アジトへ戻る途中、マレビトに襲われた子供を助けた。そいつは弱気でなにかオドオドとしていて、守ってやらなければ死んでしまうようなヤツだった。
「安心しろ、俺はお前を傷つけたりはしない」
「・・・ほ、本当、ですか?」
「ああ、もちろんだとも」
「・・・分かりました、信じます」
「いい子だ」
「あうぅ・・・うわあぁぁぁぁぁ!!」
俺が声をかけた瞬間、子供が突然泣き出した。そのあまりの怖がりように思わず苦笑する。背中に手を伸ばしてあやしてやる。しばらくそうしていると落ち着いてきたのか、ようやく泣き止んだ。
「落ち着いたか?」
「はい、ありがとうございます」
「礼なんていい。ところでどうしてこんなところに一人でいるんだ?お父さんやお母さんはいないのか?」
「えっと、あの・・・」
どうにも歯切れが悪い。なんだ、言いたくないことでもあるのか?まあいいか。そのうち話してくれるだろうしな。それよりもまずはこの子供を家に帰さないとな。さすがにこの時間に子供を一人歩きさせるわけにはいかない。
「とりあえず今日はもう遅いから家に帰れ。家はどこにあるんだ?」
子供は畳まれた紙を大事そうに抱えていた。そしてそれを俺に差し出してきた。中には住所と電話番号らしきものが書かれていた。
「ここから近いのか?」
「はい、歩いてすぐです」
「なら送ってく」
「いえ、そんな悪いですよ!」
「遠慮すんな、別にこれくらい大したことじゃない」
「でも・・・」
「大丈夫だって言ってるだろ?それとも何か、俺の言葉を信じられないのか?」
「い、いえ!そんなことはありません!」
「じゃあ決まりだな」
子供の手を引いて歩き出す。なにも喋らず無口で俯いたままだが、しっかりと付いてきているようだ。少し歩いた先にマンションが見えてきた。エントランスに入ってエレベーターに乗り込む。目的の階まで上がって外に出た。そこからまた少し歩くと目的の部屋の前に辿り着いた。
「ここか?」
「はい、ここが僕の家で・・・あっ麻里」
子供が急に立ち止まった。それにつられて俺も立ち止まる。すると扉の目の前に一人の少女が立っていた。こちらを見るなり駆け寄ってきた。その子は子供の前で止まってじっと見つめた後、おもむろに抱きしめた。
「よかった無事で本当に良かった・・・」
心の底から安堵した様子の少女。その様子を見て、どうやら心配されていたらしいことが分かった。
「麻里、やめてよ・・・人がいる目の前でハグとか恥ずかしいじゃん」
「何言っているの、こんな時間に出歩いている方がおかしいでしょう?それであなた誰なんですか?うちのお兄ちゃんになにしに来たんですか?」
「おいちょっと待て、俺は別にこいつに危害を加えようと思っている訳じゃないぞ?ただ家まで送り届けようと・・・待て今なんて言った?お兄ちゃん?」
「そうですけどなにか問題ありますか?」
何を当然のことをというような顔で見てくる少女。その目は俺を睨みつけておりとても冗談を言っているようには見えない。この子供が少女の兄?つまりこの二人は兄妹ということなのか?普通逆じゃないか?妹の方がしっかりしていて兄の方は頼りなさそうだ。
「あー、えっと麻里っていうのか?」
「はい、そうですけど?」
「苗字を教えてくれるか?」
「伊月です。伊月麻里、でお兄ちゃんの」
「伊月暁人です。こんな外見ですが二十歳は越えています」
「・・・マジで?」
思わず素が出てしまった。見た目はどう見ても小学生くらいにしか見えないんだが?今で言う合法ショタってやつか?
「僕って童顔だからよく間違われるんですよね。ちなみに身長も低いのでよく年下に見られることもあります。これでも成人している立派な大人なんですよ?免許証見せましょうか?」
「いや、いい。職業柄疑ったりして悪かったな」
「いえ、気にしないでください。慣れてますから」
「そっか。とりあえず送ってくれてありがとうございます。おかげで助かりました」
「いえ、困った時はお互い様ですよ。それと、今日見たことはできれば忘れて欲しいのですが・・・」
「分かった、約束しよう」
「ありがとうございます。では僕はこれで失礼します」
「おう、気をつけろよ」
二人を見送ると、俺はその場を離れた。