ムーサ 秋、風見さん(R)原稿の依頼なら大分沢山受けたけれど、このような依頼は初めてというのもあり、つい引き受けてしまった。
それは良く原稿を書いている出版社の編集者さんである風見さんからの依頼であった。
~男にして頂けませんか?~
私のような歳下の娘に頼む程に切羽詰まった様子がとても気になり話を聞いた。
異性や情事に関わる耐性が無さすぎて文章も最後まで読めないし、気を失ってしまうとの事で
「好きでこうなんじゃないんです。だけどこんな姿を変えたいと相談出来る人もいなくて」
黒く美しい瞳が瞼で伏せられ、小さく揺れる。
別に人が嫌いだとか男性が好きという訳ではなく、耐性がなさすぎてこの先が不安なのだと彼は語った。
確かにこのさき官能小説家の担当になったり女性を好きになっても今の状態だと辛い事になりそうだというのは想像にかたくない。
それは大変だろうなという思いもあり、私でお役に立つのなら、と、女性慣れの相手を引き受けていた。
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最初は本当に大変だった。
軽く抱きついただけで風見さんは気を失うので、出会い茶屋のように利用されている蕎麦屋の2階に部屋を借り、少しずつ練習する事にした。
まずは手を繋いで寄り添って眠る。
勿論服は着たまま。
その後に顔を寄せ合い触れ合う。
頬や鼻、唇を柔らかく指で触れ合う。風見さんの身体が震えたり青ざめたら一旦中止にし、次の時にやり直す。
そのようにゆっくりゆっくり、触れ合う部分、素肌の部分を増やしていった。
髪を撫でる。
頬に触れる。
軽く唇を重ねる。
深い口付けをする。
首筋や胸元に手を這わせ服の上から触れる。
それが出来るようになると服を脱いで同じ事をする。
さらに慣れてきたら指や唇で感じる部分を愛撫していく。
上半身が出来るようになったら下半身も同じように……
まだ女性器を見たり触れるのは難しいようだが、私の方が風見さんの下半身に手で触れ吐精の手伝いをする、という所までは問題なく慣れてきたようだった。
今日もおさらいをしながら布団の中で抱き合っていた。
起立している風見さんの雄部分を先端から滴るぬめりをつけて強弱を加えながら上下に手を動かす。
胸元に枕を抱え、声を押し殺す姿に拒否がない事を見て先を続けた。
何度か左右の手を変え、動きを変えながら擦っていると小さい呻き声のあとに青臭い白濁が手と私の身体にかかった。
汗ばむ肌をそのままに吐精の疲れで荒い息をする風見さんは少し濡れた肌も瞳もくたりとした様子もとても美しかった。
色気のある、という言葉が似合う姿が少し羨ましい。
この辺りまで触れ合うことが出来るのならば、きっと他の方とも上手くいくだろう……
それは喜ばしい事だけれどもほんの少しだけ私の心の端に影を落とした。
だから
まだ荒い息を繰り返す風見さんの雄を再度握り軽く手で愛撫し、また立たせた。
そして自分の性器の先端を充てる
くちり、とぬめった音が室内に響いた。
「セン…セイ……?」
少しだけ驚く彼に口付けをしたあと、耳元で囁く。
「この先の練習は必要ですか?」
少し意地悪な質問だ。
目を見開く姿を見ながら自分の身体に付いていた白濁を指で掬って軽く舐めた。
彼の頬が更に朱に染まる。
その姿を見ながらもう一度顔を寄せて小さく囁く
「この先を望むなら来週の同じ時間にこの場所で……その時は最後まで止めませんよ?」
それだけ伝えると私は風見さんから離れ、身体を清める準備に入った。
今日の練習はこれで終わり。
さて、彼はエデンの果実を齧るのだろうか、抗うだろうか?
それは来週にならないと分からない。
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夜顔出版社に原稿を渡すためかなり久しぶりに入った。
見知った編集者さん数人に挨拶をし、目的の人を見つけて声をかけた。
「風見さん」
洋服に半纏を纏う黒髪の青年が振り返る。
黒い大きな瞳が私を見つけ"センセイ"と呟いたのが見えた。
誰も居ない給湯室に向かいそこで原稿を渡してから静かに形の良い唇に自分の唇を重ねる。
ゆっくり後頭部に回った少し大きな手のひらで後ろから押され、唇同士の距離がさらに深まった。
浅い呼吸の合間に舌を絡めながら深い口付けをし、唇を離すと風見さんの唇はほんのり色づき濡れて輝いていた。
そこを優しく指で触れながら見る。
最初の頃に震えて青ざめていた唇の姿はなくなり、少し嬉しくなる。
「今日も練習の日でしょう?私はもう予定がなくなりましたからいつもの蕎麦屋の2階で待ってますね」
一番大事な要件を述べ、私の瞳の色と同じ名前を持つ人を見た
少しだけとろり、と黒い瞳が艶を増す
このあと起きる出来事を想像しつつ早く彼の出勤時間が終わるといい、そう考えながら出版社を後にし待ち合わせ先の蕎麦屋に向かった。
今日はどのような姿を見せてくれるだろうか?