「この度は誠にご迷惑をお掛けしたことをお詫びに!!」
「そんなにかしこまらなくてもいいのに」
デカい風呂敷包みを隣に置いてアジトで土下座をする一人の青年。先日、社を調べていたところ、荒らしと間違われた上に青年の妹を傷つけた濡れ衣を着せられたのだが、寸のところで誤解が解けて、謝罪のために青年とその妹がやって来た。
「しかし、謝罪の気持ちも込めてこれを」
風呂敷から取り出したのは、肉や野菜などの食料品である。
「あら、ありがとう・・・」
「あの土地で取れた野菜と山で取れた猪や鹿の肉となります」
「え、いいの?」
「はい、もちろん」
「じゃあ、遠慮なく・・・」
「猪と鹿はどうやって仕留めたんだ?」
「殴ってこう、絞めた」
青年の説明に俺達は目が点になる。脳筋にも程がありすぎる。
「お兄ちゃんここに来るときも電車使わないで走ってたもんね」
「車に乗るより早いし」
「マジかよ・・・」
「そう言えば、名前は何て言うの?」
「伊月暁人です。で、妹の麻里です」
青年は暁人、妹は麻里と言うらしい。
「俺はKKだ」
「凛子よ」
「私は絵梨佳」
《僕はエドだ。で、隣にいるのはデイル》
「大体分かった。それで一つ聞きたいことが・・・」
「般若の面を着けた男だろ?」
「その通り、これ見た時にてっきりおめぇらがやったのかと勘違いした」
「お兄ちゃん私のことになると周りが見えなくなるもんね」
「あの男についてだが、あいつは俺達が追っている奴で、あんたの妹を傷つけたのもあいつだ」
「やっぱりか・・・でも何で麻里を襲ったんだ?」
「それなんだが、俺の服の一部を奪っていったことを考えると、お前の妹を傷つけた犯人として俺達を始末しようとしたんだな。でも寸のところで妹が意識を取り戻したからチャラになった」
「そいつの写真あるか?」
《あるにはあるが》
エドはパソコンにあいつの写真を表示する。
「・・・今すぐあの野郎ぼっこぼこにしてやる」
いきなり暁人が血相を変えて立ち上がり、拳をばきばき鳴らして立ち上がった。
「やめとけ、返り討ちにあうだけだ」
「でもやらねぇと気が済まねぇんだよ!!」
「お兄ちゃん、落ち着いて」
麻里が必死に暁人を止めようとしたが、完全にタガの外れた暁人は聞く耳を持たず、直接行ってしまい結果・・・
「おい言え!お前がやったんだろ!言え!言えや!今すぐ言え!じゃねぇとさっきの倍殴るぞおっおっおっ!」
「は、はい・・・私が、やりました」
「よし!殺す!」
「ぐぼぁ!」
あいつの胸ぐらを掴んで拳を構えている暁人の姿を目にした。拳に血が付いている上、あいつの顔面も血塗れで白目を剝いている。
「おい、もうその辺にしておけ」
「いやまだだ!こっちは妹怪我させられてんだよ!全身の骨を粉砕してやらねぇと気が済まねぇ!」
「お兄ちゃん、もうやめて!死んじゃうかもしれないよ!」
俺と同じように暁人の腰にしがみ付いて必死に止めようとする麻里だが、完全に怒り心頭に発している暁人の耳には全く届かない。
「だったら治すだけじゃわれぇ!」
胸ぐらから手を離すと、脇腹に蹴りを入れて蹴っ飛ばす。あいつは完全に息絶え絶えの状態のところ、暁人が近づき、治療する。
「よし!これで存分に殴れる!」
「やめろぉ!」
「てかよくよく考えたら俺と麻里が暁人の腰にしがみついている状況でよく動けるな」
「だって鍛えてますから」
****
「私が掃き掃除なんて・・・」
「だって麻里が暴力はヤダって言うから」
頭にたんこぶができた状態であいつは境内の掃き掃除をしていた。その傍ら、俺たちは社でくつろぎ、暁人は狸をパシりに弁当を頼んでいた。
「お前今の今までこんな生活してたのか」
「だって頼れるのがああいうのしかなかったし、これお駄賃」
狸に冥貨を渡し、狸から大量の弁当を受けとる。
「お前それ何人分だ?」
「確か19人分だと思う」
「食い過ぎだろ」
「これくらい食わないと満足できない」
「にしても食い過ぎだろ・・・」
暁人は弁当の蓋を開けて、中のおにぎりやおかずを片っ端から食べていく。
「お前よく食えるな」
「だって食べないと腹が減るし」
《満腹中枢がぶっ壊れてそうだな》
あっという間にペロリと全ての弁当を平らげ、横になる暁人。腹は膨れず胃の容量は無限大なのではないかと思えてくる。
「まだ食い足りない」
「どんだけだよ」
暁人は追加で弁当を頼み、また貪るように食べ始めた。
「あ、あの、私の分は?」
「自分で買え」