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    mizutarou22

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    桜が咲いたらしいのでテラディオで桜を見る二人の話です。

    色々な世界を見ていこう「教えてくださり、ありがとうございます。ナイジェル様」

    「いえ。それでは失礼いたしますね」

     ……? 何だろう? 

     私は遠くから聞こえてくる会話にまどろみから目覚めつつあった。今の声は……テランスと……?

     私はまだ完全に眠りから覚醒してないままぼーっとしていると、この場所、医務室におそらくテランスが入るドアの音がした。隣の部屋で「あら、王子様の騎士様。彼ならまだ眠っているわ」と声が聞こえてくる。今の声はここの医師、タルヤの声だろう。私はついいつものようにテランスに甘えたくなり、寝たふりを決め込むことにする。コツコツといつもの足音がしてテランスが私がベッドで眠っている部屋に入ってくる。

    「ディオン様……」

     テランスが私のベッドに近づき、私の肩に触れてくる。その囁き声は優しく耳に届き、私はまたこのまま二度寝をしてしまいたい気持ちになってくる。

    「ディオン様……起きてください……ついに咲いたのですよ……」

     その言葉に、私はハッとし、がばりと飛び起きた。隣にいたテランスは驚いた様子だったが、そんな私の様子に微笑んだ。

    「ついにか!? ついに咲いたのだな!?」

     私はドキドキと鼓動が高鳴るのを感じながらテランスに尋ねる。

    「ええ。もう満開だそうですよ。一緒に見に行きましょう。ディオン様」

    「ああ!」

     そう言って私はテランスに身体を支えられながら、植物園へと向かうことにした。

     あれから数か月……。オリジンが崩壊した後の私の身体はボロボロだった。激しい戦闘の影響、またドミナントではなくなったために身体が少しだけだが不自由になってしまったのだ。しかし医師のタルヤやキエルの薬のおかげで徐々に体の具合は良くなっていっている。だが、まだ身体を思うように動かすことが出来ず、毎日ここ、隠れ家でリハビリをする毎日を送っていた。

     そんな時だった。外大陸から『桜』という花の苗を、イフリートが混沌としたヴァリスゼアをまとめようと駆けめぐっているうちに、お礼として貰ったのだという。どうやらこの花は大きな木になるらしく、植物園で育てた方が良いのではないか、とイフリートは考えたようだ。私は『桜』と聞いて、心が躍ったのを覚えている。子供の頃、本で外大陸には『桜』という薄紅色の花を咲かせる大木があると、挿絵で見たことがあったのだ。挿絵だけでもその花は美しく、ぜひ見てみたいと思ったのだった。しかし『桜』という木は花を咲かせるのに年月がかかるらしく、子供の頃の私や、隠れ家の皆は落胆したのだった。

     しかし、それから植物園の人たちやイフリートが何とかできないかと、何かヴァリスゼアにある花やモンスターから『桜』の成長を促進するものが出ないか探すことにしたのだ。ハルポクラテス先生の本の力も借り、皆で協力して一日でも早く『桜』が咲くのが見たいと一致団結したのだった。

     そして……ついに咲いたのだと、テランスが言う。あの、『桜』が。

    「子供の頃……お前と一緒に『桜』についての本を一緒に読んだな」

    「そうですね……懐かしいです」

     私たちは植物園へと向かう為医務室を出て、テランスに支えられながら一歩一歩と歩いていく。

    「外大陸の花だからこの目で見ることは無いだろうと思っていたが……人生、何が起こるかわからないものだな」

     そう、私はオリジンへと向かったあの日、贖罪のために、もう戻ることは無いだろうと思っていた。テランスとも二度と会えないだろうと思っていた。

    「……」

    「……」

     まだ足元がおぼつかないまま私たちはゆっくりと植物園へと向かう。全てを置き去りにしたあの日。しかし私は生きて帰ってこれた。テランスとも再会することが出来た。私はテランスを置き去りにしたのに、再会した後、テランスは怒らなかった。ただただ私のために喜びの涙を流してくれた。

    「あ……」

     見える。綺麗な薄紅色が。隠れ家の皆がその花の美しさに笑みを浮かべている。子供たちが桜の木の下で跳ねてはしゃいでいるのが。私たちはゆっくりと階段を下りていき、植物園へとたどり着いた。

    「テランス……」

     はじめてこの目で見る『桜』の美しさに見惚れていたそのとき、さぁ……と風が吹いた。隠れ家の人々が歓声をあげる。『桜』の花びらが雪のように散ったのだ。桜の花々がテランスを包み、そして風の流れに身を任せて去っていく。それはあまりにも美しい光景で、思わず目頭が熱くなるのを感じた。子供の頃にテランスと一緒に見た本のなかの『桜』。一緒に見ることは叶わないと思っていた花。それが今、新しい世界となったこのヴァリスゼアで綺麗に花開いている。それを愛する者と観られるなんて、なんて奇跡なのだろう。

    「ディオン様……花びらが」

     するとテランスが私の髪にそっと触れてくる。私が身を任せていると、テランスの指先が離れる。その手に持っていたのは桜の花びらだった。さきほどの花吹雪で付いてしまったらしい。

    「ディオン様……生きていてくださって、ありがとうございます……」

    「……!」

     私が思っていたことを、テランスは気付いたのだろう。テランスは、涙を流していた。私たちは自然と身体が動き、離れないように抱きしめあった。

    「テランス……私は『生きる』ぞ……お前と共に」

     生きていなければ見られなかった風景。それはきっと『桜』以外にもまだ世界中にあるのだろう。テランスが私の言葉に頷くようにぎゅっと力を込めて抱きしめ返してくる。この温もりをいつまでも感じていたい……。私は顔をあげて、涙で頬を濡らしているテランスにそっと、口づけをした。唇を離すとテランスが笑った。その頬は『桜』のように薄紅色をしていた……。
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