待ち焦がれていたハートブレイク とある女優の情報をスマホでチェックするのが癖になっていた。ネットニュースやSNSで見かければ、指先が勝手に彼女の名前に触れている。
彼女が出演していたドラマや映画も見たことはあるが、特別に好きなわけではない。嫌いでもないが、彼女を好きと公言する男の顔が浮かんでしまい、好意的な感情は無意識のうちに抑圧される。ただ、好きな人の好きな人に対する好奇心だけが殊更にあった。
人気女優の名前が突如としてスマホの画面を占拠した。「結婚」の文字とともに。
SNS上には、祝福や喜び、悲嘆の言葉があふれていた。女優の名前で検索をかけてみれば、すっかりお約束となった「ロス」や「ショック」を添えた投稿が量産されている。お祭り騒ぎであり地獄絵図。ファンの様々な感情がスマホの画面に入り乱れていた。即座に思い浮かんだのは、御幸先輩の顔だ。
気づけば手の中のスマホは御幸先輩を呼び出していた。御幸先輩は今、どんな気持ちでいるのだろうか? やっぱり御幸先輩もこういう時ショックを受けるのだろうか? なんと声をかけようか思案しながら深呼吸を繰り返す。規則的に鳴るコール音が中途半端に途切れた。
「御幸先輩! 今から飲みに行きませんか?! 俺のおごりで!」
咄嗟に言葉が出た。
つづきました(↑)