SWITCH 一生敵う気がしない。
それが昔から今、そしてこれからも変わらない二見先生への思いだ。
高校の時の出会いもそれは強烈で、物理的に目を覚まさせられて今の俺がある。
教育実習先で出会った無気力でやる気のなさそうなもっさりとした先生があの時の二見先生だなんて勿論気が付かなかったけど、やっぱり二見先生は二見先生で、俺とは全く違うやり方で変わらず信念を全うさせて生きていた。
敵わない。だからこそ隣でこれからも学びたいと思った。念願叶ってまた二見先生と今度は同僚として働けることになって、俺は勇往邁進の精神を持って先生の傍で働く──それが俺の人間的、そして教師としての成長にも繋がるはずだ──なんて、そんな確固たる意思でいたはずなのに。
なのに、どうしてだろう。この〝敵わない〟は二重の意味を持ってしまった。
「まだ慣れないのか」
不意打ちに、掠めるようにキスをされて固まった俺に、二見先生は呆れるように、それでも楽しそうな声を出した。こんなの挨拶みたいなものだろう、とでも言うように平然としながら再びPCに視線を戻す。多分週明けに配布する予定のプリントを作っているのだろう。
「だって急に……いや……そうですね。まだめっちゃ緊張します、正直」
観念してうなだれると二見先生はちらりと俺を見た。先生が学校ではわざと身なりに気を使わないようにしてるのをこういう時に有難いと思う。そうじゃなかったら男女問わず騒がれまくって大変だっただろう。ただ視線が合うだけでどきりとするくらいこの人は綺麗だし、やっぱりどうしようもなく惹かれてしまう。
それはこの人の教師としての在り方や、少しわかりにくい優しさ、思い切りの良さなんかも勿論ある。結局俺はこの人に、きっと昔から惚れてたんだ。
押して押して押しまくって、根負けさせるような形で付き合うようになってまだ日が浅い。それでもこんな風に二見先生からキスをされたりするようになって、俺は文字通り浮かれている。と、同時に動揺し過ぎてフリーズすることがある。今みたいに。
「あんなセックスしといてよく言う」
「あんなって……」
二見先生とセックスをしたのはつい最近のことだ。あの時は熱に浮かされたようで、どういう風に自分が振舞ったのかほとんど覚えていない。それこそ高校生みたいに全く余裕なんかなかった。ただ、腕の中の二見先生の色気にあてられて、それこそただただ夢中で抱いた。
「で? お前は金曜の夜に家に来てそろそろ夜も更ける時間に差し掛かるのにいつまでそうしてるんだ」
すぐ触れる距離を取りつつも様子を窺ってた俺に、二見先生は溜息をついた。
「……手、出してもいいですか」
「駄目と言ったら出さないんだな?」
「いえ、出します」
俺が覆い被さるといとも簡単に二見先生は後ろに倒れてくれた。首筋に顔を埋めると、普段絶対に聞こえない声が湿った空気と共に耳元に届く。
俺はしっかり見たんだった。
押し倒して倒れ込む時に、二見先生の口の端が少し上がっていたのを。
だから。
また夢中になってこの人を貪るスイッチが、頭の中でカチリと鳴った。