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    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
    脳直に書いたら見直し一切せずにおいています。

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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

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    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

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    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

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    TRAININGニト中。「俺さあ、来週、ニートじゃなくなるから」
     金曜日に会ったとき、アパートのドアを開けたリヴァイにエルヴィンは言った。聞き返そうとしたが、エルヴィンはもうテレビのほうに向き直って、リヴァイの方を見ていなかった。こうなってしまうと、たとえリヴァイが部屋の中まで戻って、どんなに問いただしても無駄だ。経験で知っている。
     仕方なしになにも言わずに帰った。来週、と言われたからなるべく早くにまたエルヴィンに会いに行きたかったが、なかなかチャンスがなかった。土日はクソったれな母親の「神様」の活動に連れて行かれた。逃げ出すとあとが大変になることは経験で知っている。
     月曜は部活で残されて、火曜日はクラスメイトの金づるくんに誘われてゲーセンに行った(金づるくんの代理で格ゲーをやってランキングにのせて小金を稼ぐ。持つべきものは金持ちの友だ)。やっとエルヴィンのアパートに行けたのは水曜日の夕方だった。
     ニートじゃなくなるとは、どういうことだろう。リヴァイはエルヴィンのことをなにも知らない。住んでいる部屋と日がな一日ぶらぶらしていること、格ゲーはめっぽう強いがパズルゲームは大してうまくないこと、飲むのは焼酎 2377

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    TRAINING兵長の耳掃除をする団長。でもヨーロッパの人って耳かきしないらしいですね。リヴァイが自分の右耳に小指を突っ込んでいた。次に、右に頭を傾け、左側頭部を軽く掌底で叩いている。
    「よければ耳かき使うか」
     エルヴィンは机の引き出しから耳かきを取り出した。竹製の薄く細い精巧なつくりである。たまたまトロスト区の商店で見かけて入手したが、お気に入りの品だ。
     しかし、エルヴィンが取り出した耳かきを見たリヴァイは、露骨に眉間にしわを寄せた。
    「そうか、潔癖のおまえには他人の耳かきなど気持ち悪いだけか」
     しまい直そうとしたエルヴィンに、リヴァイが、あ、いや、と声をかける。
    「……使ったことがねえ」
    「そうなのか? 一度も?」
     リヴァイがこくりとうなずいた。もともとの小柄さとあいまって、とても実年齢には見えない。
    「耳掃除、してやろうか」
     そうと決まれば善は急げ。リヴァイに手伝わせて、長椅子を窓のそばに移動する。エルヴィンは日の光が当たっている側に座り、自分の膝を叩いた。
    「頭をここにのせなさい」
     長椅子の座面を見下ろしたリヴァイは口をへの字に曲げた。
    「おい」
    「この姿勢が一番都合がいいだろう。ほら」
     不承不承、リヴァイは長椅子に横たわった。黒髪の小作りな頭がエル 1227

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    TRAININGワンライ「優しさ」没ネタ、ニト保、ニートが相当おばか一回量は二錠とのことだった。エルヴィンは銀のシートから二錠押し出した。ころころと転がっていきそうな錠剤を、チラシの上に置く。でも、二錠ってなんだか少なくないか。どうせならまとめて処理しておきたい気もする。結局、シートから全錠取り出した。
     なにか押しつぶすものが必要だ。すりこぎみたいなものがいい。が、キッチンにいってもすりこぎはなかった。固くて重ささえあればいいわけだ。棚の隅にあったウィスキーのボトルを取り出した。これは、リヴァイがもらったと言って持ち帰ってきたものだ。保育士がどうしてウィスキーをと思うが、どうやら職場の父兄からの横流しらしい。詳しく突っ込んで聞いてはいない。
     こたつに戻って、白い錠剤にウィスキーボトルの底をあてる。力をこめると錠剤は簡単に割れた。ごりごりと茶色いボトルを転がして錠剤をただの粉にしていく。
     ——あ、なんか、悪いことやってる気分だ。
     労働もせずに昼間から家に閉じこもって、錠剤から白い粉をつくっているって、言葉だけ聞けば背徳的だ。だが、エルヴィンは悪いことをやっているわけではない。うん、悪いことでは、……ないはずだ。
     時間を見てお湯を沸かし始める。あ 2345

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    TRAININGファーラン→リヴァイ 一方通行リヴァイを知ったのは、つるんでいた仲間が聞き込んできた噂からだった。チビだがえらく強いやつがいる。たいていそういう噂は人のあいだを経るうちに、誇張されていくものだ。実際に見てみたら、たいしてチビでなかったり、特に強くもないということがよくある。
     今回もまた、その手合いだと思っていた。だから実物を目にしたときに、本当にチビで、恐ろしいほど強いのに驚いた。
    「てめえらは、死にてぇんだな」
     表情ひとつ変えずにリヴァイは言い、ファーランの仲間たちをあっという間に地面にたたきつけていった。ナイフを使うと聞いていたが、それを抜きもしなかった。盾にしていたラルスの巨体が地に横たわるのと同時に、ファーランは両手を挙げた。
    「待った待った待った! もう降参だ、これ以上痛めつけないでくれ!」
     容赦なくリヴァイの手はファーランの首元をつかんで締め上げる。ファーランよりも頭半分小さいのに、その手の力は恐ろしく強い。そのまま背中を近くの家の壁に押しつけられた。
    「俺にかまうんじゃねえ。二度とだ」
     解放され、ファーランはずるずるとその場にしゃがみこむ。去ろうとしたリヴァイの足に必死にしがみついた。
    「なあ 1792

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    TRAINING好きじゃないと言わなくちゃいけないへいちょ。まず、口うるさい。
     リヴァイの一挙手一投足について、ああだこうだと言う。机に向かってまっすぐ座れ、茶を飲む際に音をたてるな、食事は残さず全部食べろ、上官の話を聞くときにらみつけるな、同じ班の兵士とはうまくやれ、字は丁寧に書け、椅子で寝ないでベッドで寝ろ。無視をしてもこりずに何度も言ってくる。
     ハンジなどは、あんなに細かく言ってくるなんて、愛だよね、と呆れたように言う。
    「お母さんでもないのに、普通、大の大人に対してああは言わないでしょう。あ、別にリヴァイが小さいからエルヴィンには子供に見えているんじゃないかなんて言ってないよ」
    「うるせえ」
     たいして必要無いであろうときも、エルヴィンはリヴァイを近くに置いておきたがる。
    「リヴァイ、王都での会議に同行しろ」
    「リヴァイ、訓練には私も参加する」
    「リヴァイ、次の壁外調査では私の直属として動いてもらう」
     隙あらばずっと、エルヴィンは独り言ともつかないことを言い続けている。
    「王都に新しい店ができていてな、川沿いの四番街の先だが、もともとあのあたりは住宅街だったのに、最近は商店が増えている。住民たちの生活が安定して豊かになっているから 2195

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    TRAININGエルリワンライのお題「にゃんこ」で無理やり急いででっちあげ。「ひょっとしてリヴァイは猫なのかもしれない」
     エルヴィンがそう言いだしたのは、夜が明ける直前のことだった。団長がすでに何徹目なのかモブリットは知らない。モブリットは幸いにして、まだ二徹目だ。一昨日の朝、ハンジの実験につきあっていたら爆発が起きて、その破片が頭にぶつかって気絶した。
     その、数時間の安らかな眠りを提供してくれた直属の上司は、立ちあがって頭のてっぺんから奇声を発した。
    「いいねいいね! そうかもしれないよ、あれ実に猫っぽいじゃない。絶対、犬じゃない。あれは猫だよ、猫!」
     ハンジもたぶんエルヴィンに負けず劣らず寝ていないはずだ。この人たちの体力にはほんとついて行けないし、まったくついていきたくないとモブリットは常々思っている。
    「ハンジもそう思うだろう。まず、身のこなしが異様に軽い」
    「わかる。今度さ、立体機動装置着けないで屋上から突き落としてみようよ。どこから落としても、ちゃんと足から着地すると思うよ!」
    「分隊長、人殺しはやめてください!」
     この人は本当にやりかねないから怖い。それに、リヴァイにそんないたずらをしかけようとしたら、落とそうとした側が危険だと思うのだ。 1666

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    TRAININGなんでもない瞬間に自覚するえるり自覚をしたのはいつだっただろう。
     ささいなことだった。そのとき同室の兵が、咳払いのうるさい男だった。飲み食いしたり、話していたりするときはでないようだが、ひどいと十秒に一度、えへん、ごほごほとやりだす。ほかにも緊張しているときなどはでないようだ。つまり、自室でくつろいでいるときなどには間断なく出続けている。
     最初は無視していたリヴァイだが、さすがに二日も続くと気になって注意した。少し静かにできないのか。その兵は、悪い、気をつけると言ったが、ちっとも治る気配はなかった。本人でも治すのは難しい、無意識の症状なのだろう。何度も責めたところで、変わりはしない。無視しようとつとめたが、起きている間じゅう、ずっと続くえへん、ゲホッ、たまには寝ていてもベッドから響くゴホゴホは、確実にリヴァイをいらいらさせた。
     一度気になってしまうとだめだった。その日も、二段ベッドの下の段から聞こえてきた咳払いの声にリヴァイの意識は完全に覚醒した。暗い窓の外から見える月からすると、まだ真夜中だ。眠ることを諦め、ベッドから飛び降りると部屋を出た。
     月明かりが廊下の端の窓から入ってきていた。暗い廊下を進んでいくと 1775

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    TRAININGロッド・レイス巨人のところで久々に合流したエルリ夜明けまではまだ相当時間がある。
     普通であれば、せいぜい月の光しか届かない夜中に、地上からの赤い炎が空を焦がす。木々や草地が燃えている。あたりはずっと鼻をつまみたくなる焦げ臭い匂いが充満している。炎にあぶられて生木が割ける音、草が燃えさかるごうとした音が絶え間なくしている。白い煙、黒い煙が一帯を覆っている。
     リヴァイの視線の先では、赤黒い小山のようなものがうごめいている。四肢をつっぱり、先へ先へと進んでいる。地を削りまっすぐ進み、進行方向にあるものはすべて踏み潰している。林も、畑も、農家も、大地すらも巨体の下になり、潰れ、燃えかすになっていく。先ほどから馬車の荷台の上からエレンが声をからして叫んでいるが、効果があるようには思えなかった。
     そもそもリヴァイはエレンが壁外で巨人たちを操ったという現場にはいなかった。戻ってきた調査兵たちの証言をあわせると、どうやらエレンが操ったらしいという結論に達しただけだった。あの、意思もなにもない巨人を操るなどできるのかは疑問だった。本気にしたわけではない。女型の巨人にそれらしい行動があったので、いまはわずかな確率でも試さないわけにはいかなかった。 1564

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    TRAINING上司キースに悩むエルヴィン。ちょっとエルリ風味「調査兵団もこちらで不服はありませんな」
     憲兵団師団長が禿頭に手をやり、こちら側を見た。エルヴィンの右に座っているキース・シャーディスは、顔を下に向けたまま、目だけを動かしてエルヴィンを伺う。テーブルに着くほかの人員には見えないように、エルヴィンはあごをわずかに引いた。
    「はい、調査兵団も同意します」
     キースが師団長へ答える。総統局、憲兵団、訓練兵団の各首脳陣がやれやれと首や肩を回した。キースはうつむいたままだ。
     いつからか、団長のキースが部下であるエルヴィンに判断を仰ぐことが増えてきた。最初は些細なことだった。この兵士はどこの分隊が向いているだろうか、兵団の食料の仕入れ先を変更する必要はあるだろうか。エリックはスピードはあるが注意力にかけることがあるので、丁寧に部下を見るフラゴンの下が良いです、いまの出入り業者は憲兵団からの紹介で、仕入れ金額を憲兵団と握っている気配があるので、徐々に変えていった方がいいでしょう。
     そのうちに、キースの質問はどんどん増えてきた。調査兵団の後援になってくれる有力者はいるだろうか、いくらまで資金をひっぱれるだろうか、新兵の訓練メニューを作ってくれ、 2821

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    TRAININGのろける団長が書きたかったがあまりのろけなかったエルリ狂犬だとか野良猫だとか言われていることは承知していた。否定する気にもなれない。地下街ではたまたまファーランとイザベルとつるんでいたが、もともとひとりが性に合っている。
     だが、世の中には物好きがいるもので、その最近入った狂犬とやらを見てみたいという御仁があらわれたそうだ。キースの部屋に呼び出され、渋面を作った団長直々に「一日だけある方の護衛を頼みたい」と言われた。
    「調査兵団は壁の外に行くのが仕事じゃねえのか」
     腕を組んだまま言う。机に肘をおいたキースがため息をついた。
    「そう言うだろうとは思っていたが、有力な後援者のご機嫌をとるのも必要なことだ」
    「俺はたまたま立体機動装置を使いなれて、巨人をそぐのがうまいだけだ。壁内で人間相手に手加減するなどできねえ。殺しちまう」
     事実だから仕方がない。殺すことは慣れていても、殺さないように手加減することは慣れていない。
     もう一度キースがため息をついて、顔を斜め上にあげた。視線の先にでかい金髪の男が手を背中側に組んで立っている。エルヴィンは大きな目をリヴァイに向けて口を開いた。
    「調査兵団の仕事は壁外を巨人から人類の手に取り戻すこと。壁外調査 1916

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    TRAINING兵長が傷ついた鳥を保護し、元気になったら放す飛び上がった先に、それがいた。
     巨大樹の森はウォール・マリア領内にある。壁外調査の際に比較的安全が確保される場所であるため、工程に組み入れられることが多い。奇行種とおぼしき十五メートル級の巨人が、森の中まで入り込んでいた。届きはしないのだが、巨人が下から腕を伸ばしたり、幹に体当たりをしてくるのがうっとうしくて、立体機動装置を使って樹の上を目指した。
     さすがは巨大樹、地上より二十メートルの高さに上がっても、枝の幅は二メートル以上はある。ひょいっと身体を持ち上げたら、枝の根元、幹のすぐそばに先客がいた。
     最初に目に入ったのが焦げ茶色に黒の混じった平たい頭だ。頭に比して大きな真っ黒く丸い目。目の上のひとすじと、ほおはほとんど白に近い茶色だ。とんがった先をもつ下向きの黒いくちばし、翼の色は頭と同じ焦げ茶で腹には茶色の斑が入っていた。体長三十センチもなさそうな小さな鳥だ。
    「おっと、悪いな」
     人に驚いて飛び立ってしまうだろうと思い、リヴァイは言った。が、予想に反して鳥は飛び立たず、首を少し傾けてリヴァイを見ただけだった。よく見ると、左の足の爪の先が黒い。血だ。
    「なんだ怪我してるのか」
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    TRAINING夜空を見ているエルリ。リヴァイが調査兵団に来て間もないころ、空を見上げているところに出くわしたことがあった。
     兵団本部から夜、帰ってきて馬房に馬をつなぎ、兵舎を見上げたら屋根の上にいた。リヴァイだとわかったのは、その影が非常に小柄だったからだ。いや、女性兵士を含めたら小柄な兵は他にもいる。エルヴィンは、それがリヴァイだと遠くから影になった全身像を見ただけで思ったし、もう少し近づいて月明かりが届いたとき自分の予想が正解であることがわかった。
     両手を腰にあてて、顔を斜めにあげている。風が吹き、長い前髪がゆれた。驚くほど細い腰だ。立体機動装置を使いこなし、また地下街で捕らえるときに格闘もしたから、細く見えても必要な筋肉がついていることは知っている。だが、こうして見上げてみると、その細さが際立って見えた。
     エルヴィンの両手ならば、指で作った輪にすっぽりと抱え込めるのではないか。
    「なんだ」
     頭上から声が振ってくる。声の後に、小作りな顔がこちらを向いた。エルヴィンがいることなどとうに気がついていたということか。
    「なにをしている」
    「俺の勝手だろう」
     吐き捨てるように言われた。言葉と一緒に実際、なにかの思い 1229