あいのしるし 写真は時を留めるものだ。すぐに消え行く一瞬を切り取り、手元に置いておくことが出来る。
写真の中はそのように時間が止まっていても、写真自体は時の中に存在するものだ。慎ましく笑っている顔はかすかに色褪せ始めていて、通り過ぎていくものごとの無情さを目で教えてくれる。
止まっていられない以上、動くしかないのだ。残された人間は。
サイドボードの上、茶色い写真立てに収まった笑顔をぼんやりと見つめていた後藤に、
「穏やかなお顔つきになりましたね」
和尚は読経の時と寸分変わらない、腹に響くようなよい声でにこりと話し掛けてきた。
「そうなん、ですかね」
後藤ははて、と顔を軽く撫でて応える。その様子がすっとぼけているように見えたのだろう、彼はさらに柔和な顔になって、
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