイと思った時にはもう遅かった。とっさに手すりをつかもうと伸ばした手も宙をひとかきしただけだった。バランスを失った身体は意志とは関係なく真下へ落ちていく。

    「いてて」

     幸いだったのは足を滑らせた場所が階段の下の方だったことで、ドサドサと大きな音を立てた割には打ち付けたお尻が痛む程度の怪我で済んでいる。ん? 音?
    よく見ればさっきまで肩にかけていたはずのトートバッグがない。

    「ひかるちゃん! 大丈夫?」

     こちらの様子を気にかけながら愛先輩があちこちに散らばった財布、ポーチ、定期入れ、筆記用具、折り畳み傘、その他色々をかき集める様子を見て、先程聞いた音の正体がわかった。私の身体はなんでもないけれど代わりにバッグの中身が大惨事になっていた。

    「これで全部かな?」
    「すみません、ありがとうございます」

     先輩の華奢な指から受け取ったカバンはずっしりと重い。せっかくのデートだから、先輩に迷惑をかけないようにしっかり準備したはずが、余計に迷惑をかけている事実に情けない気持ちでいっぱいになった。

    「どうして、あんなところで転んだの?」
    「多分、寝不足です。今日が楽しみで昨日あんまり眠れなくて」
    「あはは、かわいい」

     綺麗に巻いた髪を耳にかけながら先輩は笑う。耳たぶでキラキラ光っているのは先月、私が誕生日プレゼントとして渡したピアスだった。

    「あ、ひかるちゃん。ちょっと待って」

     そう言うと先輩は肩にかけた小さなバックから何か取り出した。

    「肘のところ、すりむいてるよ。血が出てる」

     先輩無造作に私の腕にあてがったのはかわいいリボンがついたハンカチだった。

    「わ、気にしないでください! それより、先輩のハンカチ汚れちゃう」
    「じゃあ、それあげるから映画の後ひかるちゃんが新しいハンカチ買ってくれる?」

     断れるはずもなく、壊れたおもちゃのようにうんうんとうなずくと先輩がまた二人の思い出が増えるねとささやいた。まだはじまってもいないのにもう映画になんて集中できる気がしなかった。

    ♡ ♡ ♡

     あなたならきっとできるよと励ましながら、私は上手くいかなかった時のことばかり考えていた。

    「愛先輩……やっぱり全然綺麗に巻けないんですけど」

     ぎこちない動きでカールアイロンのプレートに肩まで伸びた髪を挟んで、離してを繰り返していたひかるちゃんの手が止まった。鏡越しに合った目は悲しみで濡れている。明らかにわたしに助けを求めている。その様子が以前彼女が見せてくれた子犬の写真と重なって、微笑ましく思えた。

    「今は難しくても練習すればすぐできるようになるから、焦らなくても大丈夫」

     子供の頃からずっとショートカットがトレードマークだったというひかるちゃんはカールアイロンを触るのも今日が初めてらしい。肌に触れれば火傷する危険もある道具を扱うのだから、恐る恐るといった手つきにになってしまうのも無理はない。

    「だって……せっかく髪伸ばしたんだから、早くわたしも愛先輩みたいに自分でかわいい髪型にセットできるようになりたいです」
    「わたしみたいな髪型にセットできるようになってひかるちゃんはどうなりたい? 気になる男の子にかわいいって思われたい?」

     ところどころ外巻きになった髪がふわりと浮き上がって、こちらを向いた顔がルーレットみたいに表情を変える。驚いた顔、怒った顔、困った顔、全部かわいい。

    「ちがっ、そうじゃなくて! わたし、愛先輩にかわいいって思われたいです!」
    「だったらなおさら、無理しなくていいよ。今日は私ががやってあげる」

     手を差し出すと少し困惑した様子ながら、カールアイロンを渡してくれた。こうやって触れる理由がほしくて、上手くならないでと願ってしまう意地悪なわたしを今はどうか許してね。
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