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    燐ニキ1714です。

    宿題の話「それでは、次の時間までに提出してください」
    「…………」
     学校の先生が言うことは、いつもニキにとって難しいことばかりだった。それは、授業だったり宿題だったりと様々だ。
     授業中はお腹が空いて集中できないから内容がよくわからないことが多いし、宿題を家族の人に見てもらいましょうと言われても、両親は海外にいるため無理だ。
     今日も家に家族がいることが前提の宿題が出た。親のフリをして自分で判子を押したり、母の字の真似をしてコメントを書き込んだりしたことがあるが、結構虚しいし寂しい気持ちになる。
     けれど、今は家でニキの帰りを待っている人がいる。そう思うとなんだかそわそわした。期待しすぎるのは良くないことはわかっている。だから、奇妙な同居人こと燐音が、ニキのお願いを断らないよう静かに祈った。




     平日、ニキが学校とやらに行っている間に燐音は図書館に行って本を借りたり、時間が合えば下校途中の近所の小学生から話を聞いたりしていた。子供といえどこの都会で暮らしている人間は自分が知らないことを知っていることが多い。本では得られない知識を得るために話しているうちに懐かれたりなんかもした。
     そうやって外に出ていることも多いが、ニキが帰って来る時間帯にはなるべく家にいるようにしている。あまり口には出さないが、子供なのに両親と離れて暮らしてるニキが寂しさを感じる瞬間があることを燐音は理解しているからだ。
    「ただいま〜」
    「ニキ、おかえり」
     読んでいた本を閉じてスーパーで買ってきた食材が入った袋をニキから受け取り、部屋まで運ぶ。冷蔵庫に入れるのは使用頻度が圧倒的に多いニキだが、疲れて帰ってきたニキを労る意味で短い距離だが毎回運ぶことにしている。
    「ありがとうっす」
    「これは今の俺の役割だ」
    「はあ、そっすか」
     ニキは燐音の意図がよくわかっていないようだが、それもいつものことだった。いつかきっと、燐音がニキを大切にする意味を理解してくれるだろう。
     冷蔵庫の前にニキが買ってきた食材を置き、後ろにずれると、すかさずニキが冷蔵庫の前に立ち、手際良く中に食材を詰め始める。その姿をなんとなく眺める。
     こちらの料理に詳しくなっても、これらの材料からニキが何の料理を作るのか、燐音は予想できない。それだけニキのレパートリーは多かった。
     ニキに出会った頃は食事は栄養を摂取できればいいと考えていたが、最近はニキの料理を食べるのが楽しみになっていた。実際、今も夕飯は何だろうと少しワクワクしている。自分の思考がこうも変わるなんて想像もしていなかった。ニキに出会っていなかったら、燐音にとっての食事は味気ないままだった。
     ニキが部屋着に着替えている間に暇になったので、ニキが帰ってくる前に読んでいた本の続きを読むことにした。ページをパラパラとめくっているとニキが戻ってきたので宿題とやらを始めるのかと思ったが、もじもじしている。
    「あ、あのね、燐音くん」
     何やら思い詰めた顔をしたニキが、燐音の前で正座する。ニキがこんなに強張ったところは見たことがないから何か大変なことがあったのかもしれない。真剣な話かと思い、燐音も佇まいを正す。
    「なんだ?」
    「あの……お願いがあるって言ったら、聞いてくれるっすか?」
     震えるまつげを伏せるニキを見て、胸がぎゅんとする。自分ができることならなんでもしてやりたいし、何からも守ってやりたいと思った。
    「なんでも言え。俺にできることなら叶えてみせる」
    「えっと、家庭科の宿題なんすけど」
     燐音の言葉を聞きパッと顔を輝かせたニキは、学校に持っていく鞄の中から青色のクリアファイルを取り出す。透き通ってはいるが、色が付いているので少々文字が読みにくい。顔を近づけた燐音の意図を察し、ニキはクリアファイルからプリントを取って差し出す。
    「僕が作った晩ご飯を食べて、これに感想を書いてもらいたいんす」
    「…………」
     なんだ、そんなことか。肩透かしだった。恐る恐る頼んできたから、もっとすごいことを強請られるかと思った。というか、燐音は無欲なニキに、もっとすごいことを強請られたかった。出会った時からずっとだ。
    「ダメ、っすか……?」
    「いや、ダメじゃない。……いつもとそう変わらないと思っただけだ」
    「あ、たしかにそうかも?」
     ホッとしたように息を吐いたニキは、プリントをクリアファイルにしまい直す。
    「家族に食べてもらってって書いてあるけど、燐音くんはもう家族みたいなもんだし、別にいいっすよね」
     ニキは何でもないように言ったが、燐音にとっては衝撃的な発言だった。
     たまたま拾ってもらった自分が、ニキにそこまで心を許されているとは思わなかった。
    「学校で教えられた通りに作るから、いつも作るご飯とちょっと味が違うかもしれないっす」
    「ニキの作るものなら何でも美味いから大丈夫だ」
    「えへへ」
     嬉しそうにニキは立ち上がり、いつものように夕飯を作り始めた。夕飯には早い時間だと思うが、ニキが楽しそうなので見守ることにした。
     出来上がった学校で教わったらしい料理は、いつものニキの料理に比べるとだいぶシンプルな味付けだった。だからといって美味しくないというわけではない。ただ、いつもニキが作る料理は、ニキの好みや癖が反映された、ニキの味なのだと燐音は初めて知った。
     燐音が最後の白米を口に入れる頃、ニキも同じように皿の上を綺麗にしていた。食べ終わるタイミングを見計らって、ニキは燐音を呼ぶ。
    「宿題には続きがあって、家族に感謝の気持ちを伝えなきゃいけないんす」
     箸を置いて、ニキは燐音を真っ直ぐ見つめる。青く透き通った瞳に目を見開いた自分が映っていた。
    「燐音くん、いつも僕と一緒にご飯を食べてくれてありがとう」
     ニキは頬を染めてはにかみながら笑った。
     毎日美味しいご飯を作ってくれて、故郷から飛び出てきた燐音を家に上げ、家族みたいだと言ってくれた。感謝の気持ちなんて、燐音が伝えるべきなのに。与えられてばっかりだ。
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