全部俺の「おめーがそんなにトマトが好きだとは知らなかったぜ」
朝食の目玉焼きにかける醤油を忘れたと、台所に立った間の出来事だった。戻ってきた桜木の前で、流川は片頬を膨らませている。桜木は呆れながら卓袱台の流川の向かいに腰を下ろした。
「それとも俺には食わせたくねぇってか」
よく家に泊まらせてもらっているからと、流川の母親が持たせてくれた食料品のひとつであるミニトマトは、ヘタを取って洗ってから、それぞれの皿に半分ずつ、桜木が分けて入れたのに、流川が全部、引き取ってしまっている。流川がごくんと口の中のミニトマトを呑み込んだ。残った十九個の、大きくて真っ赤に熟れたミニトマトが、桜木が作ってやった目玉焼きを皿の淵に沿うようにしてぐるりと取り囲んでいる。
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