ピロートーク【萩松】※リメイク「なぁ、陣平ちゃんはさ俺の事抱きたいとか思わないのか?」
「は?何だよいきなり」
萩原と身体を重ねてもう何度目になるだろう。今日もついさっきまで互いを貪り、熱を分け合い、欲を解放して、ようやく一息。行為の後の一服はまた格別で、枕元で煙を味わう。そんな俺を咎める事もなく、隣の男は俺の癖の強い髪に指を絡ませながらもピロートークと言うには微塵も甘くない話題を振ってきた。
「いや、勿論いっつも抱かせてもらってるのは嬉しいし、感謝してるんだけど、でも陣平ちゃんだって男だし、抱きたいとか挿れたいとか思ったりしねぇのかなーって思ってさ」
口調はゆるやかだけど、目は少し不安げに揺れている。こんな時の萩原の言葉は真剣で軽く聞き流してはいけないと、俺の本能が告げている。俺が萩原を抱く?そんなの……
「別に、今更なぁ」
「え、何?目覚めちゃった?」
「アホか。おめー以外になんてゴメンだ。抱かれるのが良いって言うよりは、正直抱くより楽だし、面倒が少ないからな」
「えー?何それ?」
俺の答えがお気に召さなかったのだろう。萩原が眉間に皺を寄せて不満げにぐいぐい顔を寄せ、距離を詰めてくる。ふくれっ面が妙に可愛い。そんな萩原の顔を歪ませてしまうのは少々勿体ないが、問いに答えるように俺は最低な言葉を口にした。
「女抱いてた時、セックスって面倒だと思ってたんだ。抜くだけなら自分ですりゃあいいし、まぁ気持ちいいのは確かだけど、それまでの工程?前戯とか、慣らすとか、言葉掛けとか、身体だけじゃなくて気持ちも気持ちよくするってやつ?そーゆーの苦手だしめんどくさくてな。こうやって終わってすぐタバコ吸っても怒られたしな」
そう言って吸い込んだ最後の煙を吐き出すと灰皿にタバコを押し付ける。案の定、萩原の顔はみるみる渋いものになっていった。
「ちょ…工程とか言うなよ。陣平ちゃんってけっこー酷い男だったんだな」
「うるせぇ。でもまぁ、確かにお前はそーゆーの全部マメにしてくれて、悪くねぇなって思うようになったし、ハギとセックスするのは好きだぜ」
「セックスだけ?」
「そーゆーところはめんどくせぇけど、まぁ、ちゃんと好きだぜ」
「ありがと、俺も好き」
たった一言でまた嬉しそうな顔に戻った萩原が唇を軽く合わせてくる。ったく、こんな話をしても許しちまうんだからどこまで俺に甘いんだか。
でも…………
「お前こそ、面倒じゃねぇのか?」
「何が?」
話のついでに俺もずっと抱えていた疑問を投げかけた。俺自身、女相手にも面倒だと思っていた事を、男の俺相手にしてくれているこいつは面倒だと思った事はないのだろうか?
「お前は準備も前戯も言葉掛けもしつこい位ちゃんとしてくれるし、身体の扱いも丁寧だから女にも喜ばれただろ?抱くのだって女の方がやわらかくて楽だろうし、わざわざ硬くて面倒なだけの男抱く必要なくね?」
「んーー、まぁ、確かに簡単じゃないし、俺も松田以外の男なんてゴメンだけど、松田相手なら準備も前戯も楽しいから面倒と思った事はないなぁ」
「そう、なのか?」
「だって準備してる時の陣平ちゃん、焦れったそうにして俺の事欲しがって、めっちゃ可愛いし」
「可愛い言うな」
「後ろだって、毎回初めてみたいにキツいんだけど、根気よく慣らしてゆっくり開いていくの楽しいんだよなぁ。最近は俺の事覚えてくれたのか、指で触るとひくひくして、俺の事待っててくれたみたいで可愛くて嬉し……」
「うるせぇ!もうだまれ!!」
あまりの恥ずかしさに隣にあった枕を投げつけようとするが、腕ごと掴まれそのままベッドへ倒される。見下ろしてくる萩原の顔は嬉しそうに笑っている。気恥ずかしくて視線を逸らすと髪をなでられ、目元にキスを落としてくる。ったく、どこまでも俺に甘く、優しい男だ。
「だからさ、んな顔で余計な心配しなさんな。言っただろ、俺は陣平ちゃんが好きで、陣平ちゃんするえっちも大好き。だから全然面倒でもないし、気持ちいい。んで、陣平ちゃんも俺が好きで、俺とするの気持ちいいなら最高に嬉しいよ」
「……だったらこれからもそれでいいんじゃねぇか?お前も余計な事考えずに俺の上で腰振って気持ち良さそうに喘いでりゃいいんだよ」
「ははっ。りょーかい。じゃあもう一回気持ちよく喘がせてもらおうかな」
萩原の目に欲情の色が孕む。優しいだけの時間はおしまいのようだ。まぁ、どれだけ行為に夢中になろうと優しい事に変わりはないのだが。
「いいぜ、来いよ。ハギ」
「丁寧にするよ」
「おめーのはねちっこいって言うんだ」
「でも好き、だろ?」
「……嫌いじゃねぇよ」
抱くのも抱かれるのも好きな相手だから
手間とも苦とも思わない。
好きだから、触れたくて
好きだから、気持ちよくさせたくて
二人で一緒に幸せになりたいと願うのだ。