「いつもと違う、気がする」
……鋭いなぁ。
確かに変えたものがある。
だけどそれは、おそらくどちらかと言えば消極的な変化で、僕自身ですらすでに意識の外だった。
だから、さすがだなぁ、と呆れつつも僕は多分、嬉しかったんだと思う。
「そうか、香りが少ないんだな」
勿体ぶるつもりはなかった、すぐに答えを教えるつもりだった。
なのにそれより早く、頷きながら当てられてしまったものだから、僕はこみ上げる笑いを堪えきれなかった。
それがくすぐったさから出た笑いだとでも思ったんだろう、離れようとした先輩を引き止めて、大丈夫、と示してから理由を話した。
香りは痕跡になり、足掛かりになる、よって潜む機会の多い自分には不向きで、これまでのものより少ないものを見つけたから変えたのだと。
納得した様子で、先輩は、改めて僕に近付いた。
「うん、いいと思う」
頭上から聞こえる声が、随分と弾んでいるのは何故だろう。
「ここまできてようやく分かる」
撫でながら、先輩が鼻先を埋めているのは、洗い晒しでまだ濡れている僕の髪。
「だったらこれは、俺しか知らない」
ああ、そういうこと。
上機嫌の理由はそれか、と理解して、僕はまた笑ってしまった。
*・゜゚・*:.。【シャンプーを変えました】。.:*・゜゚・*