中身がない話「ゲホッ･･･ウグッ･･･ゴホッ･･･ッ」

畳の上に広がるつい先ほど胃に入れたものが目に入りさらに胃液がせりあがる気配がし
目をつぶる。
口の中でぶちぶちときれる麺の感触を思い出しては嗚咽でうなる。
わかってる。わかってんだよ黙ってろクソが。
昔の自分が見下した目で今の自分を見ているような気がして内心で悪態をつくなどという
阿呆のようなことをしたのは、幼いころ以来だった。

足元がぐらぐらする。死の気配がする。嘔吐ぐらいでは死なない。そうじゃない。
己が立つこの場所に「トラウマ」などをもって立っていることが駄目なのだ。

ドクンドクンという心臓の音がやけにうるさく聞こえる。
ああ思い出したくもない。

およそ生物とは思えない肉の塊が自分の身体にまとわりつく。
快楽と痛みには幾分か慣れているだから耐えられる

そう思ったのがすべての間違いだのだ。

耳に激痛が走った。鼓膜が破れる瞬間は嫌がおうにも声が漏れる
「ｷﾞｯ・・・・・・！！！！？！？」
それだけならよかったんだ。そのほどの痛みなら。
ふるわせるものがなくなって、音は水の中に入ったかのようにすべてがくぐもる。
痛みで中途半端に覚醒したのが最悪の方向へ向かわせた。

耳の中を進む肉の塊の感触、止めようともがくと体にまとわりついている別の肉の塊が
身体をしめつけて外側から抑えられ聞きたくもない声が遠くに聴こえる。
下から突き刺さった肉が本来はいるべきじゃない先に到達したとき
嘔吐とともに別の気持ち悪さを覚えた。

音はもうきこえなくなった。

耳から入った肉はどこへいった？ああ視界が光って何も見えなくなってきた。
嘔吐、嘔吐、嘔吐。
痛みはない、何をされてる。わからない、気持ちが悪い。苦しい苦しい苦しい

「・・・・さん、大鷲さん！！！」

ハッとして目を開ける。そこはいつもの自室で自分は畳の上でうずくまっていたらしい。
最近うちに転がり込んだ男が心配そうにこちらを見ている。

「なん、なんでもない」
胃液をぬぐい体制をたてなおして、吐いたものから目をそらす。
どう掃除するべきか、そう思案しているとふわりと体が空中に浮いた。

「っ！？」

抱き上げられている、何故

「おい、おろ･･･」
下ろせと言い終わる前に自分を抱きかかえた男は笑顔で言う
「体調が悪いなら行ってくださいよ！寝室に連れて行きますね！ああ、大丈夫です掃除は僕に任せてください！」
「いいから･･･」
「だめです！」
男は子供を叱るような顔をしこちらを見た。
ああ、情けない。なんなんだこいつ、クソが。

数分ぶりの子供じみた悪態を、男は脳内でもみ消した。