涙を拭いて 痛い。苦しい。痛い。
身体中を槍で刺されたような痛みが走る。私は苦しさのあまり、何度も寝返りを打った。汗がふきだし、それが身体中に巻かれた包帯に染みこんでいく。はぁはぁと何度呼吸をしても肺いっぱいに空気が入っていないような感覚だ。
いつもどおりだった。いつもと変わらず、私は戦の場で顕現し、バハムートとなって空を駆けた。しかし顕現を解いた瞬間、ずきりと身体に衝撃が走り、そのまま倒れ、血を吐いた。
周りにいた私の部下たちの焦る声、重くなる目蓋、そしてそんな私の状態に気づき、向かって走ってくる私の最愛。
「テ、ランス……」
私は喘ぎながら、天幕の外で必死に私の快復を祈っているだろう恋人の姿を思う。
快復を担当する部下たちが私の簡易ベッドの周りで忙しなく動いてくれている。視界が部下たちに微かに遮られているが、私は視線を天幕の外にいるだろう彼へと向ける。
『ディオン! ディオンのバハムートの姿ってかっこいいね!』
『僕……っ、僕知らなかった……! ディオンがこんなに辛い思いをしてバハムートになってたなんて……それなのに……僕は……っ』
『ディオン様……どうか……どうか、御身をお労りください……私の……ために……どうか……』
頭の中で子供の頃から今の年齢になってまでのテランスの言葉がよみがえる。
大丈夫だ、テランス。私は大丈夫だ……。
私は耐えてみせる。この痛みも、苦しみも。お前のために……。
『……っ、く、うぅ……』
ああ……テランスが泣いているのがわかる。まだ顕現の力が身体の内側から支配しているのか、鋭敏に外にいるだろうテランスの声をひろってくる。
「テランス……泣くな……テランス……」
『ディオン様……っ、ディオン様っ……うぅ……!』
「泣かないでくれ……そなたに泣かれたら……私は……」
ああ、彼の涙を拭ってやりたい。傍に行って、抱きしめてやりたい。そなたの体温を感じたい。そして……口づけをしたい。
「頑張るからな……テランス……私、頑張るからな……」
私は瞳を閉じて、激痛に耐えながら、今も泣いているだろう恋人のことを、想った。