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    なかた

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    なかた

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    海の家でバイトする綴が心配な至に巻き込まれる千景と万里(綴至)

    #綴至
    suffixTo
    ##A3!

    月よ聞いてくれ「はぁ」
    ファブリックソファの座面に足を上げ、背中を丸めたルームメイトがため息をつく。それも、これでもかというくらいわかりやすく、盛大に。
    一度やニ度なら知らんぷりしていただろう。だが、今のでちょうど十回目。こちらの我慢もそろそろ限界だ。
    俺が趣味で続けているブログは、どの投稿にもそれなりの数のコメントが寄せられている。返信するかは別として、たまにはそれらに目を通そうとノートPCを操作していたが、もうそんな気分ではない。液晶モニターをは手前に倒して、そこだけどんよりとした空気が漂うソファの前に足を運ぶ。
    部屋にいる間、ソファに身を委ねた茅ヶ崎がそこから一歩も動かず、手にしたスマホの画面にかじりついている。という光景を、俺は毎日のように目にしていた。とはいえ、指の一本も動かさず、ただ注視しているだけという状況は珍しい。おそらく、ゲームをしているわけではないのだろう。動画配信サービスを利用して、アニメでも観ているのか。それとも――
    茅ヶ崎の手元を、上から覗き込む。最新機種の大きなディスプレイは、見慣れたメッセージアプリのトーク画面を映していた。
    茅ヶ崎が心を曇らせる理由は、見当がついている。
    俺たちと同じ春組の一員であり、茅ヶ崎の彼氏でもある綴が、期間限定で寮を離れ住み込みのアルバイトをしているせいだ。
    やり取りは、出発当日、茅ヶ崎の『いてら』という一言に、綴が『行ってきます』と返したとこで途切れている。
    「返事なんて来るわけないだろ。お前から何か送ったわけでもないんだし」
    何時間見つめたところで、変化は期待できそうにない。事実を伝えると、茅ヶ崎は力なく顔を上げた。こちらに向けられる視線は、途方に暮れている。
    「それは……そうなんですけど」
    絞り出された声は、いじけていた。まるで、手をひいてくれる親とはぐれた迷子の子供だ。俺の同僚は、スーツを脱ぎ捨てると、途端に大人の振る舞いを忘れてしまうらしい。
    「綴の邪魔したくないし……でも、バイトしてるところの目の前が陽キャホイホイの海水浴場なんですよ!」
    もし、綴が採用されたのが一般的な飲食店だったら。しばらく会えないからといって、ここまで茅ヶ崎の感情が乱されることもなかっただろう。
    最大の問題は、綴のバイト先が海の家という点にある。夏の海は健全な男子大学生にとって、数多くの誘惑が転がる空間だ。気分を開放的にする非日常の景色。裸足で歩く砂浜には、下着と大差ない格好をした異性がうろうろしている。波打ち際ではしゃぐ女性たちは茅ヶ崎が陽キャラと称したように、コミュニケーション能力が高く、積極的なタイプが多いらしい。そういう手合いは軽食を運んでくる店員が好みだったら、とりあえず声をかけてみるに違いない。図々しくて……おっと、本音が。話を戻そう。
    そうなれば、お人好しで押しに弱い綴は、相手の甘言を片っ端から間に受けてしまうだろう。調子がいいことばかり言っているとも気づかずに。思わせぶりな態度に、照れてパニックになって選択肢を間違える。そんな最悪の想像をして、茅ヶ崎が不安になっているとしたら。まぁ、気持ちは分からなくもないかな。
    「綴のこと、万里に頼んであるんだろ?なら、大丈夫なんじゃない?」
    綴はなにも、一人で海の家に向かったわけではない。バイト先から人手が三人ほしいという要望を受けて、寮内で都合が合う団員を探し、最終的に万里と密が同行することに決まった。
    社会性に欠ける寝太郎はともかくとして。
    摂津万里は器用な男だ。派手な外見と生意気な言動とは対照的に、頭の回転が早く周りが良く見えている。若いながらに女慣れしていて、一方的に好意を寄せてくる相手をあしらうのも上手い。綴のフォローを任せるにはうってつけの人材だ。
    普段から万里とよくゲームの協力プレイしている茅ヶ崎もそれに気づいていたようだ。出発前日この部屋に万里を呼び出し、ゲーム勝負で自分が勝ったら綴に悪い虫がつかないよう見張るという約束を取り付けていた。
    結果は茅ヶ崎の勝利。というか、俺には万里が途中で手を抜いて負けてくれたように見えた。まだ学生なのに、茅ヶ崎なんかよりずっと大人だ。
    万里にしてみればいい迷惑だろうが、今ごろ手際よく作業をこなしつつも、綴の様子を気にかけてくれていることだろう。
    「けど、万里だってずっと綴を見てられるわけじゃないでしょう?自分の仕事もあるんだし……はぁ」
    茅ヶ崎が十一回目のため息をつき、反射的に俺の眉間に皺が寄る。
    「俺の態度が目に余るようなら、先輩が場所を変えてもらえると助かります」
    茅ヶ崎の異常状態を治せるヒーラーは今この場にはいない。呼び出すこともできない。
    俺がいくら正論を突きつけたって、励ましたって無駄なのだ。見て見ぬふりをして、この場を離れるのが最も効率的だ。そう思いながらも、俺は喉まで出かかった「そうさせてもらうよ」の一言を飲み込んだ。
    出口に進もうとした足を止め、その場で振り返る。
    宇宙より遠い場所へ行ってしまった家族が今の俺を見たら、きっと「君って案外世話焼きだよね」と笑うだろう。能天気な指摘に、俺はこう返す。
    「お前ほどじゃないさ」
    「先輩、今何か言いました?」
    「聞き間違いじゃないか?そんなことより、スマホ貸して」
    茅ヶ崎は不思議そうな表情を浮かべながら、俺の顔と自分の手元を交互に見た。俺が要求したものは、茅ヶ崎が長い時間と大金を費やしてやり込んだアプリがいくつも入った端末だ。そうでなくても、個人情報が詰まっている。出し渋って当然だ。とはいえ、こちらにも回収すべき理由がある。
    「気が向いたから、茅ヶ崎が今一番ほしいもが手に入るマジックを見せてあげる」
    使用目的を簡潔に話す。すると、茅ヶ崎は難しい顔をしながらも下手したら命より大切にしているスマホを差し出した。それほど、切羽詰まっているのだろう。
    「ほしいものが手に入るって……先輩、悪魔とでも契約するつもりです?」
    「そんなまどろっこしいことする必要ないだろ。簡単だよ」
    相変わらず想像力豊かな茅ヶ崎の視線を受けながら、俺は開きっぱなしだったLIMEのトーク画面の文字入力欄をタップする。
    下に表示されるキーボードに触れて、あらかじめ決めていた文字を打ち終えたらおしまい。このマジックには実はタネを仕掛けもないのだ。
    「どうぞ」
    「ちょっと!!『寂しい』『綴に早く会いたい』ってどういうことです?」
    スマホを返却すると、茅ヶ崎はさっそく送信済みのメッセージを音読しながら、不満の声を上げた。
    「どういうことって、綴みたいなタイプはこれくらいわかりやすいのが一番効くと思ったから、送ったまでだけど」
    冷静な弁明も意に介さず、茅ヶ崎は早口でこちらを非難し続ける。
    「俺はそんなこと言わない。解釈違いです!」
    「言わないかもしれないけど、顔に書いてあったよ。俺はそれをそのまま転送しただけ」
    「深読みはオタクの専売特許なんで先輩は……あっ」
    不自然なタイミングで、茅ヶ崎の言葉が途切れた。視線の先を追うと、既読の文字が目に飛び込んでくる。
    「よかったね。綴、もう見てくれたみたいだ」
    画面の一番上に表示されている時刻は十五時三分。海の家ではランチタイムを過ぎて混雑が落ち着き、店員も一息つける頃だろう。休憩を許され、スマホの通知を確認していてもおかしくない時間帯だ。
    間もなく綴から返事が来て、この部屋には平和が訪れる。めでたしめでたし。
    「こうなったらアレを使うしかない」
    俺の思い描いたオーソドックスな喜劇を、茅ヶ崎は指一本でぶち壊した。
    「なんだよこれ……」
    代弁してやった健気な訴えの下に、馬鹿馬鹿しい写真が並んでいる。
    「見て分かりません?丞と紬と一緒に飲んだ時に酔っ払っておしぼりで作ったチン……」
    「わかったから、それ以上言うな」
    主役として写っているものが、なんなのかは見れば分かる。ただ、こんなものがいきなり送られてきたら、誰だって意図を測りかねて困惑するだろう。潮の香りに包まれながら、眉を下げて悩む綴の姿がはっきりと思い浮かぶ。
    「ほらやっぱり……『は???』『俺の身体目当てっすか?』って、綴困ってるだろ」
    茅ヶ崎はそっぽを向いた。文字通り、現実から目をそらすつもりらしい。これ以上は付き合ってられない。
    俺が匙を投げる直前、トーク画面が音声通話を求める表示に変わった。
    「茅ヶ崎、綴から電話だよ」
    「先輩に任せます。俺に構わず先に行ってください!」
    通話開始のアイコンをタップし、ちゃっかりスピーカー設定にした茅ヶ崎は端末をこちらに突き出した。
    「その台詞、言いたいだけだろ」
    これ以上、茅ヶ崎に付き合う義理はないが、俺が断れば何の落ち度もない綴が割を食うことになる。文脈の繋がらないメッセージを受信し、真意を聞き出そうと思っても電話が繋がらない。そうこうしているうちに休憩が終わり、疑問を抱えたまま仕事に戻ることになるなんて気の毒だ。
    「もしもし、代理の卯木です」
    いくら相手が同じ劇団に所属する演劇仲間だとしても。恋人にかけたつもりの電話に他の男が出たらいい気はしないだろう。だから、俺は勤めて業務的に名乗る。
    「あれ、千景さん?至さんって今近くにいます?」
    「いるんだけど……」
    近くどころか目の前にいる茅ヶ崎は、顔の前で腕をクロスし×印を作った。
    「今はちょっと手が離せないみたい」
    「そうですか。ちなみに至さん、なんか様子が変だったりしません?」
    茅ヶ崎が今度は首を大きく横に振って、何かアピールしている。ここで俺が全て正直に語れば、一度誤魔化した意味がなくなってしまう。茅ヶ崎はそれを止めようと必死なのだ。
    「どうして?」
    「LIMEで寂しいって言われた後なぜか続けて下ネタの画像が送られてきてたんすよね」
    「はは、それはどういうことだって聞きたくなるな」
    「あ、でも至さんが普通ならいいです。あの人、真剣たところをむやみに見せたがらないというか」
    さすが、役者自身の個性を軸に当て書きをするのが得意な作家だ。人間観察力に長けている。茅ヶ崎に天邪鬼な傾向があるのも綴はとっくにお見通しだった。
    「普段どうでもいいことで甘えてくるくせに、切羽詰まってる時ほど人に頼れないタイプだから、ちょっと心配になっただけなんで」
    綴の話を聞きながら茅ヶ崎を見る。恋人に本質を見抜かれた男は、嬉しくて口角が上がりそうになっているが、俺の目を気にして抑えようとしている。そのせいで唇がグニャグニャだ。
    「もうすぐバイトの休憩終わるんで、この辺で失礼します。できたら、至さんにまたかけ直すって伝えてください」
    「待って綴。そろそろ茅ヶ崎の手が空くみたいだよ。代ろうか?」
    「じゃあ、そうしてもらえると助かります」
    有無を言わせぬ状況を作って、茅ヶ崎にスマホを握らせる。スピーカーを切った茅ヶ崎は、舞い上がって声が上ずるのを防ぐためか一度咳払いをする。それから、ディスプレイを耳に当て、せきを切ったように話し始めた。
    「もしもし綴?」
    そのあとはもう、聞き取れない。興奮すると早口になるのはオタクあるあるらしい。
    成り行きにまかせて静観していると、思い出したように息継ぎをした茅ヶ崎と目が合った。
    いつの間にやら大粒のハイライトが浮かぶ瞳から、読み取れる要求はひとつ。
    俺が邪魔だなんて、まったく恩知らずな後輩だ。だが、知り合い同士のカップルの睦言に聞き耳を立てるほど悪趣味でもない。
    (急用ができたから退室するよ)
    自分でも白々しいと感じながらも、ドアを指差す。その方向に足を進める途中、俺は上機嫌に笑って揺れる背中に向かって心の中で呟いた。この貸しは高くつくからな。
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