ルーキーの活躍にご期待ください。「大慶、なにをしているんだい?」
「えっ、ええー……他人事ぉ……」
およ、およよ……。この間、初めて戦場に連れ立った時の清麿くんって、多少なりとも俺に何か言いたげな、張り合いのある態度を取ってたじゃん! なぁにこの腑抜け具合。いったいあの凄味はどこへ行ってしまったの?
気付けば稀代の天才を床に組み敷いていた。まだお天道様も高い白昼に堂々と。俺ってこんなにふしだらだっけ? いやいや、新入りらしくピカピカの人間モドキ一年生だ。……しかし下敷きの彼はびっくりするほど無抵抗。俎板の鯉だってもう少しは逃げようと頑張るはずで。ここは大きな反応があって然るべきでしょうに! この際、全力の拒絶でもいいからさあ。平手打ちくらいは甘んじて受け入れても……いや、殴られたくはないけど。まだまだひよっこの俺は、歴戦の猛者たる彼の一撃を喰らえばひとたまりもない。蚊のように潰れてしまう。
戦装束を脱いだら途端にスイッチオフになるとは正秀から聞いていたけど、これは酷い。あの鬼神のごとき力強さが嘘のように立ち消えて、今の彼はホウ砂と洗濯糊の混ぜ物のようだった。糠に釘、豆腐に鎹、柳に風。字余り。大慶直胤、心の一句。
そうして無知シチュを据え膳で押し通す前に、俺の良心が根を上げた。今の状況はただの事故で、元よりどうこうする気などさらさらなかったけれども! 内番着の裾を自分で踏んで、すっ転んで。ぼんやりしていた彼に覆い被さった。予備動作満載で潰しにかかったのに避けもしない。のしかかられてもキョトン顔。退いたら退いたでまるで何事もなかったかのように起き上がって、それだけ。また元通りに真昼の光を透かす障子を眺めている。
俺のことなんてもう視界にすら入っていない。完全なるスタンバイモード。僕に用向きがないならお好きにどうぞ。たとえ勝手に部屋の中を弄って、盗人紛いの振る舞いをしたところで、清麿くんは俺へ鼻先すら向けないのだろう。まったく、本当に好きにしてしまうぞコノヤロウ。
苦節ウン年。正秀が頭を抱え、ついに匙を俺に向かって投げつけた理由が良くわかった。これは、病的。重症中の重症だ。道具意識もほどがある。――ねえ! こんな傑物のショック療法、新人に任せるには、あまりにも荷が重くなぁーいー?