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    虚のポイピク

    なんでも投げるところ。
    性癖に忠実。

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    POIPOI 12

    虚のポイピク

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    大分前にネップリ限定で出していた特殊設定A▽▲です。
    供養ついでに全文公開します。修正とかしてないので大分読みにくいとは思いますが、暇つぶしにでも読んで頂ければ嬉しいです。

    周波数:52Hz ねぇ、前世ってあると思う?
     ほら巷ではそういうのを占いで見てもらったりして、自分の前世が一体何だったのかを調べるのが流行っていたりするらしいね。動物だったのか、虫だったのか、はたまた生き物では無かったのかもしれない。そういうの知りたいっていう気持ちは、多分普通。自分の知らないものがあるのって、ちょっと怖いよね。でも、僕は違った。何故なら物心ついた時に、自分の前世が何なのか知っていたから。

     時々、夢に見るんだ。深く、どこまでも続く青い闇を一人で泳いでいる。大きなひれに、力強い尾びれを使って広大な海を回遊する孤高の旅人。

     そう、僕の前世はくじらだった。
     
     たった一人ぼっちで旅をしている間、いつでも歌を口ずさんでいた。独特のメロディーに乗せて水の中を伝播していくそれは、僕の心を高揚させた。今じゃ人様に聞かせられるようなものは歌えないけど、くじらの時はとても自信に満ち溢れていたのかもしれない。暖かい海で、極寒の深海で、荒れ狂う大海原で休まずに歌い続けた。でも、誰一人として、僕の歌に返事をしてくれることは無かった。
     悲しかったし、辛かった。夢の中で追想するそれらは、僕の心を悲壮感で満たしていった。もう止せば良いのにって思うのに、くじらの時の僕は、自分でもびっくりするくらい往生際が悪いらしく、誰かを探し続けて歌っていた。泣いているような、苦しんで呻いているような声を出す彼に幼い時の僕は毎晩飛び起きては、隣で眠っているノボリ兄さんに抱きついていた。

    「にいしゃん……にいしゃん……」
    「おや、どうしたのですかクダリ」
    「あのね、ぼくがんばってお歌を歌っているのにだれも気づいてくれないの……」
    「それは、とてもさびしいですね」
    「うん……ねぇ、どうすれば届くのかなぁ」
    「ふふ、だいじょうぶですよクダリ。その歌は、だれかにちゃんと届いていますよ」

     そう言って背中を優しく摩ってくれるノボリ兄さんの手に、幼いながらも僕は確信した。きっと、この人がずっと探していた人なんだって。大切な人はこんなにも近くに居たんだって。多分、あれが初恋だった。でも、初恋は叶わないっていう言葉があるよね。あの、都市伝説じみた噂。それでも僕の辞書に諦める、なんて文字は無かった。
     その感情を自覚してからの僕というと、猪突猛進という言葉が当てはまるほどノボリ兄さんにアタックをし続けた。何年、何十年経っても構わない。今度こそ、必ずこの言葉を伝えるんだって意気込みで。それから月日が流れて、成人になる前の晩に頬を赤くしたノボリ兄さんが「私も、クダリのことが、好きですよ」って言ってきた。流石の僕も言葉を咄嗟に理解できなくて固まってしまったけど、すぐに兄さんを抱きしめていた。これでもかっ、てぐらいね。

     まぁ、普通ならそれでめでたくゴールインだろうけど、僕らの場合そうはいかなかった。兄弟で、近親者同士が恋をするなんて異端にもほどがあるらしかった。おかげで実家からは追い出されるし、就職にも少しだけ苦労した。でも、僕は幸せだった。なんせ、ずっと歌を届けていた存在が隣にいるんだよ。これ以上の幸福を願ったら、それこそ罰が当たってしまう。だから今日も僕たちは地下に引きこもって、挑戦者たちに対する鼓舞を、更なる高みへと導く指標を紡ぐ。これもある一種の、歌だから。

    「おや、どうしたのですかクダリ。そんなにお顔をヘニョヘニョさせて」

     懐かしい記憶に浸っていた僕を、回想の海から引き上げたのはノボリ兄さんの声だった。フワフワして人を安心させるのと同時に、背筋が伸びるような不思議な声音。それは僕も例外じゃなく、慌てて両手を振って照れ隠しをする。そんな事しなくても良いんだけど、やっぱりこの人の前ではカッコよく在りたいから。

    「な、なんでも無いよ兄さん。それよりもさ、そろそろ次のマルチトレインの発車時刻だよね」
    「本当ですね、危うく忘れてしまうところでした」
    「もう、ノボリ兄さんはおっちょこちょいなんだから」
    「……クダリの前だけですよ」

     声のトーンを落として、瞼を少しだけ閉じる兄さんにドキリとしてしまう。その身に纏う雰囲気はまるで、はるか昔に実在していた傾国の美女を思わせるから。いや、兄に対してこの表現もどうかと思うが、僕にとってノボリ兄さんはそれよりもすごい存在だから仕方ない。
     心臓が早鐘を打って頬に熱が集まり出すのが、自分でもよく分かる。指先を忙しなく合わせながら、視線を下へ向けているとノボリ兄さんが手を差し伸べてくれた。そこに遠慮しつつも手を乗せれば、指先を柔く包み込んでくれる。

    「さぁ、早く行きましょう。お客様がお待ちですよ」
    「う、うん!」

     ねぇ、前世の僕。君がずっと探していた人はね、とても暖かくて優しくて、深い愛情を持っているんだよ。だから、そんなに泣かないで良いんだ。大事なものって、意外と見つけにくいけど案外近くにあるものなんだし。
     手を繋いだまま少し先を歩くノボリ兄さんを、追いかける。きっとこの背中が、旅の終着点だ。地図も何も無い航路の向こう側に在ったのは、途方もないほどに綺麗な人だった。多分この世にある財宝を集めても、手に入らないほどの。だからこそ、愛おしくてたまらない。
     
     僕のただ一つの宝物。真っ直ぐで、全てを照らす世界で一番美しい、光。



     私の弟であるクダリは幼い頃、よく悪夢に魘されていました。
     原因は、前世を追体験する夢を見ているというものだった。彼の話曰く、自分の前世はくじらでずっと一人で誰かを探して歌っていたらしいというのです。ここまで聞いて大半の人は、馬鹿馬鹿しいと思うかもしれませんね。でも、私は信じました。否、語弊がありますね。知っていた、という方が正しいかもしれません。
     これから話す内容は突拍子も無い事かもしれません。ですが、全て真実なのでしっかりと聞いてくださいね。

     実は私、海の記憶を持っているのです。

     あ、ほら今少し怪訝な顔をなさいましたね。でも、本当のことなのですよ。あの広大で時に優しく、時に恐ろしくもある場所。地球の気候すらも司る存在は、いつでも私と共に居ました。そして私が物心ついた時、声が聞こえたのです。ずっと遠く、耳の奥から響くような重低音。それが、大人になった今でも聞こえています。
     一番最初に耳にしたのは、迷子になった幼子が母を探すような声量。ぐわんぐわんと脳を揺さぶるような大声に、そんなに大きな音で泣いたらみんな気づいてくれませんよと言いたかった。でも、概念的な存在である私はその相手に言葉を届けることができなかったのです。

    「どうして、あなたはそんなに泣いているのですか?父様や母様はおられないのですか?」

     そう言葉を返しても、聞こえてくるのは泣き声だけで。幼い時の私はもうどうすれば良いのか、分かりませんでした。声の正体も、解決策も見つからずに悶々と日々を過ごしていたある日、クダリがこう言ってきました。

    「にいさん、ぼくね、前はくじらだったの」

     それを聞いた私は、パズルのピースがカチリと合うような感覚を覚えました。なるほど、あの声はあなたの声だったのですね。その事が判明した日から、頭に響く声は徐々に近づいてきました。最初の頃は、水の膜を通したようにくぐもっていた声が次第に耳元で聞こえるのです。一時期はそれが原因で、耳が聞こえにくくなっていました。
     そして、そんな現象と並行するようにクダリは私のことが好きだと言い始めました。そりゃ私も最初は冗談だと思い軽く流していましたが、彼の目を見て確信しました。この子は、本気なのだと。それからも猛アタックを繰り返してくるクダリに、私は折れた。というよりも、あの声に導かれたと言っても良いかもしれません。
     
     だって仕方ありません、あの子が好きと言えば共鳴するように声が聞こえるのですから。

     そうして大人になる前の日に、私がお返事をして見事交際がスタート、という感じですね。でもそれからの日々は、幸せとはかけ離れたほど大変でした。なんせ、クダリとキスしている所を両親に見られ、縁を切る形で家を追われたんですから。それからは野宿したり、小金を稼いだり。まぁ、バトルの腕を見込まれ運良くギアステーションに就職出来たので良し、としますが。

    「あの時は、苦労しましたね」
    「うん?何か言ったノボリ兄さん?」
    「いえ、こちらの話ですよ」

     昔の記憶に浸ってポツリと呟いた声を目ざとく耳にしたクダリが、心配そうな顔で覗き込んでくる。僕に手伝えることは何かある?と言いたげな目には、薄らと涙の幕が張ってある。それがまるで遠浅の海みたいで、綺麗だと思った。この寂しがりやで心優しくも、独占欲が強い弟は私のことは何でも知っておきたい性質であるようなのです。それも、分かりますよ。だって、ずっと探して続けていたんですよね、私を。
     時間も空間も全て超えて、やっと見つけた存在が目の前にいれば手放したく無いのは分かります。今だって必要無いはずなのに、私の手の甲へと掌を重ねてずっと握り続けている。触れている部分から、どこにも行かないでそばにいてという気持ちが伝わってきそうで。

    「そう、なら良いんだけど。あ、そうだ兄さんお昼ご飯まだだよね。もしよかったら一種に食べに行こうかなって思ったんだけど、どうかな……?」
    「もちろん、かまいませんよ」
    「本当!?じゃあどこが良いかな、僕は何でも大丈夫だから兄さんが決めて良いよ」
    「ふむ……では、この前新しく出来た美味しい魚介類が食べられるお店はどうでしょう?」
    「あそこだね、了解」

     じゃあ行く準備するね、と笑顔で席を立つクダリと離れていく体温が名残り惜しい。こんな普通の日常を心の底から嬉しいと思い、幸せだと感じるあの子を見ていると私まで多幸感を感じられるのです。

    「……ねぇ、くじらさん。あなたはどう思っているのですか?」

     瞼を閉じれば、またあの声が聞こえます。私の十数年と共に歩んできた、歌声。幸福ですか?楽しいですか?、と聞けば弾んだようなリズムを返してきます。踊り出しそうなほど明るいのに少し調子外れの旋律にクスリ、と笑ってしまう。だって、クダリもそんなに歌が上手では無いのですから。

    「でも、そういうところも大好きですよ。これからも、歌を聞かせてくださいね」

     一人ぼっちのくじらさん、あなたがずっと探していた人って本当はすぐ近くに居たんですよ。いつだって暖かく包み込んで、まぁ時には乱暴にしてしまったかもしれませんが。だからもう、そんな悲しそうな目をしないでください。

    「クダリ、私ずっとあなたの隣で見守っていますから」

     青い闇の中に差し込む、一筋の光。寄る方のない虚無へと流し続けていた通信は、私にちゃんと届いていたのですよ。
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