A few years later
特にやることが無かったから。ソファの背もたれに腰かけて、雑務に励む相棒の形良く丸い頭を、なかなか拝む機会のない旋毛を、隙のないキューティクルの流れを辿って眺めていた時だった。
「あ、白髪。」
気づいたらもう手が伸びていた。出会った頃より少し短い、それでも丁寧に伸ばされた髪から一束を掬う。チェズレイの手元のそれは然して重要な案件ではないとあらかじめ聞いていたので、モクマがちょっかいを出しても邪険に振り払われることはなかった。
「よく気づきますね、どこです? これ? どれ……ああ、こんなものよくもまあ気づきますねェ……」
嘆息混じりの声には感心よりも呆れの色が多く滲んでいる。ちくりと刺すような棘は、それこそ出会った頃からモクマが気にしたためしなどないので痛くも痒くもない。甘い棘で刺して刺されて、互いにわかってやっている戯れももう長い。
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