Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
    脳直に書いたら見直し一切せずにおいています。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 26

    きたまお

    ☆quiet follow

    クシェルが変容してしまった自分にがっかりする話。書き直しが必須。

    ##進撃

    産んだときは周囲の娼婦仲間に助けてもらった。もともと仲のよかったピア、イーダ姉妹だけではなく、客の取り合いをやっていたビルギットまでもが助けてくれた。
    「あんた、客の子供を産むなんてほんとバカだよ」
     ビルギットは娼館の元締めのテオからもらってきたと、お湯の入ったたらいを持ってきた。陣痛でもうろうとしていたクシェルはまともに返事もできなかった。
    「ほら、あと一息だよ、オランピア」
    「頭が見えている。もう一回だけがんばるんだよ」
     ピアは出産したことがあるらしい。イーダが取り上げたそうだ。生まれた赤ん坊は息をしていなくて、二人で泣きながら墓にもっていったと聞いた。不吉な話、と思ったがピアとイーダには悪気はない。地下街では身ごもっても、出産までこぎつけることがまれなのだ。ピアは死産であっても、そのあと体調を崩すこともなく、商売に戻れることができたので幸運な部類に入る。
    「はい、いち、に、さん!」
     ピアのかけ声とともにクシェルは下腹に力を入れた。陣痛で感覚のなくなった腹だが、どうすればいいのかはわかった。
     暗い部屋の中に、みゃあ、と猫の鳴き声のようなものが響いた。ビルギットの安堵の声が被さった。イーダは泣いているようだった。
    「がんばったねオランピア。元気だよ、すごく、元気だよ」
     同じく涙声のピアが言った。
     わたしは命を産んだのだ。クシェルは汗と涙を一緒に手の甲で拭いとった。

     無事に生まれたことを知ると、何人かがクシェルの部屋まで見に来た。テオからは祝いだと言って、地下街ではほとんど見たことのない鶏の卵をもらった。ほかにもなじみの客からのパンや布の差し入れがあった。
     最初の一ヶ月はピアとイーダの姉妹が本当に良くしてくれた。食事や水を届けてくれたし、汚れ物の洗濯もやってくれた。クシェルは赤ん坊の世話だけをしていた。
    「あたしの子供の代わりにも、この子には無事に育って欲しいんだよ」
     リヴァイと名付けた赤ん坊はよく泣いた。泣くのは生きているってことだからいいんだよ、とイーダは言った。クシェルのおっぱいを飲んでいるときと眠っているとき以外はずっと泣いている。
    「なにが悲しいの、リヴァイ」
     布でぐるぐる巻きにした赤ん坊を抱きかかえ、クシェルは狭い部屋の中をいったりきたりした。リヴァイが泣いているとクシェルも眠ることができない。いつも眠くて仕方なかったが、白いつやつやの肌をした赤ん坊は可愛くてしょうがなかった。この子のためならなんでもできるだろうと思った。地上で離ればなれになってしまった両親や、祖父へ感じていた愛とも違う。地下街へくるきっかけになった悪い男に対しての想いとも、赤ん坊の父親へ抱いていた憧れとも違う。自分がこの子を慈しみ育てなければいけない。使命感と同時に湧き上がる想いだ。
     二ヶ月目に入ると、そろそろ商売を始めないといけなくなってきた。クシェルはテオに頼んで、自分の特殊な状況を喜んでくれる客を探した。なるべく高いお金で買ってくれる少数の客に頼り、商売のあいだはピア、イーダの姉妹のどちらかに赤ん坊を見てもらった。
     半年たったころ、ピアが調子を崩した。客に殴られた傷がもとでひどい高熱をだし、そこから寝込むことが増えた。イーダもピアの世話をしなければならず、クシェルの手伝いにはあまり来てくれなくなった。ひとりで赤ん坊の世話をし、商売もするとなると一気にクシェルの生活は大変になった。商売のときも部屋に赤ん坊をおいておかねばならない。リヴァイが泣き出すと、客は興ざめして帰ってしまうこともあった。それならばまだよく、客が無力な赤ん坊に手をださないようにクシェルは身体を張って守らなければいけなくなった。
    「なにが悲しいの、リヴァイ」
     殴られ、蹴られた腕で赤ん坊を抱きかかえる。どんなに抱きしめても、ゆらしても赤ん坊は泣き止まなかった。乳首を口にふくませても吸わないことがあった。稼ぎが減って食事を減らしたクシェルの身体では、赤ん坊が満足できる量のおっぱいがでていなかった。
     リヴァイが立ち上がり、歩き始めたころ、ピアが死に、相次いでイーダが倒れた。ビルギットは客の男と逃げてしまった。歩き始めた子供はますます目が離せず、仕方なしにクシェルは客を部屋にいれるときにリヴァイを紐で柱に縛っておくようになった。
     どうしてわたしはこの子を産んだのだっけ。
     たまに浮かび上がってくる考えには気がつかない振りをした。地下街では捨てられた子供はたくさんいる。道ばたに座り込んだ、親のいない子供たち。あの中にリヴァイをいれてはいけない。つらい気持ちが強くなってくると、クシェルはリヴァイを産んだ日のことを思い出そうとした。ピアとイーダが泣いて祝福してくれたこと、仲の悪いビルギットまでが手伝ってくれたこと、テオにもらった卵でつくった卵焼きがおいしかったこと。
     毎日、必死に生き延びた。だが、クシェル自身、病を得て動けない日が増えてきた。リヴァイはゴミをあさって食べられそうなものを探してくるが、クシェルにはもう命をつなぐだけの気力がなかった。
    「おかあさん、おかあさん」
     リヴァイが呼ぶ声がする。
     生まれたときは本当に嬉しかった。おっぱいをあげていると、自然と愛しさがこみ上げた。どんなに疲れていても寝不足でも、赤ん坊の泣き声ですぐに目が覚めた。腕がしびれても何時間も抱っこし続けていた。
     なのに、いま、子供の声はクシェルの頭の中をかき乱していく。
     この子がいなかったら、と思ったことはある。一人であれば、もう少しましな暮らしができたかもしれない。病を得るような働き方をしなくてもすんだかもしれない。
     クシェルは変容してしまった自分に落胆する。一生この子を愛すと誓ったはずなのに。
    「おかあさん」
     だけれど、産まなければ良かったと思ったことだけは一度もない。
     その思いだけを抱え、クシェルは目を閉じる。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

    recommended works

    niesugiyasio

    INFO原作軸の冬のエルリエルヴィンはシガンシナでの冬のある日を思い出していた。あの年はなかなか冬らしくならなかったところに、急な冷え込みが訪れたのだった。エルヴィンは寒がりな方ではないが、突然の寒さにいくらかおののいた。
    凍てつくような空気に、思わず身を縮こまらせる。吐く息が白い。桶の水に氷が張っている。空はすでに明るいが、まだ日は差し始めていない。早朝の道を、ウォール・マリアの農地に向かう人々と、シガンシナ区の市中に向かう人々が行き交っている。
    エルヴィンは道の向こうにちいさな背中を見つけた。自由の翼のついた外套に、ちいさな頭。彼が何をしているのか、すぐには分からなかった。その場で足踏みをしては一歩動き、また足踏みをしている。足踏みといっても行進の訓練のような規則的なものではなく、地面を見下ろしながら無心に、かつ不規則に土を踏んでいる。しばらく見ていれば分かった。霜柱を踏んでいるのだ。音や感触が小気味よいのだろうか、背中が楽しそうだ。子どもみたいだ、と思ってしまう。鉄面皮と言われるほど表情の変わらぬエルヴィンの頬が綻ぶ。地下街は年間を通してさほど気温が変わらないと聞く。つまり、彼にとって、初めての冬だ。これ 2574