はじめての、きらきら。二人で過ごす、他愛ない時間。
俺はベッドにもたれて本を読んで、隣でMCがD.D.D.で動画を見ている。
同じ空間でそれぞれ好きなことをする、そんな何気ない日常が幸せだと感じるひととき。
ふと、太ももに重みを感じる。
さっきまで隣で座っていたはずのMCがごろんと寝転び、俺の太ももに頭を預けていた。
「たまにはいいでしょ?膝枕」
「う、うん」
MCはそういうと、特に気にする様子もなく、再びD.D.D.に視線を向ける。
俺もまた、本に視線を向け…ようとしたが、MCが気になってそれどころではない。
一向に進まないページの端に見えるMCの髪。
俺は、MCの金色の長い髪が好きだ。
出会った頃から目を奪われていた。
天界では珍しく、俺は褐色の肌に黒い髪。
周りの天使たちの白や金の雰囲気に憧れがないわけではなかった。
そんな時に現れたMCという存在。
今の俺には大きすぎて、絶対に手離したくない、とてもとても大切な人。
そんな大事な人の綺麗な金色の髪。
本はそっちのけでMCの髪に見入っていると、いつの間にか、寝息が聞こえてくる。
視線を向けると、D.D.D.を見ていたはずのMCが、D.D.D.をぽとりと床に落とし、俺の膝枕で眠っていた。
「もう、風邪引いちゃうよ?」
一応声をかけてはみるものの、寝入ったばかりで一向に起きる気配はない。
かく言う俺も、体を預けて寝ている恋人が愛おしくて仕方がなく、しばらくこうしていたかった。
普段、触れられる距離にあるのにあまり触れたことのなかったMCの髪をそっと撫でてみる。
艶やかでコシのある、触るとキラキラ輝く髪。
いつも結んでいるゴムをすっと解くと、金糸がサラッと広がった。
「綺麗…」
思わず溜め息が漏れる。
「……ん…」
ふいに、MCの瞼がゆっくり開き、ぼんやりした瞳が俺を捉える。
「ごめん、起こしちゃった?」
「…ううん、マジ寝じゃないし…」
そう言いながら笑う顔は、明らかに寝起きのそれだった。
可愛い。
「…ねぇ、俺の髪、好きなの?」
「…えっ?…あっ…」
唐突に聞かれて驚いたけれど、よく考えると、先ほどからずっと、俺はMCの髪を撫で続けていた。
「…うん。キラキラして、サラサラで、触り心地が良くて…好きだよ」
俺は、なおもMCの髪を撫でながら答える。
「ふーん。…俺もね、シメオンの髪、好きだよ?」
「…えっ?」
思わぬ言葉にドキッとして、髪を撫でていた手が止まる。
「猫っ毛で、フワフワで、光に当たると茶色く透けるの。ずーっと触っていたくなる…」
そういうと、MCが下から手を伸ばし、俺の髪に触れる。
俺が、触りやすいように少し頭を下げると、MCはふわりと微笑みながら、俺の髪に指を差し込んでクルクルと指に絡ませて遊ぶ。
「俺…髪が好きなんて…初めて言われた」
俺は、初めての経験に呆然としていた。
天界では、背が高いとか、足が綺麗とかは言われたことはあったけど、髪を褒められたことはなかった。
そんなとこまで見てくれているなんて、本当に、俺にはもったいないぐらいの恋人だ。
「そうなの?じゃあ、俺が『初めて』だ」
そういうと、MCがくしゃりと笑う。
MCは、俺の「初めて」が好きらしい。
いつも、俺の知らないことがあると、嬉々として教えてくれる。
最近は、エッチなことの方が多いけど…。
でも、そんなMCのおかげで、知識も増えたし、知らない世界を知ることも出来た。
本当に、MCにはいつも、頼ってばかりだ。
MCが、髪で遊んでいた手でグイッと頭を引き寄せる。
されるがままに顔を近づけ、そのまま、お互いの唇が重なった。
こんなにあったかい気持ちを教えてくれたのも、MC、君が初めてだよ。
「…ねぇ、もっと撫でて?」
唇が離れると、MCが言う。
「もう、甘えん坊さんだね?」
「うん…シメオンにだけね」
たまには仕返ししてやろうと思ってからかうと、逆にもっと甘い言葉が返ってきて、不意打ちを食らう。
あぁ、好きだ。
MCには、本当に敵わない。
いつの間にか、MCが再び寝息を立て始める。
その寝顔を見ながら、俺もいつの間にか目をつぶり、二人で夢の中へと落ちていく。
二人で過ごす、他愛ない時間。
俺の、一生の宝物。