Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    スギモトカズ

    @hgmt4217

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 23

    スギモトカズ

    ☆quiet follow

    ⑧唇にキスをしないと出られない部屋

    #出られない部屋迷路

    突然現れた謎の空間に閉じ込めれて早一時間。こんな所、出来ることなら一刻も早く出たいのは山々だが、扉どころか窓一つない。壁や床も一通り調べては見たが隙間もつなぎ目さえも見当たらない。壁に貼ってあった唯一この部屋から出られるヒントらしき張り紙に書かれてある事を信じるのならば今、一緒にこの部屋にいる相手と唇にキスをすれば出られる、という事になるのだが……

    「うーん、見事に隙間もないね」
    「そうだねぇ」
    「後は天井だけど、椅子もないし無理かな」
    「教官を助けた時みたいに肩車でもしようか?」
    「ははっ、班長じゃないんだし、俺が上に乗ったら萩原の肩が壊れちゃうよ」

    俺の隣で普段と変わらぬ穏やかな口調で笑っているのは警察学校の同期の一人、諸伏景光。一日の訓練を終え、いつものように五人で自習室にいたところ突然部屋が謎の光に包まれ、咄嗟に班長が隣にいた降谷の身を引き、そして俺が松田を庇うように押し出した所で一番奥に座っていた諸伏と共に光の中へ閉じ込められてしまったのだ。

    部屋の外には松田たちがいるはずだが声も聞こえないし、こちらの音も届いていないようだ。不自然な程にしんとした空間で自分と諸伏の呼吸が妙に大きく聞こえるが、普段から冷静な諸伏はこんな自体に陥っても焦ったりする様子は見られない。俺も大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

    「流石の萩原でも動揺してる?」
    「そりゃあするでしょ。諸伏ちゃんは落ち着いてるねぇ」
    「まぁ、驚いてはいるけど焦っても仕方ないし、対処法を考えた方が得策でしょ」
    「対処法って言っても……なぁ」

    体当たりしてもビクともしない頑丈な壁。出口どころか隙間も無ければ壁を壊す道具もない。食料や水はもちろん、酸素だっていつまで持つかわからない状況で俺たちにできる事があるとすればただ一つ……

    「どうする?諸伏ちゃん」
    「どうするって何が?」
    「何がって、そりゃあ……」

    壁に貼られた紙に視線を向ければ諸伏も同じ方角に目を向けた。

    「ああ、あれね。まぁイザと言う時には試してみるのもアリだと思うけど……でも松田を泣かせるのは嫌かなぁ」
    「それ、俺とのキスは嫌じゃないって聞こえるけど?それに泣くって陣平ちゃんが?いやいや、怒るの間違いでしょ?仮にキスしたとしても陣平ちゃんは諸伏ちゃんの事を怒ったりしないよ。俺は……ぶっ飛ばされると思うけど」
    「そう?まぁ何にしても気まずくなるのは嫌だし、萩原だって俺とキスするのは嫌だろ?」
    「嫌って言うより俺も陣平ちゃんと降谷ちゃんに殺されるから困るかなぁ。それでも諸伏の命には代えられないけどね」

    諸伏の命がかかっていたと分かれば半殺し位で許されるかもしれない。諸伏が相手でも命を助ける為の人口呼吸だと思えば出来ない事は無い。お互いいい歳の大人のだし、キスの一つや二つ、気に病むこともないだろう。そんな事を考えている俺に諸伏はしょうがないなぁ、と言わんばかりの困ったような笑みを浮かべている。

    「ん?俺何か変な事言った??」
    「いや、意外と萩原って自分の事には鈍感なんだなって。でもまぁ、心配しなくても俺たちがキスする必要はなさそうだけどね」
    「え?」

    そう言って諸伏がまたいつもの穏やかな笑みを浮かべたその時、今まで物音一つしなかった壁の外側からドカッ!!!と大きな音が聞こえてきた。扉も隙間も何もなかったはずのそこに細い筋が走り、もう一度ドカンッと何かがぶつかる音と衝撃が響き渡る。何度目かの衝撃でガコッッ!!!と扉の形をした壁の一部がこじ開けられ、さっきまで一緒にいた仲間たちの姿が見えた。

    「萩原っっ!!諸伏!!」
    「ヒロ、ハギ、大丈夫か?!」
    「おう、二人とも無事だったか!」

    声をかけられ、三人が部屋の中へ踏み込んだ瞬間、またしても目の前が光に包まれ、謎の部屋は跡形もなく消えてなくなり俺たちは元いた自習室に戻っていた。

    「あれ?え?!!戻……った??」
    「みたいだね」

    まるで漫画や映画のような出来事になかなか思考が追いつかずにぼんやりしているとバシッという音と共に後頭部に鈍い痛みが走る。

    「イテッ!!何すんだ松田ぁ!!」

    痛みの原因は隣に立つ松田の右手。拳ではなかったが、それでも容赦ない力で叩かれては目が覚めるどころか混乱が増すだけだ。現実離れした謎の空間から戻ってきたばかりの人間に対してあまりの仕打ちに思わず声を荒らげてしまう。

    「いつまでもボーッとしてっからだろ。そんなだからあんな訳わかんねぇ部屋に閉じ込められるんじゃねぇか!!」
    「はぁ?!なんだよそれ!!松田だって俺が突き飛ばさなかったら一緒に閉じ込められてたかもしんないだろ?!!」
    「……ッ!!うるせぇ!!そもそも誰も助けろなんて頼んでねぇんだよ!!」

    余りの心無い言葉に思わず掴みかかりそうになった所で伊達班長から「とにかく今日はみんな疲れただろうし、消灯も近いから解散だ」と大きな身体と手で静止が入った。松田は不機嫌な様子のままさっさと部屋に戻ってしまい、班長がそれを追いかける。乱暴ではあるが人の気持ちを考えない奴ではないのに、一体どうしちまったんだ??そんな俺の疑問に答えるように降谷がぽん、と俺の肩に手を乗せ俺と諸伏が部屋に閉じ込められていた時の様子を教えてくれた。

    「松田も出入口探すのに必死だったんだよ」
    「降谷ちゃん?」
    「こちら側にも部屋から出る為の条件が提示されていたからな。部屋から出る為とは言え、理不尽に他人に強要されるもんじゃねぇ!!って、怒っていたよ。それにヒロを助ける為ならハギが躊躇しない事もアイツなら分かってたんだろ?だからそんな事をさせる前に絶対に助け出すって、ものすごい集中力で微かなモーター音から糸より細い繋ぎ目を見つけて工具で広げた所を班長と僕が体当たりでこじ開けたんだ」
    「そう……だったんだ」

    松田も俺たちの事を心配して俺たち以上に頑張っていたのだ。それなのに俺は松田が助けてくれるなんて考えもしないで、最悪諸伏とキスすれば出られるなんて考えてて……最低だ。

    「早く行ってあげなよ」

    自分の不甲斐なさに涙が出そうになっていた俺に諸伏はまたいつもの笑顔でそう言って背中を押してくれた。二人に礼を行って松田の部屋へと向かう。途中で戻ってきた伊達にも「がんばれよ」と声を掛けられ、気恥しくもそのまま松田の部屋ドアをノックし、深呼吸をしてからできるだけ落ち着いた声で呼びかける。

    「松田、俺だけど……入ってもいいか?」
    「……」
    「まつだ」

    返事はないが本当にダメな時はダメと言う男だ。俺はドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開けて中へと足を踏み入れるとベッドに腰掛けて俯く松田の前に立った。

    「あのさ、じんぺーちゃん」
    「……んだよ?」
    「その、えっと……俺、諸伏とはキスしてないから!!」
    「んなこたぁ分かってんだよ!!そもそもしてたら俺たちがこじ開けるよりも先にとっくにドア開いてんだろーが!!」
    「うん、助けてくれてありがとな」

    俯いたままの松田の顔が見たくてその場に膝をついて、下から覗き込むように見上げる。怒っていると言うよりは悔しい時の松田の顔だ。そしてやっぱり少し悲しそうに眉を寄せている。ああ、本当に諸伏をキスしなくて済んで良かった。これ以上辛い思いと顔を松田にさせてしまうところだった。俺よりも諸伏の方がそれを分かっていたのがちょっと……いや、だいぶ情けなくて悔しい。

    「……ったく、どうせお前は人を助ける為の人口呼吸くらいに思って誰彼構わずキスしまくるんだろうけどなぁ」
    「ちょ、人をそんな節操のないキス魔みたいに言わないで」
    「似たようなモンだろ?でも生憎俺はお前が俺以外の奴とキスするのを黙って見逃してやる程、心が広くねぇんだよ!!」
    「ま、つだ?……んッ!!」

    顔を上げた松田がそのまま俺の顔を引き寄せて唇を合わせてきた。互いの歯がぶつかってガチンと鳴り、痛みと伴う程の荒っぽいキスはいつもの何倍も熱く、ねっとりと絡み付き離れない。それに応えるように俺も松田の後頭部を抱き寄せて唇を吸い、舌を絡ませ互いの唾液を混ぜ合わせながら歯の裏や喉の奥まで侵していく。俺だってこんなキスは松田としかしないのだと、教え込むように。

    ようやく離れる頃には松田の唇が少し紅く染まっていて満足そうに指でなぞると、松田も同じように俺の唇を指で撫でた。きっと俺のも松田と同じ色に染まっているのだろう。まるでマーキングのようなその紅に、もうこれからは簡単に他人に触れる事を考えない事を誓った。

    「一緒に閉じ込められたのが松田なら直ぐに出られたのにな」
    「……ッ、ばーか。だったら俺だけ助けてんじゃねぇよ!」
    「だな。ごめん」
    「次はねぇぞ!」
    「りょーかい。次は一緒に……な」

    そう言って今度は触れるだけのキスをする。松田と一緒なら鍵があってもなくても、何度キスをしたとしても、部屋から出るには少し時間が掛かりそうだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖🙏😭🇱🇴🇻🇪💯😊😍💕💖💞❤❤💘💞💒🌋💯💯💯💴💴💴💒💒💒💘💘💘💘💴💴💘😍🍌🍌🍌💜💙💙💜💙💜💙💯💯💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    スギモトカズ

    DONE⑥走り回る子犬を5匹捕まえないと出られない部屋「萩原!そっち行ったぞ!捕まえろ」
    「いや、俺もう両手塞がってるし!おわっ」
    「くっそ、逃げられた」

    俺と松田が今いるのは『子犬を5匹捕まえないと出られない部屋』いや、部屋と呼ぶには余りにも広い空間。地面には草が生えているし天井や壁は空のようにも見える。だがそれ以外には何も無く、此処が何処なのかもわからない。

    草の上に落ちていた紙に書かれた言葉を信じるならば走り回る元気な子犬たちを5匹捕まえるまでここからは出られないという事になる。3匹まではどうにか捕まえたものの子犬を抱き抱えたまま、しかも残りの2匹は格別ヤンチャなようで楽しそうに逃げ回っていて、このままではとても捕まえられそうにない。はぁ、と一度腰を降ろして乱れた息を整える。

    「ちっ、あいつら楽しんでやがるな」
    「ほんと、ヤンチャだねぇ。まるでじんぺーちゃんと降谷ちゃんみたい」
    「あー?零と一緒にすんじゃねぇよ」

    犬に喩えられた事ではなく降谷と一緒の扱いにされた事に腹を立てる所が何とも松田らしい。

    「萩原、お前はその3匹とここにいろ。俺が捕まえてくる」
    「りょーかい。後で代わる」
    「いらねーよ」

    そう言って子犬たちの方へ 1536

    スギモトカズ

    DONE④一緒のベッドで一時間寝ないと出られない部屋「じゃあ寝るか」と言って徐にシャツのボタンを外し始めた松田に慌ててその手を止めた。

    「は?え、何でシャツ脱ぐの?!」
    「何でって、このまま寝たら皺になるだろーが」

    普段ガサツなくせに変な所で細かい幼なじみに「あー、うん。ソウデスネ」と棒読みで返事をした。

    「?変な奴だな」と言われたのは心外だが口に出して拗らせるのも面倒だ。確かに皺は気になるがどこの誰の物とも分からない部屋のベッドで寝ろと言われて服を脱げる程、警戒心は薄くない。

    そんな俺とは対照的に松田は何も気にする様子もなく脱いだシャツを畳んで床に置き、更に腰のベルトを緩めたスラックスに手を掛けた所でもう一度俺の上擦った声が部屋に響く。

    「ちょ、じんぺーちゃん、まさか下も??」
    「さっきから何だよ?外歩いてきたズボンで布団に入ったら汚れるだろ?」
    「いや、それは自分のベッドならって話だよね?」
    「リラックスした方が寝やすいんだよ。ほら、さっさと寝るぞ」

    そう言って脱いでしまったズボンも綺麗に畳んで布団に潜り込んだ松田の豪快さと警戒心のなさに頭を抱えた。知らない部屋やベッドというだけではない。人の気も知らないでそんなにも簡単 1092

    スギモトカズ

    DONE②お互いの頬にキスしないと出られない部屋「お互いの頬にキスしないと出られない部屋」そんな謎の空間に萩原と二人で閉じ込められて数分悩んだものの、試した方が早いとの結論に達した。

    萩原は楽しむかのように「じゃあ俺からね。はい、ちゅー♡」と頬にキスをされ、男同志で何やってんだか……と虚しささえ感じた。ただ、萩原の唇が触れた部分が妙にむず痒く感じて手で擦れば「えー、ひどいなぁ」と、少し寂しそうな苦笑いで返された。

    「じゃあ今度はじんぺーちゃんの番だね」

    そう言って少し屈んで差し出された頬にムカつきながらもさっさと終わらせてしまおうと唇を押し当てた。子供の頃にふざけて寄せあったふにふにとした柔らかさは微塵もなく、ガッシリとした骨格に薄くて硬い皮膚、そしてちくちくと刺さる短い髭。そのどれもが大人の男のもので、自分と同じはずなのに全く違う感触に驚き、すぐに唇を話してしまった。

    カチャン、と乾いた音と共に扉が開くのを見て何故か残念そうに「もっとちゃんとしてくれて良かったのに」と言った萩原の顔をまっすぐ見ることもできないまま「うるせぇ、開いたんだからいいだろ!」と答えて部屋を出たが、しばらく心臓の音はどくどくと煩いままだった。 496

    スギモトカズ

    DONE③お互いの好きな所を10個言わないと出られない部屋「じんぺーちゃんの好きなところかぁ。まず目かな。それと顔が可愛いし声もいい。後はやっぱり手だよね。指先器用ですっげー綺麗。くせ毛も可愛いし、ぶっきらぼうだけど本当は優しいし、一生懸命メシ食うとこも好き。そんで頭もいいし、ケンカ強いし、俺の運転付き合ってくれて、どこでも寝ちゃうのものもすっげー可愛くて好き。他にも……」
    「もう10個言ってるぞ」
    「もう?まだまだいっぱいあるんだけどなぁ」

    そう言ってニヤニヤと笑う俺を見て心底呆れた顔ではぁ、と短くため息を吐く松田の背後の扉には『お互いの好きな所を10個言わないと出られない部屋』と書かれた張り紙。元々人のいい所を素直に褒めることには抵抗ないし、ましてや松田相手ならいくらでも言える。短気で口も悪いけど心根は優しい男がオレは大好きだから。

    だから松田からも俺の好きな所を聞かせてもらえるのは嬉しいし楽しみだけど素直じゃない松田にとってこのお題はちょっと荷が重いかもしれない。

    「お前の好きな所……ねぇ」

    うーん、と少し考え込んでから俺の好きな小さな口がゆっくりと開く。

    「誰彼構わず愛想振りまくとこ」
    「へ?」
    「困ってる奴がいたら老若男女 1127

    スギモトカズ

    DONE⑤カラオケで100点取らないと出られない部屋『96.37』

    モニターに表示された数字に俺と萩原はガックリと肩を落とす。俺たちが今いる部屋は一見カラオケボックスのような空間だが、そこには扉も窓もない。『カラオケで100点取らないと出られない部屋』と書かれた壁の張り紙に唖然としたのも歌の苦手な俺ではなく萩原の方だった。

    萩原は昔から歌も得意で、自分の好きな歌手や女子ウケのいい曲をいくつもマスターしてはカラオケで披露していた。そんな萩原なら100点なんて余裕だろ、とタカを括っていたが流石に機械相手となるとそう簡単にはいかないようだ。

    「あー、もう!100点なんて無理だって~~」
    「泣き言言ってねぇでさっさと次歌え。いつまで経っても出られねぇだろうが」
    「じんぺーちゃんも歌ってよ!さっきから俺ばっかでズルい」
    「ばーか。お前でも難しいモンが俺に俺にできる訳ねぇだろ。時間の無駄だ」
    「そんな開き直るなって。俺も喉痛いし、ちょっと休憩するからその間練習だと思って歌ってよ」

    そう言ってマイクを渡され俺も知ってる萩原が好きな歌を勝手にセットされた。そりゃあ萩原ばかりに歌わせるのは悪いと思うが俺が音痴なの知っててわざわざ歌わせてくるのはム 1687

    スギモトカズ

    DONE⑧唇にキスをしないと出られない部屋突然現れた謎の空間に閉じ込めれて早一時間。こんな所、出来ることなら一刻も早く出たいのは山々だが、扉どころか窓一つない。壁や床も一通り調べては見たが隙間もつなぎ目さえも見当たらない。壁に貼ってあった唯一この部屋から出られるヒントらしき張り紙に書かれてある事を信じるのならば今、一緒にこの部屋にいる相手と唇にキスをすれば出られる、という事になるのだが……

    「うーん、見事に隙間もないね」
    「そうだねぇ」
    「後は天井だけど、椅子もないし無理かな」
    「教官を助けた時みたいに肩車でもしようか?」
    「ははっ、班長じゃないんだし、俺が上に乗ったら萩原の肩が壊れちゃうよ」

    俺の隣で普段と変わらぬ穏やかな口調で笑っているのは警察学校の同期の一人、諸伏景光。一日の訓練を終え、いつものように五人で自習室にいたところ突然部屋が謎の光に包まれ、咄嗟に班長が隣にいた降谷の身を引き、そして俺が松田を庇うように押し出した所で一番奥に座っていた諸伏と共に光の中へ閉じ込められてしまったのだ。

    部屋の外には松田たちがいるはずだが声も聞こえないし、こちらの音も届いていないようだ。不自然な程にしんとした空間で自分と諸伏の呼吸 3684

    スギモトカズ

    DONE⑦お揃いコーデで顔ピタ写真を撮らないと出られない部屋『お揃いコーデで顔ピタ写真を撮らないと出られない部屋』

    まるで写真館のように様々な衣装やカメラも用意された、だけど扉も窓もない空間に俺と松田は閉じ込められていた。

    まぁこの程度のお題なら何の問題もないし、むしろどんな衣装にしようか迷って部屋から出るのに時間がかかりそうだ。カジュアルな普段着からアイドルのような衣装、スーツにドレスに着物。ふわふわパステルカラーのパジャマや着ぐるみ。そして様々な制服やアニメキャラのコスチュームと思われるものまで幅広く取り揃えられている。

    どれも松田に着せたら似合うだろうし楽しみだなぁ、とウキウキしながら物色していると「おい、萩原こっち向け」と腕を引かれた。ふに、と頬に触れる柔らく暖かな感触と同時に松田が自分たちに向けたスマホからパシャリとシャッター音が鳴った。すると壁の一部が開き、外に出れる事を示してきた。

    「よし、出ようぜ」
    「は?え、何?!何で?!!」
    「何でって、元々同じ服着てんだし顔ピタ写真取りゃ出れるんだろ?」
    「お揃いって……え?まさか今着てる制服??」

    そう、俺と松田は共に警察学校に通っていて、同じ制服を着ている。お揃いと言えば確か 1156

    recommended works

    スギモトカズ

    DONE②お互いの頬にキスしないと出られない部屋「お互いの頬にキスしないと出られない部屋」そんな謎の空間に萩原と二人で閉じ込められて数分悩んだものの、試した方が早いとの結論に達した。

    萩原は楽しむかのように「じゃあ俺からね。はい、ちゅー♡」と頬にキスをされ、男同志で何やってんだか……と虚しささえ感じた。ただ、萩原の唇が触れた部分が妙にむず痒く感じて手で擦れば「えー、ひどいなぁ」と、少し寂しそうな苦笑いで返された。

    「じゃあ今度はじんぺーちゃんの番だね」

    そう言って少し屈んで差し出された頬にムカつきながらもさっさと終わらせてしまおうと唇を押し当てた。子供の頃にふざけて寄せあったふにふにとした柔らかさは微塵もなく、ガッシリとした骨格に薄くて硬い皮膚、そしてちくちくと刺さる短い髭。そのどれもが大人の男のもので、自分と同じはずなのに全く違う感触に驚き、すぐに唇を話してしまった。

    カチャン、と乾いた音と共に扉が開くのを見て何故か残念そうに「もっとちゃんとしてくれて良かったのに」と言った萩原の顔をまっすぐ見ることもできないまま「うるせぇ、開いたんだからいいだろ!」と答えて部屋を出たが、しばらく心臓の音はどくどくと煩いままだった。 496

    スギモトカズ

    DONE③お互いの好きな所を10個言わないと出られない部屋「じんぺーちゃんの好きなところかぁ。まず目かな。それと顔が可愛いし声もいい。後はやっぱり手だよね。指先器用ですっげー綺麗。くせ毛も可愛いし、ぶっきらぼうだけど本当は優しいし、一生懸命メシ食うとこも好き。そんで頭もいいし、ケンカ強いし、俺の運転付き合ってくれて、どこでも寝ちゃうのものもすっげー可愛くて好き。他にも……」
    「もう10個言ってるぞ」
    「もう?まだまだいっぱいあるんだけどなぁ」

    そう言ってニヤニヤと笑う俺を見て心底呆れた顔ではぁ、と短くため息を吐く松田の背後の扉には『お互いの好きな所を10個言わないと出られない部屋』と書かれた張り紙。元々人のいい所を素直に褒めることには抵抗ないし、ましてや松田相手ならいくらでも言える。短気で口も悪いけど心根は優しい男がオレは大好きだから。

    だから松田からも俺の好きな所を聞かせてもらえるのは嬉しいし楽しみだけど素直じゃない松田にとってこのお題はちょっと荷が重いかもしれない。

    「お前の好きな所……ねぇ」

    うーん、と少し考え込んでから俺の好きな小さな口がゆっくりと開く。

    「誰彼構わず愛想振りまくとこ」
    「へ?」
    「困ってる奴がいたら老若男女 1127

    スギモトカズ

    DONE④一緒のベッドで一時間寝ないと出られない部屋「じゃあ寝るか」と言って徐にシャツのボタンを外し始めた松田に慌ててその手を止めた。

    「は?え、何でシャツ脱ぐの?!」
    「何でって、このまま寝たら皺になるだろーが」

    普段ガサツなくせに変な所で細かい幼なじみに「あー、うん。ソウデスネ」と棒読みで返事をした。

    「?変な奴だな」と言われたのは心外だが口に出して拗らせるのも面倒だ。確かに皺は気になるがどこの誰の物とも分からない部屋のベッドで寝ろと言われて服を脱げる程、警戒心は薄くない。

    そんな俺とは対照的に松田は何も気にする様子もなく脱いだシャツを畳んで床に置き、更に腰のベルトを緩めたスラックスに手を掛けた所でもう一度俺の上擦った声が部屋に響く。

    「ちょ、じんぺーちゃん、まさか下も??」
    「さっきから何だよ?外歩いてきたズボンで布団に入ったら汚れるだろ?」
    「いや、それは自分のベッドならって話だよね?」
    「リラックスした方が寝やすいんだよ。ほら、さっさと寝るぞ」

    そう言って脱いでしまったズボンも綺麗に畳んで布団に潜り込んだ松田の豪快さと警戒心のなさに頭を抱えた。知らない部屋やベッドというだけではない。人の気も知らないでそんなにも簡単 1092

    スギモトカズ

    DONE⑤カラオケで100点取らないと出られない部屋『96.37』

    モニターに表示された数字に俺と萩原はガックリと肩を落とす。俺たちが今いる部屋は一見カラオケボックスのような空間だが、そこには扉も窓もない。『カラオケで100点取らないと出られない部屋』と書かれた壁の張り紙に唖然としたのも歌の苦手な俺ではなく萩原の方だった。

    萩原は昔から歌も得意で、自分の好きな歌手や女子ウケのいい曲をいくつもマスターしてはカラオケで披露していた。そんな萩原なら100点なんて余裕だろ、とタカを括っていたが流石に機械相手となるとそう簡単にはいかないようだ。

    「あー、もう!100点なんて無理だって~~」
    「泣き言言ってねぇでさっさと次歌え。いつまで経っても出られねぇだろうが」
    「じんぺーちゃんも歌ってよ!さっきから俺ばっかでズルい」
    「ばーか。お前でも難しいモンが俺に俺にできる訳ねぇだろ。時間の無駄だ」
    「そんな開き直るなって。俺も喉痛いし、ちょっと休憩するからその間練習だと思って歌ってよ」

    そう言ってマイクを渡され俺も知ってる萩原が好きな歌を勝手にセットされた。そりゃあ萩原ばかりに歌わせるのは悪いと思うが俺が音痴なの知っててわざわざ歌わせてくるのはム 1687

    スギモトカズ

    DONE⑥走り回る子犬を5匹捕まえないと出られない部屋「萩原!そっち行ったぞ!捕まえろ」
    「いや、俺もう両手塞がってるし!おわっ」
    「くっそ、逃げられた」

    俺と松田が今いるのは『子犬を5匹捕まえないと出られない部屋』いや、部屋と呼ぶには余りにも広い空間。地面には草が生えているし天井や壁は空のようにも見える。だがそれ以外には何も無く、此処が何処なのかもわからない。

    草の上に落ちていた紙に書かれた言葉を信じるならば走り回る元気な子犬たちを5匹捕まえるまでここからは出られないという事になる。3匹まではどうにか捕まえたものの子犬を抱き抱えたまま、しかも残りの2匹は格別ヤンチャなようで楽しそうに逃げ回っていて、このままではとても捕まえられそうにない。はぁ、と一度腰を降ろして乱れた息を整える。

    「ちっ、あいつら楽しんでやがるな」
    「ほんと、ヤンチャだねぇ。まるでじんぺーちゃんと降谷ちゃんみたい」
    「あー?零と一緒にすんじゃねぇよ」

    犬に喩えられた事ではなく降谷と一緒の扱いにされた事に腹を立てる所が何とも松田らしい。

    「萩原、お前はその3匹とここにいろ。俺が捕まえてくる」
    「りょーかい。後で代わる」
    「いらねーよ」

    そう言って子犬たちの方へ 1536

    スギモトカズ

    DONE⑦お揃いコーデで顔ピタ写真を撮らないと出られない部屋『お揃いコーデで顔ピタ写真を撮らないと出られない部屋』

    まるで写真館のように様々な衣装やカメラも用意された、だけど扉も窓もない空間に俺と松田は閉じ込められていた。

    まぁこの程度のお題なら何の問題もないし、むしろどんな衣装にしようか迷って部屋から出るのに時間がかかりそうだ。カジュアルな普段着からアイドルのような衣装、スーツにドレスに着物。ふわふわパステルカラーのパジャマや着ぐるみ。そして様々な制服やアニメキャラのコスチュームと思われるものまで幅広く取り揃えられている。

    どれも松田に着せたら似合うだろうし楽しみだなぁ、とウキウキしながら物色していると「おい、萩原こっち向け」と腕を引かれた。ふに、と頬に触れる柔らく暖かな感触と同時に松田が自分たちに向けたスマホからパシャリとシャッター音が鳴った。すると壁の一部が開き、外に出れる事を示してきた。

    「よし、出ようぜ」
    「は?え、何?!何で?!!」
    「何でって、元々同じ服着てんだし顔ピタ写真取りゃ出れるんだろ?」
    「お揃いって……え?まさか今着てる制服??」

    そう、俺と松田は共に警察学校に通っていて、同じ制服を着ている。お揃いと言えば確か 1156

    スギモトカズ

    DONE⑧唇にキスをしないと出られない部屋突然現れた謎の空間に閉じ込めれて早一時間。こんな所、出来ることなら一刻も早く出たいのは山々だが、扉どころか窓一つない。壁や床も一通り調べては見たが隙間もつなぎ目さえも見当たらない。壁に貼ってあった唯一この部屋から出られるヒントらしき張り紙に書かれてある事を信じるのならば今、一緒にこの部屋にいる相手と唇にキスをすれば出られる、という事になるのだが……

    「うーん、見事に隙間もないね」
    「そうだねぇ」
    「後は天井だけど、椅子もないし無理かな」
    「教官を助けた時みたいに肩車でもしようか?」
    「ははっ、班長じゃないんだし、俺が上に乗ったら萩原の肩が壊れちゃうよ」

    俺の隣で普段と変わらぬ穏やかな口調で笑っているのは警察学校の同期の一人、諸伏景光。一日の訓練を終え、いつものように五人で自習室にいたところ突然部屋が謎の光に包まれ、咄嗟に班長が隣にいた降谷の身を引き、そして俺が松田を庇うように押し出した所で一番奥に座っていた諸伏と共に光の中へ閉じ込められてしまったのだ。

    部屋の外には松田たちがいるはずだが声も聞こえないし、こちらの音も届いていないようだ。不自然な程にしんとした空間で自分と諸伏の呼吸 3684