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    FUMIxTxxxH

    BMB垢 ルクアロ前提チェズモクの人
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    FUMIxTxxxH

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    knot for two.

    ED後、チェズレイの手の話です。
    お手て繋いでイチャイチャしてるだけ。

    #チェズモク
    chesmok

     夕食の香草焼きが美味かった。サラダのドレッシングはモクマが作ったが、こちらも会心の出来だった。チェズレイも気に入ってくれたらしい。
     どこまでもマナーの行き届いた彼が最後までひとくち分残しておくのは、食べ終わってしまうのを惜しむ気持ちの表れだと、今のモクマは知っている。たぶんもう、今のこの世でモクマだけが知っている。


     片付けを済ませると、どちらからともなくリビングのソファに並んで腰を下ろした。テレビも点けず穏やかな静けさを共有する。
     二人では居るが、特に交歓に耽るでもなくただ二人で居る。それが心地好い関係に落ち着ける日がくるなんて、かつては思いもしなかった。決して楽しいばかりではなかった二人の馴れ初めを手繰れどただただ小気味良いばかりだ。
     モクマは晩酌に徳利一本と猪口を持ち込み、チェズレイはタブレットで何やら悪巧みを捏ね回している。しかしお互いに片手間だ。何故なら、ふたりの隣り合った手と手は繋がれているから。チェズレイが求め、モクマが応えた。逆の日もある。時折ふたりの間に発生する、まるで幼い恋人同士のような戯れ。
     ……そんな片手間に、モクマはぼんやりと宙を仰いだ。まだ一杯しか空けていないが、猪口は既に乾きはじめている。チェズレイに右手を取られているので酒を注ぎにくいのだ。抜け目ない年下の男のことだから、たぶん半分はそれが目的でやっている。残り半分は単純にモクマに触れていたいのだろう。可愛い奴だと思うし、当人もそう思われていることを知っているのだ。
     そういったわけでいたずらに杯を重ねることもかなわず早々に手持ち無沙汰になってしまったモクマは、周囲をぐるりと見回して、結局一番手近なもの……己の右手を囚えているチェズレイの裸の左手を暇潰しのタネにすることに決めた。
     世の恋人たちがすなる其れをしてみんとてするなりとばかりにガッツリ指を絡めて繋がれているが、一般的な恋人繋ぎとは少し違う。かさついたモクマの手の甲を上から包み込むようにチェズレイの滑らかな手のひらが被さっている。凹凸による僅かな隙間も許さないと言いたげな密着度に、うっかりシーツとの間に俯せで押さえつけられ背中で直に彼の鼓動を聞いている体勢を思い出してしまい、モクマはこっそり尻の座りを直した。今夜はそういう雰囲気じゃない。
     ……ソファの背もたれに首を懐かせながらふたりの繋ぎ目をじっと眺める。綺麗な手だ。しかし、白く滑(すべ)らかな肌をしていても安直に白魚のようと表すには違和がある手。
     素知らぬ顔で膝の上のタブレットを弄っている本体とは裏腹、モクマの人差し指の付け根へ仔蛇か飼い猫の尻尾のように絡み付く小指を、挟み込んだ親指の腹で撫であやしてやる。こんなふうに丹念に触れて初めてわかるが、チェズレイの手は骨の形が外側に向かって歪んでいる。反対側から包み込んでいる親指も驚くことに母指球がモクマの手首辺りまで回っていて、薄い皮膚の下に確かな筋肉の力強さを感じる。
     それは繋いだ手を決して離さないという確固たる意志に通じる。チェズレイの鮮烈な執着を実感する度、モクマは鳩尾の下辺りがむずむずして仕方がない。言葉にし難い燻りを押しつけるようにこちらからも握り返した。
    「……ほーんと、感慨深いねえ。」
     しみじみと呟いたモクマの肩口へ、鈴を転がすような応(いら)えが落ちてくる。
    「それはそれは。ようく噛み締めてくださいね。剥き出しの私に触れて命がある下衆など、世界のどこを探してもあなたしかいないのですから。」
    「ワァ〜有り難みがすごいな〜、というか息をするように内心を読むね?」
    「直に触れているぶん、息をするより容易いですよ。」
     私を誰だとお思いで? キャッこわぁい、魔性の詐欺師さん――くだらないやり取り、他愛ない軽口。確かな体温。人形や彫像のように見えても冷たく血の通わない雪花石膏(アラバスター)などでは決してない。呼吸の度、彼の篤い情に指先が戦慄く度、末端の繊細な動きに伴って動く筋と靭帯が白絹の下で生々しく息づいている。生きている。この男はいつだって苛烈なまでに生きている。『生きよう』という生物として当たり前の衝動を投げ出して長年さ迷い続けていたモクマを引っ掴み、自らまで傷つきながらも決して離しはしなかった強い手だ。
    「……おじさんのと違って外側の方が発達してる。不思議な筋肉の付き方をするもんだなあ」
     矯めつ眇めつしながら、ふと湧いた情動のままおもむろに引き寄せ、手の甲に浮いた筋へ口づける。ちらりと横顔を見上げると花弁を纏った流し目が悪戯な笑みで応えた。
    「あなたの手を取り零さないためにですよ、とでも言えば?」
    「おじさんが赤ずきんちゃん? お前さんは……オオカミさんにしてはワイルドさが足りないんじゃないの」
    「その点は確かに、他に適任がいますよねェ。」
     まあ今ここに居られても困りますけど、と肩を竦める様子が可笑しい。その通り、残念ながら我らがワイルドは不在だ。まかり間違って居合わせていたとしても即刻部屋を出ていくだろうが。その辺り本当に気が合う二人だな、とモクマはいつも微笑ましく思っている。
    「ピアノに親しむ者なら誰しもに見られる特徴ですが、私などは特に、物心つく前から“正しい弾き方”を叩き込まれていましたから……なるべくしてこの形になった、といいますか。あまり変形が顕著だと変装の際に支障が出るので、意識して形を整えてはいますけれどね」
     ぴろん、と何らかの通知音。他愛ないメールマガジンかはたまた重要な報告か、そのどちらでも関係ないとばかりにチェズレイは膝上の画面を一瞥もせず、美しい顏(かんばせ)をモクマへ向けている。長い睫毛の下から赤みの増した紫瞳でこちらをじっと見つめて。
    「歪んでいると、気になりますか?」
     そして、そんな可愛げのあることを言うのだった。
     散々モクマが弱い弱いと言い続けているあの顔ではなく、ごく穏やかに凪いだ微笑みを浮かべているのはどういった感情なのだろう――なんて駆け引きはそれこそ児戯だ。今さら答えがなくてはならない二人じゃない。すべてをわかりきった上で、すべてなんてとてもわからないままに、モクマはチェズレイに応える。
    「――いんや? どんな形をしていても、チェズレイの手だなって思うだけだよ。」
     一拍の間の後、ふ、と吐息で笑う音。お上手なんですから……とか何とか批難がましいことを言いつつ、嬉しくて堪らないという顔で首を傾け目元にくちづけてくる。お気に召したようで何より、チェズレイが楽しそうならまあ大概の場合はモクマも満足だ。
     赤子をあやすように指と指を摩り合わせてやる。質感や造りがあまりに違っていていっそ面白い。
    「お前さんの手、指が長いだけじゃないんだねえ。おじさんそんなに可愛いお手てしてないと思うんだけど、すっぽり隠れちまう。付け根……いや、手のひらから大きく開くんだ。蜘蛛みたいだな」
    「となると今のあなたはさながら、蜘蛛に囚われた哀れな餌、といったところでしょうかねェ……」
    「あらやだ、変なスイッチ押しちゃった……?」
     今の流れのどこが琴線に触れてしまったのか、一瞬前まで絵画に描かれる天使のようだった表情が一転する様はいつ見てもすごい。子供が見たら半年は悪夢に魘されるな、という面を鼻先に突きつけられながら、モクマは毎度彼の表情筋に無限の可能性を感じる。
     おっかない顔から手元へ視線を移すと、まさに喰う者喰われる者の風情で互いの指を根元までぴったり噛み合わせて握り込まれている。白い五指の間から所在なげに突き出したモクマの指先はチェズレイの喩えも尤もで、まるで檻の格子の隙間から外界へ手を伸ばす囚人だ。
    「いや、うーん、蝶々ってほどか弱くも可憐でもないけどね。」
    「大型の蜘蛛だと鳥や鼠を捕食するものもいるそうですよ。ふふ、恐ろしいですねェ……決して油断を、なさらぬように……」
    「ヤダ、おじさん頭からバリバリ食べられちゃう……♡」
     毒鍋が煮立つような低い笑声は物騒きわまりないのだが、獲物に牙を突き立てる素振りで内側から手のひらを抉ってくる指先の感触があまりにも甘やかで、それらを一身に受けるモクマとしてはついつい相好が駄々崩れてしまうのだった。
    「ほら、どうします。蜘蛛がもう一匹、餌を求めてやってきましたよ」
     随分前から袖にしていたタブレットをついに放り出したらしく――モクマの猪口はとっくのとうにローテーブルへ転がっている――ご無沙汰だったチェズレイの右手が満を持して参戦してきた。
     伸ばされた先はモクマの襟元だ。鎖骨を鍵盤に見立てて戯れる動きは確かトリル、トレモロ、グリッサンド……いつぞやルークにひとつひとつ解説しながら弾いて見せてやっていた横顔を思い出す。脅かすような言葉に反して可愛らしい挙動につい笑ってしまったモクマに隙ありと見たのか、大蜘蛛は長い脚を大きく開いて這い上がる。
    「あなたの男らしい首も、ご覧の通りに一括りだ」
     頸動脈を探り当てるように押し当てられる指の腹。ぐるりと喉笛を握り、皮の薄い掌で直にモクマの息遣いを確かめるチェズレイは楽しそうだ。
    「ねぇ、無自覚に生き汚いあなた。このまま食べられてしまってもいいんですか?」
    「それも悪くないねぇ。悪食のお前さんなら骨まで残さず平らげてくれると信じてるよ」
    「失礼な、私は美食家です。」
    「えっ……それ本気で言ってる? ゲテモノ食いの自覚ないの?」
     釣り針が大きすぎて思わず反射でツッコんでしまった。奇麗なお顔にでかでかと「心外です!」の意思表示を貼りつけて、不満げに尖らせた唇の先で無精髭の散る頤(おとがい)を啄んでくる年下の男のその可愛げときたら。ついで、完璧に計算され尽くした上目遣いがモクマを覗き込む。欲をかいてしまうのはむしろ礼儀だろう。
    「口にはしてくんないの?」
     こちらも唇を突き出し鼠鳴きして催促する。キスミーダーリン、なんておどけてみて。
    「おや、悪い人だ」
    「知らなかったかい?」
    「知っていましたとも。世界の誰より知っています」
     ねえハニー。そう言って恭しく差し出されるくちづけを、首を伸ばして有り難く迎えにいった。ちゅ、ちゅ、と重なる可愛らしいリップ音は下衆と悪党の間で交わされるには些か滑稽かもしれないが、今この場にいるのは知性を投げ捨てた男と男が二人きりなのでどうか許されたい。
     ……古今東西男とは得てして単純なもので、そんな雰囲気ではなかったはずなのに腰の辺りでムラリと沸き立つものがある。途切れないバードキスの合間に水を差すように――油を注ぐように――よく濡らした舌を捩じ込んでみる。
    「手、唇ときたら、ほかにまだ繋ぐ場所があるよね?」
    「……〇点ですね。」
    「うーん、判定が厳しい」
     おじさんだもの、許してちょーだい。投げ出していた左手を細い腰へ回し、ふたり諸ともソファの座面へ倒れ込もうとする。丸め込んで雪崩れ込んじまえばこっちのものだ。口には出さないモクマの下衆な画策を、チェズレイはしっかりと読み取ったらしかった。
    「こら、いけませんよ。」
     ぐ、と抵抗されたかと思うと、逆に肩を抱えて引き起こされる。すっかりその気になってしまったモクマが何とか押し通そうととびきりの媚び顔を作りかけるのを制して、チェズレイは絶対に譲りませんとばかりの硬い声音で宣告した。

    「――先にシャワーを浴びてからです。」


     結局ずっと、ふたりの片手は繋がれたままだ。
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    FUMIxTxxxH

    DONElife is yet unknown.

    モクマさんの手について。
    諸君がワヤワヤやってるのが好きです。
     事の起こりは、路傍の『それ』にルークが興味を示したことだ。

    「モクマさん、あれは何でしょう?」
     大祭KAGURAから数週間後・ブロッサム繁華街。
     夜とはまた趣を異にする昼時の雑踏は穏やかながら活気に満ちている。人々の隙間から少し背伸びしてルークの視線に倣うと、路地の入り口、布を敷いた簡素なテーブルを挟んで観光客と商売人らしい組み合わせが何やら神妙な顔を突き合わせているのが見て取れた。手に手を取って随分と熱心な様子だが、色恋沙汰でもなさそうで。
    「観光地ともなれば路上での商いはいろいろあるけども。ありゃあ……手相を見てるんだな」
    「手相……様々ある占いの中で、手指の形や手のひらに現れる線からその人を読み解くといったものですね」
     両腕に荷物を引っ下げたままタブレットでちょちょいと字引する手際はまさに若者のそれで、実のところモクマはいつも感心している。
    「こんな道端で……というよりは軒先を借りて営業しているんでしょうか」
    「案外こういう場所の方が一見さんは足を止めやすいもんだよ。そも観光なんて普段見ないものを見て歩くのが目的だもの。当たるも八卦当たらぬも八卦、ってやつさ。」
     益体 8628

    FUMIxTxxxH

    DONEknot for two.

    ED後、チェズレイの手の話です。
    お手て繋いでイチャイチャしてるだけ。
     夕食の香草焼きが美味かった。サラダのドレッシングはモクマが作ったが、こちらも会心の出来だった。チェズレイも気に入ってくれたらしい。
     どこまでもマナーの行き届いた彼が最後までひとくち分残しておくのは、食べ終わってしまうのを惜しむ気持ちの表れだと、今のモクマは知っている。たぶんもう、今のこの世でモクマだけが知っている。


     片付けを済ませると、どちらからともなくリビングのソファに並んで腰を下ろした。テレビも点けず穏やかな静けさを共有する。
     二人では居るが、特に交歓に耽るでもなくただ二人で居る。それが心地好い関係に落ち着ける日がくるなんて、かつては思いもしなかった。決して楽しいばかりではなかった二人の馴れ初めを手繰れどただただ小気味良いばかりだ。
     モクマは晩酌に徳利一本と猪口を持ち込み、チェズレイはタブレットで何やら悪巧みを捏ね回している。しかしお互いに片手間だ。何故なら、ふたりの隣り合った手と手は繋がれているから。チェズレイが求め、モクマが応えた。逆の日もある。時折ふたりの間に発生する、まるで幼い恋人同士のような戯れ。
     ……そんな片手間に、モクマはぼんやりと宙を仰いだ。まだ一杯 4701

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    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。ポッキーゲームに勝敗なんてあったっけとググりました。付き合っているのか付き合ってないのか微妙なところ。■ポッキーゲーム


     昼下がり、ソファに座ってモクマがポッキーを食べている。そこへチェズレイが現れた。
    「おや、モクマさん。お菓子ですか」
    「ああ、小腹が空いたんでついコンビニで買っちゃった」
     ぱきぱきと軽快な音を鳴らしてポッキーを食べるモクマ。その隣に座って、いたずらを思いついた顔でチェズレイは声をかける。
    「モクマさん。ポッキーゲームしませんか」
    「ええ~? おじさんが勝ったらお前さんが晩飯作ってくれるってなら乗るよ」
    「それで結構です。あ、私は特に勝利報酬などいりませんので」
     チェズレイはにっこり笑う。「欲がないねぇ」とモクマはポッキーの端をくわえると彼の方へ顔を向けた。ずい、とチェズレイの整った顔が近づいて反対側を唇で食む。と、モクマは気づく。
     ――うわ、これ予想以上にやばい。
     チェズレイのいつも付けている香水が一際香って、モクマの心臓がばくばくしはじめる。その肩から流れる髪の音まで聞こえそうな距離だ。銀のまつ毛と紫水晶の瞳がきれいだな、と思う。ぱき、とチェズレイがポッキーを一口かじった。その音ではっとする。うかうかしてたらこの国宝級の顔面がどんどん近づいてくる。ルー 852

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。気持ちだけすけべ。■もう考えるのは止めた


     敵対組織を一つ潰して、チェズレイとモクマはどぶろくで祝杯をあげていた。ソファに並んで座るとぐい呑み同士を軽くぶつけて乾杯する。下戸のチェズレイは以前、モクマに付き合って痛い目を見たので本当に舐めるように飲んでいる。だが、楽しいことがあった時には飲むと決めたモクマのペースは速い。次々と杯を空けていく。
    「そんなに飲んで大丈夫ですか」
    「ん~、へーきへーき。今夜はとことんまで飲んじゃうからね~」
     いつの間にか一升瓶の中身が半分ほどになっている。そこでチェズレイはモクマがぐい呑みを空にしたタイミングを見計らって、それを取り上げた。
    「ああっ、チェズレイのいけずぅ~」
    「そうやって瞳を潤ませれば私が折れるとでも思っているんですか?」
     モクマが腕を伸ばしてぐい呑みを取り返そうとしてくるのを見ながら、冷静に言い放つ。そこでモクマがへらっと笑ってチェズレイの両肩を掴むと強く引き寄せた。アルコールの、どぶろく特有のほのかに甘い匂い。唇にやわらかいものが触れてキスだとわかった。
    「ん、ふ……」
     モクマが唇を舐めて舌を入れてこようとするのに、チェズレイは理性を総動員して 847

    高間晴

    DONEチェズモク。チェズの髪を切るモクの話。■ノスタルジーに浸って


    「モクマさん、私の髪を切ってくださいませんか」
     リビングのソファで、暇つぶしにタブレットをいじっていたときだった。スリッパの音が近づいてきたと思ったら、チェズレイがだしぬけにそう言う。モクマは一瞬何を言われたのか理解できなくて、チェズレイに訊く。
    「え? 何つったのチェズレイさん」
    「ですから、私の髪を切ってほしいと言ってるんです」
     チェズレイは、腰まで届くプラチナブロンドを揺らしながら言った。その髪は流れの半ばをモーブカラーの細いリボンでゆるく束ねている。思えば、はじめて会った頃よりだいぶ髪が伸びたものだ、とモクマは感慨にふける。って、そうじゃなくて。軽く頭を振って思考を呼び戻すと、アメジストの瞳が瞬いてふわりと微笑む。――モクマがこの顔に弱いと知った上でやっているのだから、たちが悪い。
     チェズレイはモクマの隣に座り、その手を取って白手袋の手で包む。
    「お願いします」
    「い、いや。人の髪を切るだなんて、おじさんそんな器用なこと出来ないからね?」
     モクマはチェズレイの手を振り払う。下手なことをしてこの可愛い年下の恋人の美しさを損なってしまうのが怖かっ 1901

    高間晴

    DONEチェズモクワンライ、「三つ編み」。■永久の約束


    「モクマさん、私の髪をみつあみにしてもらえませんか」
     寝床を共にするようになって、数ヶ月経ったある朝。ベッドから起き上がり、自分の髪を櫛で梳かしながらチェズレイが言った。それにどう反応していいかわからずモクマが隣で驚いた顔をする。
    「えっ……えっ?」
     その声を聞いて、チェズレイは眉尻を下げて瞳を潤ませるとモクマの顔を見つめた。
    「モクマさァん……」
    「うっ、お前さんその顔したらおじさんが何でもしてくれると思っとらん?」
     怯んだ様子でそう言えば、ベッドの上、シーツにしわを寄せてチェズレイがにじり寄ってくる。じり、と近づかれてモクマは小さな悲鳴を上げた。こちらを見つめてくるアメジストの瞳は、朝のたまご色の光を反射してきらきら輝いている。
    「思っていますが、何か問題ありますゥ?」
     そう言われてしまっては返す言葉がない。モクマは、はーっと肺から空気を押し出すようなため息をつく。それから顔を上げると両手でチェズレイの頬に触れる。壊れ物を触るような手つきだった。チェズレイは以前にも髪を切ってほしいなどと無茶振りをしてきたが、またかといった感じだ。
    「お前さんには隠し通せな 1844