犬のフィガ口先生×大学生のミチル バイトを終えて、アパートの敷地に一歩足を踏み入れたミチルは、ふと覚えた違和感に、その場で立ち止まった。
十六夜の夜。満月を過ぎたばかりの月が、晩夏の夜空を冴え冴えと明るく照らしていた。駅から10分ほど歩いた静かな住宅街の片隅にぽつんと建っている二階建ての小さなアパートは、あまり新しくは無いけれど綺麗に片付けられていて、町並みの中に違和感なく馴染んでいる。
違和感の元を探して、きょろきょろと周囲を見渡してみるが、目に見えておかしなところは無かった。一棟しかないアパートの窓にはいくつか光が見えているが、そこで何か騒ぎが起きている様子も無い。念入りに確かめても収まらない胸のざわめきに、ミチルは斜めがけにしていた鞄の紐を、ぎゅっと握りしめた。何かを見逃したら、とてつもなく後悔するのでは無いか。そんな予感のようなものが、どうしても頭から離れない。
3422