夢を見てるとこ悪いけど俺が山に篭る理由、まあそれは良く言えば
「煩悩無量誓願断」ってやつかもしれないけど
実際俺にとってはそんなかっこいいもんじゃない。
今は昔なんて大層な過去じゃないけど俺がまだ幼稚園児だった頃に話は遡る。
その頃の俺と言えばまあなんというか今よりも目立って浮いた存在だったと思う。
今だって別に浮いてないわけじゃあないけれど
なんていうかそうだな、あの頃は「森の中に近代的なビルがある」とか、「街中に曰く付きのオンボロな幽霊屋敷がある」そんな感じの浮き方だった。
「またせんりくんがウソついたー!」
「ウソつきー!!!」
周りの奴らは口々に俺を指さしてはそう言った。
理由はと言えば俺が「空をとぶ龍を見た」だの「人に紛れた河童を見た」だの言ったせいだ。
そりゃあ一般の人は間違いなく俺を嘘つき呼ばわりするだろう。
でもあの頃の俺は無知だったんだ。
今であれば、世間にひた隠しにされている存在を「いる」なんて言ったところでこうなることは容易に予想がつくだろうが幼稚園児にはわからないことじゃないか?
それでなんと言うか、俺は傷ついた。
泣いて喚いても誰も信用はしてくれないし
親は親で「だからあれだけ黙っていろっていったろう」と呆れた顔をする始末。
いや、親が呆れるのは無理はないのだけど
やっぱり無知だった俺は「俺は悪くないもん!!!」と大声を上げたわけだ。
それから家を飛び出して俺は裏山に逃げ込んだ。
それも夕方に差し掛かるころに。
まー無事につれ帰られた時は大層怒られた。当たり前だ。夜の山は幼稚園児でもわかるほど「危ない」んだから。
山の中にいる時、俺はただただ岩の上に座って空を眺めつつぼーっとしていた。
最初こそぶつぶつと恨み言を言っていた気がするけど、ふと見上げた夜空が綺麗でどうでも良くなったことを覚えてる。
それから俺はよく山に篭るようになった。
別に人が嫌いになったわけじゃない。
誰も信じてくれないんだと落胆したわけでもない。
ただ言葉にまとめるなら「山には気を使う必要がないから楽」そんな感じだ。
「また大物をしとめたんだって?」
「尊敬してます!」
「おい、そんな気安く喋りかけるな、不敬になる」
「あの人はすごい人なんだお前も見習え」
だからこういう時ほんとにどんな顔すればいいか困るわけ。
ひさびさに大捕物に駆り出されたらこれよ。
こっちを向く目がキラキラしてるとなんか居た堪れなくなってくる。
たまあに感じるぎらついた視線の方がよっぽど楽だ。
「あの!あ、握手してもらっていいですか!」
「あ〜うんうんいいよ〜」
なんかまた知らない顔の子ふえてない?
そんなこと考えながら手を握る。
握られた相手の顔を見るとキラキラした目が眩しすぎて目が痛くなった。本当勘弁してほしい。
去っていく女の子を見送りながら一体この人たちに取って俺はどんな奴になっちゃってんだか。などと一人首を捻る。けれど答えは出ないまま時間が過ぎるもんだから俺は今日も
ため息をつきつつ目を逸らすように夜空を見上げた。