傷跡 爪先で感じた、ざらっとした、嫌な感覚に──
それまで溺れていた、痺れにも似た甘ったるい心地よさが瞬時に吹き飛んだ。
「っ……! ごめんなさい」
「……なにが……っ?」
細い息を吐きながらの険しい目線、先輩は気付いてない。
「爪、引っかけちゃった!」
「……?、どこに……?」
「頬っぺた!」
ここまで言ってもまだ先輩は疑問顔。だけど僕は気が気じゃない!
──肌を重ねて、体温を移しあって、身体を繋げて、やがていつものとおり、感じ入るまま深く深く幸せに沈んでいた。
先輩だってそうだったと思う。
だから僕は、僕の名前を呼びながら、切なそうに苦しそうに、それでいて気持ちよさそうに眉間に皺を寄せた先輩が愛おしくてたまらなくて、キスがしたくて、その頭を引き寄せようとして、手を伸ばしたんだ。
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