Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    WhiteLeafMILK

    @WhiteLeafMILK

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    WhiteLeafMILK

    ☆quiet follow

    熱をだしたライちゃんとマスターに言われてきたマークスの話

    じわりと熱が上がった気がして、ライク・ツーは額の上に乗せていた生ぬるいタオルを横にずらした。そんなことをした所で熱が下がるわけでも不快感が治まるわけでもないのだが、とにかくサイドボードに手を伸ばすことすら億劫に感じられる。
    「人の体はこれだから……」
    しかめっ面をしながら、ライク・ツーは思わず悪態をついてしまった。改めて得た人の体。喜ばしくもあるが、多少頑丈ではあれど他の人間同様病気にかかってしまう可能性があることは少し面倒くさく思ってしまう。それでも、銃としての役目を終えたまま錆びるよりはマシか。どうにか苛立つ自分に言い聞かせていれば、ノックのひとつもせずに扉が開かれる。
    「本当に風邪だったのか」
    「ったり前だろ……で、なに。今はお前の顔見たくないんだけど」
    「マスターから頼まれてハーブティーを淹れてきた。冷めないうちに早く飲んでくれ」
    「別に、そんなのなくても……っ!」
    部屋に入ってきたマークスを追い返そうと伸ばした手を引っ込めて、口元を抑える。しばらくの間突然こみあげてきた咳は続いて、咳のせいで疲れきったライク・ツーは、未だにティーポットを持って立っているマークスを睨みつけた。
    「何見てんだ。さっさと出てけよ」
    「あんたがこれを飲むまで居座る。マスターの頼みだからな」
    「馬鹿らし……」
    「それに……あんたが早く治らないと、周りが妙に静かで落ち着かない」
    マークスの言葉に、ライク・ツーはなんとも言えない気恥しさを覚えてしまう。常に一緒にいる訳では無いが、お互い目につく存在で、ライク・ツーにとってもマークスが静かだと落ち着かないのは同じだった。
    「俺が飲み終わったらすぐ帰れよ」
    「そのつもりだ」
    ライク・ツーが了承を出してすぐ、ふわりと甘い香りが部屋に広がる。ティーポットにお湯を注いでいるマークスをぼんやりと見ながら、随分甲斐甲斐しいな。などとライク・ツーは失礼なことを考えてしまった。マスターが頼んだからというのもあるのだろう。
    三分。いや、五分ほど経った頃にマークスはようやくライク・ツーへカップを差し出す。遅いと文句のひとつも言いたいが、また勢い余って咳がでても面倒くさいとライク・ツーは大人しくカップを受け取った。
    「……おいし」
    「これに使っているハーブ……エルダーフラワーはマスターが風邪のひき始めによく飲んでもらってるんだ」
    「ふーん」
    「これは喉の炎症を抑えてくれる。あんたの咳も少しはマシになるはずだ」
    今しがた淹れたハーブティーの効能をマークスは自慢げに話し始める。マスターが、マスターは。と多少うるさいとは思いつつも、今のライク・ツーに怒る程の元気はない。
    正直なところを言うと、少し嬉しささえあった。
    「1日3杯飲むのが推奨されていてだな、肌にも良い。実際マスターも効果を実感してるらしい」
    「……美容にもいいんだ」
    「あんた、そういう所は食いつくんだな」
    「別にいいだろ。つーか、お前冷める前にとか言っといて、わざわざここで淹れる必要あったか?」
    ハーブティーを飲み終えたライク・ツーは一瞬気が抜けてしまった自分を恥じつつ、誤魔化すようにマークスを見る。そもそも、冷めないうちに飲めと言っておきながら、目の前でハーブティーを淹れてくるとは思わなかった。伝染る可能性もあるのに、何を考えているのか、何も考えてないんだろう。そんな予想を立てて聞いてみればマークスは不思議そうな顔をする。
    「どうせ飲んでもらうなら、一番いいタイミングで飲んで欲しいからに決まってるだろ」
    「あっそ……」
    マークスにとってはいつもがマスターの為に淹れているのだから、一番いいタイミングで飲んでもらうことは当たり前ではあるのだが、ライク・ツーはそれがどうもむず痒くなる。自分のことを嫌いと言いつつ、そういう所はちゃんとするのか。と。
    「あのさ」
    「何だ」
    「夜も来てくれんの?」
    「どこにだ……?」
    「……俺の部屋。1日3杯がいいんだろ。今昼だから、夜に飲みたいし」
    そこまで言って、ライク・ツーは自分の言葉に気付いて咄嗟に布団に寝転び、マークスに背中を向けた。誰かに甘えたくなっているのは風邪のせいだ。こいつじゃなくても良い。後ろから帰る準備をしている音が聞こえてくる。
    「やっぱ自分で淹れる。ハーブだけ準備しとけ」
    「いや、夜も来る」
    「だから……!」
    「体の調子が良くない時は無理をしない方がいい。それに……」
    マークスが言いづらそうに口ごもったのを察して、ライク・ツーは「なんだよ」と、先を促す。うっかり振り返って、後悔をした。
    「他人に甘えたくなるとも聞く。あんたも……そうなんだろ。ライク・ツー」
    少し優越感の交じったようなマークス笑顔にライク・ツーは不調からではない熱を感じてまた背を向ける。
    「絶対来るな」
    「いや、来る」
    「来んな!もう出てけよ!」
    後ろから聞こえてくる堪えきれていない笑い声に、いらだちを感じつつ、ライク・ツーは病気なんてろくな事がない!と頭の中で悪態をつく。 また夜に。と出ていく間際に聞こえ、遂には頭まで布団を被ってしまった。
    「あのハーブティーに変な薬が入ってたんだ」
    この熱のせいで風邪が長引く。熱くなった頬の熱はもうしばらく、下がってはくれなさそうだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯💯💘💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator