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    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
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    きたまお

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    エルリワンライの没

    ##進撃
    ##エルリ

    軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、診察だの、残った右上腕部の動きの確認が行われ、そのうちピクシス司令やハンジがやってきたので、エルヴィンのひげそりはどんどん後回しになってしまった。
    「あまり、てめえの顔が薄汚くなっていたから、見舞いの連中が来る前にきれいにしてやろうと思っていたんだがな」
     残っていた湯でリヴァイが手を洗い、カミソリとブラシの泡を落とす。
    「夢を見ていたよ。ずっと」
     記憶にある最後は壁外で馬にまたがったところまでだ。自分を守ろうとして、エーリックが巨人に食われるのが見えた。自分がここから離れて壁に到達せねば、ますます兵が死ぬ。無我夢中だった。聞かされた話では、壁まで自力で到達して、リフトで壁上に上げられるまでは意識があったそうだ。ずっと、エレンを奪還したから総員壁まで戻れと言っていたらしい。その記憶はない。一週間のあいだにも、なんどか目を覚ましていたそうだ。やはりその記憶もない。
    「ほう、いい夢でも見たか」
    「とんでもない。胸の悪くなる夢だ」
     真っ暗な場所にいる夢を見ていた。開けても闇、閉じても闇。自分の手足の感覚もないほどの闇の中にいた。このまま死ぬのだろうとおぼろげに思った。唯一残っていた五感は嗅覚だ。むせるような血の匂いの中にいた。
    「声がしたんだ。『思い出さなければ死ぬ』と言われた。たぶん死神のようなものがすぐそばに来ていた」
    「なにを思い出せと言われたんだ」
    「わからない。自分で考えろと言われた。しかし、なにも思い出せなかった。真っ暗で、身体の感覚もなくて、音もない。ただ血の匂いだけがしていた。もうこれは死ぬんだろうなと半ば諦めて死神の肩に手をおいたら……」
     あいまいでつかめない夢の記憶をたぐり寄せ、そこまで言ってエルヴィンは言葉を飲んだ。
    「身体の感覚はなくても手はあったのか。ずいぶん都合がいいもんだな」
    「所詮は夢だ。そうだ、そこで香りがしたんだ。急に身体を後ろに引っ張られるようにして、落っこちたんだ。背中からどこまでも落ちていくような気がして、目を開けたらおまえがいた」
     ひげそりの道具をまとめて桶にしまい、手を拭きながらリヴァイがベッドサイドに近づいてくる。
    「さっき言っていたことと、矛盾しているぞ。なにも思い出していないのに死ななくてよかったな」
    「いや、思い出したさ。石けんの香りで思い出した。匂いは記憶に直結しているからな」
     なにを、とはリヴァイも聞かなかった。清潔な石けんの香りは、エルヴィンの中でただひとりと結びついている。
     エルヴィンは枕元に来たリヴァイの手を取った。白い手を自分の頬に導く。まだ水気の残る手から香りが立ち上る。まちがいなく、リヴァイがひげをあたろうと用意した石けんの香りがエルヴィンに生へと戻る理由を思い出させたのだ。
     一度手を離し、リヴァイの肩をつかんで引き寄せた。あっけなく、細身の身体が胸に落ちてくる。
     夢の中で触れた死神の肩は、エルヴィンのあばらの下くらいの高さにあった。つかんだ肩の筋肉の固さも、厚みも、エルヴィンの知るリヴァイそのものだった。自分はリヴァイの姿をした死神に連れて行かれるのかと思い、それでよいと一瞬で認めた。なのに、結局はリヴァイを思い出させる香りで現世に立ち戻ってきた。
     残った左腕でリヴァイの肩を抱く。リヴァイが首筋に顔を埋めてくる。
    「おまえは、俺のいないところで死ぬんじゃねえ」
     ささやきが耳に届いた。
    「ああ。約束するよ。俺の……」
     最後の言葉はあまりに気恥ずかしく、口に出すことはできなかった。
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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

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