もろはのナイフ 今は昔。いつのことだったか、ユリウスがなにがしかの祝いにとプレゼントをくれたことがある。
「色々と迷ったんだがね、実用的なものにしたよ。一回くらいは形ある物を贈らせてほしかったんだ。君は物にとんと執着しないから」
そう言って差し出されたのは、ヤマブドウの実のような深い紅色のベルベットを張られた細長い木箱だった。銀色の細い刺繍でブランドロゴと「常にあなたと共に」といったような企業文句が流麗なラインで施されている。まるでジュエリーボックスのようだ。アルベールはひそかに口の端を引き攣らせた。
親友の言うように物にさして頓着しないアルベールだが、それでも間違いなく高価なものだと長めの毛足の布地から察することができる。目利きがさほど得意ではない己をも萎縮させる程度には、その箱はズシリと重たかった。
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