「麻里~遊びに来たよぉ~・・・あれ?」
普段ならベランダに飛び込むと窓を開けに来るのだが、今日は違う。麻里がいる反応がない。
「・・・探すか」
前に麻里に持たせたお守りを探知してみると、少し離れた所に麻里の反応があった。
「よし!」
俺はお守りを頼りに麻里の所へ走った。だか、
「・・・えっ?」
僕は目にしたのは頭から血を流して倒れている麻里だった。その手には黒い布の一部が握られていた。それを手に取ると、それはあの男が着ていた服の一部だということが分かった。僕の中で怒りが込み上げてくる。唯一の家族を傷つけられ、何もできなかった自分に対しての怒りが。僕はあいつの仲間の少女を見つけると後ろからポニーテールの髪を鷲掴みにして引き寄せた。
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「ここか?鬼神稲荷って」
「そうみたいだけど」
《場所的にはここであってるはずだ》
俺は仲間と共にある神社にいた。あの狐のフリをした鬼について調べた結果、ここにたどり着いたのだ。何重段もある石段を登り、たどり着いた先は素朴な社があるだけで後は狐の石像が対になって置いてあるだけだった。歴史はそこまでと言うわけではないが地元の人からはそれなりに信仰されているようだ。
「誰もいねぇな」
「もしかしたら本殿の方にいるのかも」
「行ってみるか」
俺達は石畳の上を歩きながら本殿へと進んだ。特に変わった様子もなく賽銭箱がポツンと置いてあり隣にはお菓子や酒瓶がお供え物として置いてあった。
「特に異常はないな、ところで絵梨佳を一人にしてよかったのか?」
「あの子をここに連れてくるわけにはいかないの」
「お前が絵梨佳を心配する気持ちはわかるが」
後ろから何かが勢いよく落ちたような音がした。
「お前らが麻里をやったんだろ?」
振り替えるとそこには絵梨佳の髪を掴み、こちらを睨み付ける角の生えた、まさしく鬼の形相をした青年だった。絵梨佳を見ると額から血を流している。
「相当お怒りの様子だな」
凛子は表情は変わってないが足がわずかに震えていた。
「何をしたと言うんだ?」
「とぼけても無駄だ!これが証拠だ!」
鬼の青年が見せたのは俺の服の一部だった。あの時あいつのが急に現れていきなり剥ぎ取られたのだが、まさか・・・
「唯一の妹を傷つけやがって、おまけに神社荒らしまで」
「誤解だ!」
「黙れ!」
青年は一瞬にして間合いを詰めると、凛子の腹を殴り付けた。その拳は凛子のみぞおちに深く突き刺さり、そのまま吹き飛ばされると鳥居の柱に叩きつけられた。
「凛子!!」
「よそ見する暇あんのか?」
脇腹を蹴り上げられ木に叩きつけられる。
「ぐふぅっ!?」
「どうした?この程度なのか?罰当たりめが」
地面に落ちたところを馬乗りにされ顔面を何度も殴られる。
「うぶっ、ごぶぁっ、げほっ、げほぉっ」
意識が飛びそうになる寸前で殴るのをやめてくれた。
「まだ死なれちゃ困るんだよ、お前には聞きたいことがあるからな」
「き、聞くことなんてないだろ?」
「まあ、そうなんだけどね、でも安心していいよ。殺すつもりはないから、ただ死ねばよかったと思わせるほどの苦痛を与えるだけだから」
二の腕を掴まれ、肩が外れるかと思うほど強く握りしめられる。
「痛いか?これでも加減してやってる方なんだぜ?本当は今すぐ殺したいところだが、それじゃあつまらないからな。そうだな・・・まずはその腕折ってやるよ」
「や、やめてくれ・・・」
無言で腹を殴られ、胃液を吐き出す。
「かっはっ・・・誤解だ。俺たちは手を出してない」
「誤解?そうかそうか。ならなんでお前らの服の切れ端が麻里の近くにあったんだ?」
「こ、これは・・・」
「嘘つくんじゃねぇよ!お前ら以外に誰がこんなことをできるって言うんだ!」
また顔を殴られる。口の中が切れ、血の味が広がる。
「さっさと認めやがれよこのクズ野郎が!」
今度は胸ぐらを捕まれる。
「歯ぁ食いしばれぇぇぇえ!!」
殴ろうとした瞬間、寸のところで拳が止まった。その場に似つかわしくない着信音が聞こえてきたのだ。青年は舌打ちをすると、俺を蹴飛ばして立ち上がった。そして電話に出ると誰かと話し始めた。
「あ、麻里?今麻里を襲ったやつをどついて・・・え?般若のお面をつけた男!?・・・うん、それで・・・うんうん・・・あーなるほど、分かったわ、そいつ見つけたら関節逆にねじ曲げて土下座させとけばいいのよね?」
会話が終わるとスマホを仕舞って、俺の方へ歩いてくる。そして両手を合わせると頭を下げて謝ってきた。
「ごめん!」
「いや、わかってくれればいいんだ」
「本当に悪かった、お詫びとして怪我の治療をさせてよ!」
「そうしてくれると助かる、頼む」
俺は青年に治療してもらうことにした。青年が手をかざすと傷がどんどん塞がり痛みも引いて行った。ついでに凛子と絵梨佳も治療してくれた。
「これでよしっと、他に怪我はない?」
「ああ、大丈夫だ」
「よかった、それとさっきの話だけど、あれは嘘じゃないんだ。俺達は何もしていない」
「麻里から電話があって般若の面をつけた男に襲われたったて」
「般若の面の男・・・」
「知ってるの?」
「まあな」