オオカミと北極星.
夢を見た。懐かしい夢だ。どこからか獣の鳴く声が聞こえる。
――泣いている。いや、怒っているのか。
傷だらけの獣は絶えず咆哮する。天を貫くほどの悲しみが、怒りが、その身を震わせていた。
数多の人を殺し、決死の思いで生き抜いた先に見たものは何か。自らが命を奪ったひとの顔を忘れたことはない。それでも、その一人一人と向き合うことなどできるはずもなかった。彼らもまた、自分と同じ「人間」であるのならば。彼らにも愛する家族や友人がいるのならば。
ただ生きたいと願う心を咎める権利が誰にあると言うのだろうか。無論、答えは問うまでもなくわかっていた。
戦地から帰還した後、一度だけ赴いた昔馴染みの土地には、戻ることはできても帰ることはできなかった。幼い日を共に過ごしたあの人は変わらずそこに暮らしていたというのに、全身に染み付いた血の匂いが郷愁を覚えることすら許さなかった。鈍色に塗り潰されていく世界の中で己だけが不自然なほど赤い。
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