リプきたカプのかわいいSSを書く(萩松)ピピピ……
聞きなれたアラーム音で目を覚ます。平日よりは少し遅い目覚めのはずなのに窓の外はまだ薄暗く、布団に入っていても背筋がぶるりと震える。今朝は随分と冷え込んでいるようだ。
エアコンの電源を入れようと手探りでリモコンを探すが見つからない。そういえば昨夜は休み前という事もあり、いつもより盛り上がった為か途中で松田が「あつい」と言ってエアコンを切った事を思い出した。その後、リモコンがどうなったか記憶にない、というか目の前の松田に夢中で気にする余裕なんてなかった。多分隣で眠っている松田の近くにあるか、ベッドの下に落ちている可能性が高いがすぐに布団から出る気になんてならない程、昨夜と違って部屋の空気は冷え切っていた。
ぼんやりと目を開ければ目の前には自分のものではないくるくるとした柔らかいくせ毛。寒いせいかしっかりと毛布に包まっていて目元しか見えない。普段は前だけを向いて意思の強い光を宿し、夜になればしっとりと濡れて妖艶な色香を放つ魅力的な瞳も眠っている時はまるで子供のようだ。そんな幼馴染で親友で今は恋人でもある松田陣平の寝顔をもう少し眺めていたいところだが、今日は貴重な二人そろっての休日。観たかった映画や買い物にでも行こうと計画していたのでゆるゆると松田の身体を揺さぶった。
「まつだぁ、朝だぞ。起きろー」
「……」
「映画行くんだろ」
「……さみぃ、から……もうちょっと」
普段は朝に強く、目覚めの良い松田だが寒さには弱く、冬の朝はなかなかベッドから出ようとしない。良く見れば毛布はほとんど松田に奪われていて背中が冷えるのはこのせいか、と毛布を引っ張り取り返そうとするが、がっしりと抱え込んでいてびくともしない。
「じんぺーちゃん。俺も寒いから毛布独り占めしないで」
「……してねぇよ。毛布が俺の方にきたんだ」
「そんな訳ないでしょ。あと、エアコンのリモコン、そっちにない?」
「知らね、自分で探せ」
「もー、なにそれ。俺は風邪引いても良い訳?」
松田の傍若無人っぷりはいつもの事だが本当に風邪を引いたら困るので毛布は別々にしないとダメだな。
今日出かけるついでにもう一つ毛布も買うかぁ、とぼやきながら部屋を温める為にリモコンを探しに布団から出ようとしたその時、松田に手を引かれ毛布の中へと引き戻されてしまった。
「おわっ!ちょ、松田?急に引っ張ったらあぶねぇだろ」
「……ダメ、だ」
「は?何が??」
うっすらと開いた瞳はまだ夢うつつで微睡んでいて、昼間とも夜とも違う、朝の一時しか見られない特別なもの。少し掠れた声と寝言のようなふにゃふにゃとした口調でダメだと言われても何の事なのかわからない。
「松田?」
「お前と一緒に包まる毛布が好きなんだからよ」
「へ?」
「だから毛布買うとか言うんじゃねぇ」
「え、と……あ、ハイ」
頭は真っ白になりながらそう答えれば満足したのか松田はもぞもぞと俺にも毛布をかけながら抱きついてきて、そのまま眠りの世界へと逆戻りしてしまった。
「え……何??こんなの反則じゃない?」
こんな事をされてしまったら毛布も買えないし、布団からも出られない。しかもこれ、絶対無意識でやってるから本当にタチが悪い。
はぁ、と色々諦めのため息を吐き、映画は後回しにしてお望み通り一つの毛布で可愛い松田のぬくもりを感じながら二度寝を堪能する事にした。後でどうして起こさなかったんだ!と文句を言われそうだけど、その時は全部松田のせいだと言い返してやる。そんな事を心に誓いながら目を閉じた。