見た目は子供、中身も子供私のお兄ちゃんは一言で言えば子供である。気弱でオドオドとしていてなおかつ外見が子供っぽいため、からかわれることが非常に多いのだ。私もよくからかうけどけど。
「おーい、お兄ちゃーん」
「あ・・・う、えっと・・・な、何?」
「今日も可愛いね!」
「あうっ!?」
赤面して俯くお兄ちゃん。もう、本当に可愛すぎる!こんなに可愛い生物を私は他に知らないよ!!
「ああ~もう、ほんとに可愛いんだからぁ~♪ほらほらこっちおいでぇ~♪」
「わぷっ・・・むぐぅ・・・」
ぎゅっと抱きしめてあげるとお兄ちゃんは大人しくなってされるがままになる。抵抗しても無駄だと理解しているからだ。そしてしばらくそうしていたあと、私は名残惜しみながらも解放するのだった。
「さってと、そろそろ出かけようかな。お兄ちゃんも一緒に来るよね?」
「うん、まぁいいけど・・・どこに行くの?午後にバイトのシフト入ってるんだけど・・・」
「ふふん、それは行ってみてのお楽しみだよ♪それじゃあ行こっか」
「う、うん・・・」
こうして私たちは家を出て歩き出す。手を繋いで仲良く歩いていると周りの人から微笑ましい視線を投げかけられるのだが気にしない。私たちにとってはいつものことだから。ちなみにこの前私が買った服をお兄ちゃんに着せてみたのだがこれがまた予想以上に似合っていて可愛かったのでつい写真を撮ってしまったほどだ。しかもそれを待ち受け画面に設定したのでいつでも見れるようにしてある。もちろん誰にも見せないけどね。だってこれは私だけの宝物なのだから。
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僕は一言で言えば成長の止まった子供である。身長も伸びないし筋肉もつかないし見た目も全然変わらない。そんな僕が妹と一緒に歩いていたらどうなるかと言うと周りからは兄妹には見えないだろう。なぜなら僕は妹よりも年下に見えるくらい背が低いし童顔だし華奢だからだ。自分で言うのも悲しいけれど事実なので仕方がない。それでいてオドオドして弱気で頼りなさげな雰囲気を出しているせいかよく小学生や中学生と間違えられることもある。その度に僕は凹んでしまうのだが妹の方は楽しげに笑うだけで全く意に介さない。それが悔しくて何とかしたいと思っているものの未だに成果は出ていない。そもそも大学生になった今でも妹の方が僕より頭一つ分以上大きいのだから何をやっても意味が無いような気がする。前にベッドの上で小学生の格好をされた上にランドセルまで背負われた時は本気で泣いたものだ。あれ以来あの手のことはされなくなったけどその代わりに頭を撫でられるようになったりハグされるようになったりした。でもやっぱり恥ずかしいし困ってしまう。ただでさえ小さいことで悩んでいるというのにこれ以上悩みを増やすのは止めて欲しいと思う。両親がいない今、唯一の家族である妹とはなるべく仲が良い関係でいたいのだ。しかし僕の願いとは裏腹に妹は日に日にスキンシップが激しくなっていくばかりであった。
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ある日のこと、僕は大学の講義を終えて家路に向かっていたが気がつくといつも通っている道ではなかった。コンクリートの壁に囲まれた無機質な通路のような場所を一人寂しく歩いていることに違和感を覚えた彼は立ち止まって首を傾げる。
(あれ、ここはどこなんだろう?)
来た道を戻ろうとしても何故か引き返すことができない。まるで迷路のように入り組んだその場所は明らかに普通ではない何かを感じさせるものだった。しばらく歩いているとスーツを着て傘を差した男性とすれ違う。一瞬だけ目が合ったがそれは人ではなかった。顔はのっぺらぼうで口しか存在しなかった。反射的に悲鳴を上げて逃げ出そうとした時、腕を掴まれてしまう。振り払おうにも相手はとても力が強くて振り解けなかった。
「い、いやっ!!離して!!誰か助け―――!!」
そのままずるずるとどこかへ連れて行かれそうになる。恐怖を感じたその時、急に体が軽くなったように感じられた。不思議に思って振り返るとそこには先ほどの男の姿は無く代わりにコートを着た人物が立っていた。身長は高く体格もいいようだが何より特徴的なのは右手に纏った緑色のオーラだった。その人物は手からワイヤーのようなものを出すとさっきの男の胸の辺りに伸び、何かを引き抜いた。すると男は消え、景色が元の路地に戻る。
「えっ、あっ、あ、あなたは・・・?」
「・・・」
「さっきのは何ですか!?それに、どうして僕を助けたんですか?」
「・・・」
「なんか言ってくださいよ!じゃないと僕、怖くて・・・!」
「・・・」
「お願いですから何か喋ってくださ・・・ひっ!?」
男がこちらに手を伸ばしてきたのを見て思わず怯えてしまった。すると頭を優しく撫でられる。安心感が湧き上がって涙が出そうになった。
「もう大丈夫だ」
「っ・・・」
「安心しろ、俺はお前を傷つけたりはしない」
「・・・ほ、本当、ですか?」
「ああ、もちろんだとも」
「・・・分かりました、信じます」
「いい子だ」
「あうぅ・・・うわあぁぁぁぁぁ!!」
優しい言葉をかけられたことで緊張の糸が切れてしまい、泣き出してしまった。男性は子供をあやすかのように背中をさすってくれる。その優しさにますます心を許していった。