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    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
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    きたまお

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    兵長が傷ついた鳥を保護し、元気になったら放す

    ##エルリ
    ##進撃

    飛び上がった先に、それがいた。
     巨大樹の森はウォール・マリア領内にある。壁外調査の際に比較的安全が確保される場所であるため、工程に組み入れられることが多い。奇行種とおぼしき十五メートル級の巨人が、森の中まで入り込んでいた。届きはしないのだが、巨人が下から腕を伸ばしたり、幹に体当たりをしてくるのがうっとうしくて、立体機動装置を使って樹の上を目指した。
     さすがは巨大樹、地上より二十メートルの高さに上がっても、枝の幅は二メートル以上はある。ひょいっと身体を持ち上げたら、枝の根元、幹のすぐそばに先客がいた。
     最初に目に入ったのが焦げ茶色に黒の混じった平たい頭だ。頭に比して大きな真っ黒く丸い目。目の上のひとすじと、ほおはほとんど白に近い茶色だ。とんがった先をもつ下向きの黒いくちばし、翼の色は頭と同じ焦げ茶で腹には茶色の斑が入っていた。体長三十センチもなさそうな小さな鳥だ。
    「おっと、悪いな」
     人に驚いて飛び立ってしまうだろうと思い、リヴァイは言った。が、予想に反して鳥は飛び立たず、首を少し傾けてリヴァイを見ただけだった。よく見ると、左の足の爪の先が黒い。血だ。
    「なんだ怪我してるのか」
     一歩近づいても、鳥は動かない。さらに一歩近づくと、翼を横に広げた。右は完全に開いたが、左の翼の開きが悪い。
     突然、足下の枝がゆれた。端に立って見下ろすと、さっきの奇行種が肩から猛烈な体当たりをしかけていた。何度も何度も繰り返しやってくる。やつらは骨が折れようとも腕がもげようともめげないからたちが悪い。
     普段であれば、傷ついた鳥がいてもなにもしないだろう。ただ、この場所に残しておくには、首を傾けた鳥の目があまりに大きくつぶらだった。
    「チョウゲンボウだね。小さいけれど猛禽だよ」
     手巾でくるみ、懐に入れていた鳥を一目見て、ハンジは言った。巨人狂いの変人も、こういうときには役に立つ。
    「肉食だからたぶん、あんまり美味しくないんじゃないかなあ。小さいから可食部も少ないし」
    「食べるわけじゃねえ」
    「え、食べないならどうして大事に抱えているわけ」
     指を口にくわえたハンジから、リヴァイは一歩引いた。すぐ後ろにいた誰かにぶつかりそうになる。
    「おや、どうしたんだ、それ」
     エルヴィンがリヴァイの肩越しに覗きこんでくる。こいつも食べる口か、と思い、リヴァイは唇を曲げた。
    「怪我をしているのか。鳥の怪我の治療は大変だと聞くぞ。兵舎でできるか」
    「……連れて帰っていいのか?」
    「そのつもりなんだろう?」
     ああ、と答えてリヴァイは懐に抱えた鳥を布越しになでた。

     壁外から連れて帰る際には、モブリットが貸してくれた籐のかごにいれて自分の馬にくくりつけた。食べると言っていたハンジも連れ帰ってみたら、猛禽が休むにはこういうのが必要なんだ、と、麻布を巻き付けた止まり木を用意してくれた。
     チョウゲンボウは肉を食べるそうだ。兵舎の用務係に頼んで、ネズミとりにかかったネズミをもらった。チョウゲンボウをおいている馬房の隅にネズミを放すと、止まり木の上から目でネズミを追い、ふわりと飛び上がってからまっすぐネズミに飛びかかった。最初、じたばたしていたネズミはあっというまに動かなくなる。
    「ほう」
     獲物をとることをわすれないように、何度かやらせたが、惚れ惚れするような狩りを見せた。
    「リヴァイの鳥は、元気になってきたみたいだな」
     たまにはエルヴィンがついてきた。これもハンジに借りた革製の手袋をはめて、手にチョウゲンボウを止まらせてみせると、なぜかエルヴィンが非常に喜んだ。
    「人類最強と呼ばれるおまえが、そんな小さな鳥をかわいがっているとわかったら、民衆はどう思うだろうか」
    「かわいがってるつもりはねえ」
     必要以上に近づかないようにしていた。いずれ、この鳥は野生に還る。人と過ごすことに慣れてしまってはいけない。
    「その発想が十分かわいがっているんだよ」
     エルヴィンがリヴァイの肩に手をかけ、鳥の首筋を指の先でなでた。おまえのほうがよほどかわいがっている、と思ったがリヴァイは黙っていた。
     どうしてか、チョウゲンボウの羽毛をなでるとなにか懐かしいものを思い出すような気がした。子供のころには鳥の姿を見ることすらなかった。地上に来て、調査兵団に入ってからも、鳥は壁外に行ったときに高い空を飛んでいるものでしかなかった。なのに、なぜかふかふかの羽毛の手触りが、記憶を刺激する。安心するようであり、ときにひりつくような不安も感じる。
     雨が二日続いたあとの晴天日に、チョウゲンボウを放すことにした。
     ハンジはついて来たがったが、夕方までに仕上げなければならない報告書があるといって断念した。ひとりで行くつもりが、出発の直前になってエルヴィンが駆けこんできた。
    「遠出をするなら上司の決裁を仰いでもらいたい」
    「そんな遠くには行かねえ」
     馬をウォール・ローゼ沿いに駆り、カラネス区のほうへ向かった。トロスト区の内壁がまったく見えなくなったところで馬をとめ、立体機動装置で壁の上へあがる。
    「ほら、おまえがいたのはあっちのほうだ」
     壁の上から東の方角へ手を伸ばす。止まり木を覆っていた布を外すと、チョウゲンボウは黒い丸い目で首を左右に動かした。風が鳥の平たい頭の羽毛を逆立てる。
     止まり木と鳥の足をつないでいた鎖をはずす。革手袋の上に乗り移らせたあと、壁の端まで歩いた。
     腕を大きく縦に振ると、チョウゲンボウはふわりと浮き上がった。そのまま風に乗って上空へ舞い上がる。一度翼を大きく開いてリヴァイの頭上を滑空したあと、東の方角へ羽ばたいた。
     ——元気でな。
     一度傷つき、人に保護された野鳥が無事に生きていけるのか、リヴァイは知らない。別に知りたいとも思わない。
     壁から降りて馬をつないだところへ戻ると、芦毛の馬もいた。エルヴィンだ。ついてきていたらしい。
    「無事に放せたか」
    「ああ」
     リヴァイが馬にまたがるのを待って、エルヴィンが言った。
    「鳥は、いいな。あれこそ自由だ」
     そして、馬の腹を軽く蹴った。走り出す馬上で、エルヴィンの深緑色のマントが風をはらむ。そこにたなびくのは自由の翼。
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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

    recommended works

    きたまお

    TRAINING106話付近、ニコロが料理人として定着したあたりで、ニコロのご飯を食べる皆さん。初めのうちは海でとったものを食べるなんてどうかしていると思っていた。なにせ、人類は一年前に海に到達したばかりだった。ハンジ団長やアルミンは海にいる魚や虫みたいなもの、なにかわからない黒いぐねぐねしたものも夢中になって追いかけていたが、ジャンは気持ち悪くて触るのも嫌だった。
    「海の幸を食べないなんて、海に囲まれた島の人間としてあるまじきことだ。それだけでもおまえらは十分罪深いよ」
     大皿にどんどん料理を盛りながらニコロが言う。ニコロはマーレ人の捕虜だが、もとは料理人をしていたそうだ。自分の店を持つための資金作りとして、パラディ島調査船に志願し、あっけなくこの島で捕らえられた。口は悪いが腕はいい。
    「いやでも、これを食べるってどうかしてると思ったぜ」
     ジャンは大きな鍋から、真っ赤にゆであがった固い不気味な生きものを引き上げる。昆虫みたいに固い殻に包まれて、真ん中の胴体は四角形、足が左右に五本ずつ出ていた。一番上の足にはザリガニみたいなはさみがあって、気持ち悪いことに全身にびっしり短い毛のようなものが生えている。
    「でも、うまいだろ」
     言葉に詰まった。前回も最初は敬遠していたが、ニコロが 2217