苛立ち俺の家は昔から地球外生命体対策の国家機関に勤める血筋だった。
それゆえ因果なのかただの不運なのかわからないが地球外生命体と遭遇する率は幼い頃から高かった。
いや、もしかすると一般人も結構日常的に遭遇しているが気づいていないのか、記憶を消されているのかも知れない。
ともかく俺には気づく目もあったし、記憶を消されない理由もあったそれだけだ。
ある日父さんが機関から支給される新聞を読みながら呟いた。
「次世代が有望で助かるなあ」
そう言った父さんの顔は寂しそうだった。
小さかった俺は父がなんでそんな悲しそうな顔をするのかわからずに、ただ、父が読んでいた新聞の中の賞状を持って写真に写っているやつに対して怒りを覚えた。
「よくわからないけれどこいつが父さんを悲しませたんだ」
そんなアホみてぇな思考だった気がする。
実際にはあの時父が悲しい顔をしていたのは「俺この歳の時賞状なんてもらったことなかったな」
とかいうクソみたいな理由だと聞いたのは、もう既に別の理由でやつを嫌いになった後だった。
それからすぐだ、俺がそいつにあったのは。
「今日から数日の間お世話になります、名椎仙狸といいます。よろしくお願いします。」
写真で見たそいつは職場体験だかなんだかでうちの幼稚園に現れた。
あの新聞に載ってたやつだってことにすぐに気づいた俺はその時決めた、
こいつがここにいる間に父さんの仇を打ってやると。
それからの行動は早かった。
やつが別のやつと遊んでいる間にボールを蹴ってやつにぶつけてみようとしたり
飯食ってる時にわざと皿を落として掃除させようとしたり
まあともかく子供なりにやつに迷惑をかけようとした。
そのどれもが全て未然に防がれて俺はキレ散らかしたわけだが。
ムキになった俺はその後もやつにくってかかった。
勝負を仕掛けては避けられ
隙をついて攻撃をしては避けられ
結局やつが職場体験を終わらせる頃には多分100回は嫌がらせや攻撃を仕掛けたがその全てをスルーされ、感謝文まで書かされる罰ゲームをさせられた。
最初こそ父を悲しませたことに対しての行為だったがいつのまにかむ気になっていた俺はとっくに父のことなんぞ関係なく自分の攻撃をものともしないやつを嫌いになっていた。
そして次に再開したのは俺が小学生になってからだ。
高校生になった兄が珍しくダチを家に連れてきた時、その中に見覚えのある顔がいた。
紛れもなくやつだった。
指をさして大声を上げた俺を見たやつはキョトンとしていて最高にムカついたことを覚えてる。
というか正直なところこの件に関しては今でも許せねぇ、わすれてんじゃねぇよボケ!
、、、まあともかく、その再会から俺はまた保育園の頃にしていた嫌がらせを再開させた。
やつの高校の近くで待ち伏せしては攻撃を仕掛け
うちに遊びに来ては攻撃を仕掛け
山にこもってると聞けば登って攻撃を仕掛け
そして全部回避されのされた。
「飽きないねーほんと」
そういって笑うやつの顔が毎回ムカついた。
その頃にはもうとっくにわかってたこのクソ野郎が一般的なやつとは違うってことぐらい。
そこらへんのやつなんかとは格が違う、
なんならうちの兄貴より、父さんより、強いってことなんて。
だからびびったんだ、兄貴が林檎なんか持って
「名椎の見舞い行ってくる」
なんて言うから。
無理やりついていった病院の一室でやつは俺を見るなり一瞬びっくりしたような顔をしてからいつものムカつく笑顔になった。
「今日は付き合ってやれないよ」
なんて言ったやつの頭には包帯がぐるぐる巻かれてたし、足も片足同じことになってた。
それをみたときに何かにムカついた。こいつにじゃない。
「アンタが負けたら誰が倒せんだよ、、、」
そう言ったらやつはまた一瞬びっくりしたような顔をしてから困ったように
「あー、、、別の寺とか神社のやつとか?あとはー、峰ん家のおやじさんとか?」なんて言うもんだから俺はぼやくしかなかった。
「てめーより弱いやつがてめーが倒し損なったやつ倒せるかよ」
俺は確かにあの時ムカついたんだ。
やつにじゃない。自分に対して。
理由はわからない。
ただ、なんでかわかんねぇけど、こいつより強くなりてぇな、そう思った。
あれからまた数年、地面に転がって夜空を見る。
視界の端に覗き込むやつがいてまたムカつく。
「結人クンさ、あきないねー、十分強いのに何が不満なの?」
飛んでくる言葉に舌打ちを打つ。
「十分」
それじゃあ駄目だ。
「アンタに勝てなきゃずっと十分止まりだ」
それだと駄目なんだよ、なんでかわかんねぇけど、駄目なんだ。
返事が帰ってこねぇ。ちらと声がしていた方を見ると拗ねたような顔のやつが目に入る。
「そんな俺の言葉指摘しなくていいジャン」
、、、何言ってんだこいつ。
「いみわかんねぇ、んなことよりもっかい勝負しろ」
「青天しながら言うことじゃないよね」
これで522回目の敗北。
いまだイラつきは止まない。